@akirenge
半分に切り分けたホットサンドを口に押し込む。
中身は卵とスライスチーズとウィンナーだ。何度も噛んで飲み込んだ。口直しに飲んだのはオレンジジュース、味はどうかと気にしている彼に彼女は言う。
「美味しいよ」
「良かった。主がそう言ってくれて。フライ返しの犠牲は無駄じゃなかった。弟が……名前は忘れたけど弟も後半は押したんだ」
「兄者!? 名を」
「膝さん、髭さんはいつものことだから、むしろ弟の存在を覚えているだけで……」
「……主……」
微笑みながら彼女の正面でホットサンドを食べているのは髪の白い青年だ。服装も白い。その隣でいつもと同じような反応をしている彼は髪の毛は兄よりも濃い色をしていて
服装が黒い。兄の方を髭切、弟の方を膝丸という。朝食を作ってくれたのはこの二人だったが、話を聞いている限りでは膝丸が殆ど作ったらしい。
フライ返しの犠牲というのはこのホットサンド、ホットサンドメーカーを使わずにフライパンにホットサンドを押しつけることで作ったらしいが、押しつけすぎたせいで、フライ返しが折れたようだ。
朝食はホットサンドと野菜のスープだ。肉も一部は入っているが野菜重視である。
「上から通達があったけど、今日から限定鍛刀が出来るんだろう。小烏丸」
のんびりとした声で髭切が言う。
上が通達をしてきた限定鍛刀、たまにやるのだがこの期間内だけ出来る鍛刀のことだ。今回は小烏丸という太刀が鍛刀できる。鍛刀できるとは言っても、刀そのものが来るわけではない。
刀剣男士として顕現するのだ。刀剣男士は刀剣が人の形となった最強の付喪神であり、彼女は審神者、審神者は物の心を励起する技を持ち、刀剣男士を束ねる主だ。
とある世界の未来、歴史修正主義者を名乗る者たちが自分達の歴史の修正を宣言して歴史に攻撃を仕掛け、それを時の政府……この世界の政府……は審神者を派遣し、刀剣男士に
敵と戦って貰うことで歴史を守っていた。
「出来るね。平家の刀とか聞いていたけど、どちらかというと刀剣の父って思ってるらしくて」
報せに書いてあったこと話す。小烏丸だよ大包平はもう少し待って欲しいということが書かれていた。大包平は来て欲しいと想っている刀剣男士が居るのだが全く来ていない。
彼女も審神者をして長い方だがそれらしい知らせを聞いたことはなかった。
「平家か……」
「難しいかな。そこそこの距離感というか……そんなのでどうにか。平家を潰したのは源氏だからその点で見れば上のはず」
「その源氏も潰した後で身内争いして幕府開いたりとかしたけどね」
「身内争いは何処でもあるよね」
膝丸は複雑そうにしていた。ホットサンドを食べつつ彼女は膝丸を観察する。刀剣の逸話や持ち主のこともあってか、関係が悪い者もいるが、それなりにやってほしいものだ。
全員で仲良くしろとは言わない。それは無理。
「……主も身内争いを経験したことが?」
「あるある。審神者をやる前で、微妙な立場だったんだけどね」
審神者をやる前、について答えることはしないでおいた。
そのことについては他の刀剣男士が伝えているだろうが、世間一般の過去とは違う過去を生きて現在だ。身内争いについては知らないうちに始まっていて巻き込まれて立場がどうにか収まった。
参戦する気も無かったのに巻き込まれるのは勘弁して欲しい。
「僕や弟は知らないけれど、小烏丸。地獄の里でも手に入るらしいんだろう」
「秘宝の里ではなかったか」
「……地獄ってみんな言うんらしいんだよね。大事なのはカードを引く者のリアルラックだったから。……知らせのノリどうにかならなかったのかな」
政府の通達はこれからの予定もあった。小烏丸の限定鍛刀後に鍛錬として秘宝の里をやると言っていた。地獄の里というのは前にやった者たちがそう呼んでいる。膝丸と髭切が居なかった頃だ。
カードデッキが届いてカードを引く者ははソレを引いていくのだが、下手なカードを引くと毒を食らったり、敵もカードを同種だと引くたびに強くなるため、必要なのはカードを引く者の運である。
地獄が着いているのは淡々とした作業感溢れているところもあったからではあるが。
政府の通達を読んではみたが通販番組のノリで書かれていたりしたのだが、そこまでやってほしいのだろうか。
「ようやく里をリベンジする暇が出来ました、連隊戦も後でやるよ。戦線が安定してきた。ありがとう皆とか書いてあった気が」
「安定したのは良いことだよ。上は補填とかはしてくれるけどさ」
食べることに集中し始める。暇と言うがこの本丸は最前線に立てていた。最前線とは『延享の記憶』のことである。事件がいくつか重なりながらもこの本丸は日々を平和に過ごしていた。
近侍は二日交替で、今日は髭切だが髭切が心配だからと膝丸もついている。食事を終えてから部屋を出た。
食器を台所に持っていき洗ってから、鍛刀部屋に向かう。
「御主人様、やるんだろう」
「亀甲さん」
「――とっとと終わらせるぞ」
膝丸と言い、髭切と言い、彼等と言い白色ばかりだと想う。
一人は本丸では新参の方である亀甲貞宗、もう一人は、
「切国」
山姥切国広。
自分の初期刀で本丸内で一番長い付き合いだ。
「出ないなら、出るまでやろう。小烏丸、かな」
「主はかなり速く出す方らしいが」
「僕もそうだったらしいからね。御主人様にすぐ会えたのは嬉しかったけど」
「今度はもう少し大人しい奴だと良い」
髭切、膝丸、亀甲貞宗、山姥切国広が言う。彼女は気分を切り替えるようにして言った。
「さて、今日も一日、仕事しますか」
『結局、ナンセンスな問題なのよ』
背後に彼女が浮いている。
見なくても分かる。初めて出会ったときのように黒の長髪と赤い瞳を持った彼女が、加護者が囁くようにして言う。着ているのは黒のドレス、
自分も服は黒い。
「馬鹿げている、か」
『刀剣男士はヒトかモノか神かというのは適当な区分よ。根底にあるのは”貴方は意志のあるヒトガタにどんな態度を取りますか”ということだから』
「……説明で聞いたが刀剣男士は神格としてみれば審神者よりも上だが、刀剣としてみれば主と取れるから審神者を主と呼ぶのだろう」
『言い換えれば父母娘息子という四人家族があったとして貴方はお金を入れて家を支えているから一家の大黒柱で父です。でも態度とか気にいらなかったから離婚します。と同じ』
自分にしか聞こえない声が語っているで独り言のように見えるがいるのは自分と彼女とあれだけだ。
分かっていて。
分かっていて自分と彼女はそのやりとりを続けている。目の前に居る審神者だったものが、化け物になっていく中で、
「私が主だから好きにして良いんでしょう、か」
『それを適応し続けても許される状況ではなくなったということ』
彼女が微笑する。
楽しんでいるのだろう。そういうやつだ。
構築されていくのは彼女の力によって形成されていく大鎌だ。自分は戦闘系審神者に分類されるが、戦闘は最近控えているというか止められている。
しかし今回は自分で戦わなければならない。厄災ははらわないといけない。
「ヒツキさんは、渡さない」
宣言すれば人間の形を保っていた何かとなっていく。彼女の例えと刀剣男士が行えることはスケールの違いがあっても、同じなのだろう。
関係図というのは曖昧で、それでも自分にとっては一緒に居たいから居たいのだ。
自分ももしかしたら道を踏み外してしまうかも知れない。正しさにすがり続けて壊れてしまうかもしれない。
その怯えは、ずっとある。
『おやすみなさい。王子さまのいないシンデレラ。あなた、どこにいるか、わかってる?――もう、再びお目にかからない』
聞こえる声で彼女が言い、自分は大鎌を思いっきり相手に振り下ろした。
時の政府、西暦二千二百五年を基点とした政府は審神者関連や刀剣男士については派閥がいくつかに別れている。組織なんてそんなものだろうと彼女は想っていた。
「……澄み切りすぎてる」
後に数珠丸事件と纏めて呼ばれるその事件の一端。
とある本丸に彼女は訪れていた。本丸というのは特殊空間を術式制御して出来ているのが大多数だが、この本丸は綺麗すぎた。
「主、不用意に歩いては」
「誰も居ないよ。ここ」
へし切長谷部が咎める。
唐突すぎる仕事がいくつも振られてきた。数珠丸恒次の顕現関連で揉めていると聞いてはいた。いくつもの仕事というのは池田屋関連のノルマ……これだけ歴史修正主義者を
狩って欲しいというもの……が大量に送られてきたこと、次にとある本丸の調査をして欲しいというものだった。
自分だけで行けたのだが刀剣男士達が着いていくと聞かなかった。
「でも、おかしな空間だ」
燭台切光忠が言う。持たされた術式陣を出してマップだけ広げてみるが普通の本丸だ。普通というのは空間内に屋敷や庭が書き込まれ……存在している場所だ。
『――全てを何とかしたいと想ったことは、ある?』
唐突にその声は聞こえた。
(何だ。いきなり)
『刀剣男士は付喪神で刀剣でヒトでとか、その区分は馬鹿げているけれど、派閥争いの大元の一つよ。それで審神者が揉めたりとかして、犠牲になるのは審神者で刀剣男士やその他』
その他で彼女は纏めているが言っていることは分かる。派閥争いというのは、刀剣男士の扱いと審神者の扱いが主なのだ。
歴史修正主義者は倒す者で纏まっているところはあることにはあるが、検非違使は使えそうなら使って駄目なら逃げるか倒すである。
「加護者殿かい。僕や長谷部君、みんなにも聞こえるように言って欲しいんだけど」
『善意って怖いわよねぇ』
長髪の黒髪、赤い瞳、黒いドレスを着た彼女が現れる。燭台切光忠が強く言っていたが、受け流していた。
着いてきたのは燭台切光忠とへし切長谷部と蜻蛉切と蛍丸と厚籐四郎と鯰尾籐四郎だ。燭台切光忠とへし切長谷部は自分に着いていて、
他の面々は本丸内を調べていた。
「何を読んだ」
『――』
加護者が言ったのはとある刀剣男士の名前。
「……それが?」
『”犠牲になる刀剣男士と審神者を減らす。”彼は審神者と他の刀剣男士の願いを、皆の思いを受け取った。そして――』
音がした。
そこにいたのは影のような男だった。人間の枠組みにかろうじて収まっているような男、この本丸の審神者だったのだろう。空が割れる。
「検非違使……」
『本丸は術式の空間で、別に術式知識が無くても強い、とても強い思いがあれば、――を変化させることも可能』
「可能が成功しても、そんなものすぐに暴走する。全部が悲劇に見えるだろう。その可能性を考慮しなかったのか」
『しなかったのよ。悲劇に目が行ったから』
やりたいことがありそれにたどり着くための方法、それが術式だ。どんな魔術でも変わらない。付喪神は思いによって出来た神とも取れる。
ならば強い思いで刀剣男士を別のものに変えることは可能ではないのか。その可能をやれたのだろう。だが、
「主は、実に、そのひとり子をお与えになったほどに、世を愛された。それは御子を信じる者が、ひとりとして滅びることなく、永遠のいのちを持つためである。
神が御子を世に遣わされたのは、世をさばくためではなく、御子によって世が救われるためである……」
「ヨハネによる福音書。ですね。主」
かつての主の影響からか引用元をへし切長谷部が割り出す。新約聖書のヨハネによる福音書はキリストの弟子であるヨハネがキリストに関わったことなどを書いた書だ。
キリスト教と言えばこの教えと言われるような箇所である。
「全知全能の神が人になって弱い私たちに寄り添ってくれたと言うものだが……、まずはここを片付けるしかないか」
放置は出来ないと言うか刀剣男士を変えた審神者は残ってしまっている。思いは託したものの消滅することが出来なかったのだろう。
輪廻転生とか死後の判断はしない。言えることはあの審神者は無造作に検非違使が喚べると言うことだ。暴走状態である。審神者の技術は素質を持った者が、
一定の手順を踏めば誰でも出来るようになっているが、言い換えれば範囲外のことをすれば歪みが生まれる。
武器を出そうとして、燭台切光忠に制される。
「主はやらなくていい」
「……アレが欲していると言うか餌、あげておかないと」
「自分で食べてくれないか」
他の刀剣男士達も集まってくる。検非違使達が現れる。審神者の方は理性も無いだろう。あったかもしれないが、狂っていそうだ。
燭台切光忠は加護者を嫌っている。
「主の手を汚させるわけにはいきません。審神者だった者は私が」
手っ取り早く言えば術の発生源を叩けば良い。発生源は審神者だった者だ。長谷部が名乗り出る。自分の背後で加護者が笑った。
『革命は、ひとが楽に生きるために行うものよ。悲愴な顔をする革命家なんて、信用出来ないし、貴方はどうして――を、もっと公然と楽しく愛して、私たちまで
楽しくなるように愛してあげることが出来なかったの。地獄の想いなんて貴方の苦しさも格別だろうけど、第一、はた迷惑よ』
「全くだ」
「行くぞ。私たちの練度で奴等も力が変わる」
それは数珠丸事件の中で纏められた言ってしまえば数珠丸恒次が全く関係が無いがこちら側としては大打撃を受けた一件の欠片。
歪められた刀剣男士が飛び出した本丸の後始末の、話。
『男の人って、消える際きわまで、こんなにもったい振って意義だの何だのにこだわって、見栄を張って嘘をついていなければならないのかしら』
加護者の声が聞こえる。燭台切光忠の言葉を聞いたのか、審神者だったモノの前に降り立つ。軒並み検非違使達を刀剣男士が倒していく中で、彼女は言う。
本来ならば自分の役目だ。武器を出してアレを切りつけるだけで良いのに皆に止められる。
『気の持ち方を、軽くくるりと変えるのが真の革命で、それさえ出来たら、何のむずかしい問題もない筈だったのにね』
彼女が手を伸ばして審神者だったモノに触れた。ガラスにヒビが入ったかのようにそれは砕けて、粉々になる。
残りは簡単で喚ばれた検非違使を破壊していくだけだ。改めて静まりかえった本丸で自分は特にすることは無かった。無くなってしまった。
「皆、ありがとう。……こっちが狩り出されるなんてなんて」
「人手不足が来たんじゃねえのか。大将。この手のは処理班の役目なんだし」
厚籐四郎が言う。確かにそうなのだ。上が荒れているらしい。
「帰ろうか。美味しいものを作るよ」
「まずは治療ね。燭さん」
槍が出てくれば早めに倒せなければ刀剣男士達は怪我をする。刀装と言う鎧兼補助武器は効かないのだ。
燭台切光忠が微笑を浮かべて自分に手をさしのべてた。手を取る。
『楽しくないの? 正義が振るえたのでしょう』
「分かっていて言っているだろうから答えるが楽しくはないよ。正義で説明が楽で名乗っておくなら良いが心酔しすぎるとろくでもない」
自分達の敵は歴史修正主義者や検非違使のハズなのにやっているのは身内争いというか、そんなのだ。珍しくは無い。
この隙を歴史修正主義者にしろ狙ってくるだろうがやれることは帰るぐらいだ。
こんのすけに後は任せておく。処理がオートって楽だ。
「主も戦闘は控えて欲しいですね。加護者殿がいらっしゃいますが加護も無料では無い」
「主が怒りそうだけど。僕達は資材と霊力とかがあればどんな疵でも治るからね」
蜻蛉切に言われる。加護者の武器を出して貸してくれる能力やら治癒の加護があるからある程度は何とかなっているのであってそれを除けば刃物の扱いが上手いぐらいだ。
ぐらいだと言われたら他から怒られそうだが周囲に居るのは最強の付喪神である刀剣男士である。
「本当に皆、ありがとう。――帰ろう。本丸に」
二度目の礼を言うと門を開けた。
悲劇を止めたかったのは本当だろうけれども、一人に背負わせすぎた。一振りに背負わせすぎた。そして起きたのは悲劇ばかりだ。
ただ審神者の願いをこの本丸にいた刀剣男士は受け止めて、見方によっては壊れてしまったのだろう。
間違っていたと言えば間違っていたのだろうが、いつか自分もそうなりそうだということは心に留めておかなければならない。
絶対に間違えないとは、言い切れないのだ。
「ヒツキ殿」
広大な世界だった。
空は遠く、大地は広い。特殊空間、地面と空以外は何も無いような場所で明石国行は太刀を振るい、敵である歴史修正主義者を斬る。
刀剣の化け物と主は称していた。大鬼の形をしている化け物は太刀を使う。質からして延享の戦いで出てくる敵レベルだ。
「その徒名、主ぐらいしか呼ばんのやけどなぁ。一期。お前はまだ冷静か」
明石国行の明石の明からヒツキだ。隣に降り立つ気配に話しかける。
「前戦よりは」
爽やかに告げたのは一期一振、刀剣男士としての分類は自分と同じ太刀だ。前戦よりは、と答えているが、ここは前戦からやや下がった場所である。
大量の歴史修正主義者をただただ斬っていく。
話ながら自分の首を切ろうとしている空を浮く蛇のような短刀の化け物を一刀で切り伏せた。
現在、やられているのは政府こと上がたまに行う連隊戦ではない。歴史修正主義者との戦いだ。自分達の本丸は最前線にいる。
身内感のトラブルで主がどこかに消えてしまってそれを叩きつぶしたら好機とばかりに歴史修正主義者が襲ってきた。
明石国行は前戦の方を眺める。
「大典太の清浄空気の中、ガチギレしてるのが何人か。主は無事やとええんやが」
「加護者殿が居る限り保証はありますし、なくても主は主でやります。例えしんどくても、そういう方です」
だからこそ、早く見つけなければと一期はいう。まだ冷静だ。彼は。
前戦なんて敵が搾取されていくレベルだ。どこかのゲームやどこかの漫画とかで見た一方的な蹂躙と虐殺、それが出来るのも日々のノルマこなしと研鑽のお陰だ。
「自分もアンタも歴史修正主義者より身内のトラブルに巻き込まれて面倒事を受けて……自分ら、付喪神で一応、神なんですけど」
明石国行が本丸に来たのはまだ池田屋の戦いまでしか開いていない時だ。今は戦線が広がり、延享の戦いまでとなっている。来たときに一期一振に太刀でぶっ飛ばされたのも、
遠い思い出だった。そうしておく。刀剣男士というのは審神者にとってはステータスともなり、自分のステータスを上げるために欲しがる者も居る。
一期一振は主が顕現した刀剣男士ではない。ブラック本丸と色々纏めて呼ばれている刀剣男士を無下に扱う本丸から引き取られてきた。
主と山姥切国広が突入して救出したものの、主は大怪我を負い……心の傷を刺激されたらしいが……つつも、事態は収まった。
「そうは言っても決めるのは周囲ですからな。神とか言ってきながら神を振り回したりするものです」
黒いで、と明石国行は想うが言わない。
敬っているようで敬っていないとかあるのだ。話ながらも敵を切り続ける。歴史修正主義者は八億ほど敵を用意したと言っているのでまだまだいるだろう。
八億については彼等が歴史を攻撃すると言ったときにときに宣言された声明だ。
「いち兄!!」
「国行」
何体か打刀の化け物が切り落とされる。
「国俊と薬研。前戦は……出来る限り行きとおないんやけど」
別の意味で、と愛染国俊と薬研籐四郎に話しかける。今はやや敵の攻勢が止んでいた。愛染国俊は明石国行と同じ来派の短刀で一応彼の保護者だ。
薬研籐四郎は一期一振の弟である。二人とも極となっていた。極は刀剣男士の新たな力を引き出すものとして上が開発したものである。
「厚や小夜とかでどうにか抑えてるぜ。……最初に怒った切国が冷静さを取り戻したぐらいだ」
国俊が状況を報告する。
敵ではなく味方の方を抑える羽目となっている。
切国こと山姥切国広が冷静さを取り戻したと言うことは、他の怒りの方が凄まじいのである。他人の振り見て我が振り直せだ。
「大将は安否が確認出来てもしばらくは帰ってこない方が良いかもしれねえ」
「――主に自由はあげましょ。例えそれが不自由な自由でも。不自由な不自由にするのはアカン」
薬研籐四郎の言葉から明石国行は察する。
想わず、そう言ってしまった。
あの主は不自由がずっと続いてそれでもそのスキマの自由を自由と称していた。他からすれば不自由取られるかも知れない。だからこそ、それ以上の不自由は与えたくはない。
「そうですな。あの方は私を自由にしてくださった。ソレについては貴方に賛成です」
「なだめるんは上手くいくか」
「石切丸の旦那に先に報告したら、何とかするよ。物理で、って無表情で言ってたぜ。蜻蛉切の旦那は付き合いましょうって」
大事なのは物理だ。
石切丸は彼女にとっては父親のようなものだ。蜻蛉切もそうである。
主が無事であることを願いつつも、主が何を選択するかは……恐怖心はあっても彼女に任せたいと明石国行は想う。右手に持っている刀を赤司は左手に持ち替えた。
「こっちも物理で。――出来る範囲で」
「前戦怖いぞ。あるじには見せられないぜ。いろんな事に耐性持ちの主だけど、どうしてここまで怒っているの? とか言いそうだ」
「八つ当たりって怖いよな」
「皆、無理はせずに。やれることをしてから主の帰りを待ちましょう」
愛染国俊と薬研籐四郎がそう言っているのだから前戦が怒りに身を任せて敵を屠っているのは凄まじいのだろう。
休んでいる間にも、敵の大群がやってきている。
主は帰ってくると言う保証はある。たまにしか話さない彼女と共にいる加護者だがそれぐらいのことはしてくれる。真剣必殺は入っていないが、
「先行するぜ」
「本気出して仕事して、終わったらのんびりしたいですから」
国俊が走り、その後を明石国行が追いかける。極は刀剣男士の力をさらに解放するものだ。国俊は成長した。蛍丸もだ。
主が鍛えたからである。数珠丸事件以降、ようやく安定してきた戦線は彼女の願いの一つを叶えられるはずだった。山姥切国広が怒っているのはそれ関連だ。
願いの一つが叶えられるかも知れないと言うことは主は知らない。上は完全に確定するまでは言わないがそれでも心配し続ける初期刀に教えて、自分はそれを聞いてしまった。
前戦の怒りの質は違うが、
「主関連に変わりは無いなぁ」
歴史よりも主になっとるけど、仕事はしていると明石国行は心中で呟いた。
山姥切国広は、想い出す。
自分を顕現させた主のことをだ。本丸に呼ばれて放り出されるような状態の中、衣食住が揃っているから何とかなるよと言っていた。
その彼女は、ここにはいない。
「切国」
「兄弟」
「同田貫に兄弟」
広々とした広大な空と広大な大地で襲ってくるのは歴史修正主義者で自分はそれを切り続けていた。最前線では”彼等”が大暴れしている。
彼女は無事だ、そう想っている。リアルラックも強いし加護者もいる。話しかけてきたのが打刀の同田貫正国で、山姥切国広の背後に立ったのは、
兄弟である堀川国広だ。
「兼さんは向こう、と最前線、虐殺されてますよね」
「……怒り組か。お前もそこに入りそうだったが」
「あれだけ怒っているのを見れば冷静になる。……アイツは無事だ」
ソレを信じて、戦うしか無い。敵は狩っても狩っても襲ってくる。しっかしよ、と同田貫が言う。
「俺がまだ太刀だったとき、ってかあそこから連れ出されたとき、主と戦ったのもあるが、お前とも戦ったよな」
「死にかけていた。互いにな。主もだったが」
同田貫正国はブラック本丸と纏めて呼ばれている過酷な本丸から救出された刀剣男士だ。当時は太刀だった。今は打刀である。
戦闘も出来る彼女が戦って一期一振や獅子王を倒したりしてから鶴丸国永と戦って、鶴丸にトラウマを刺激されて混乱していたときに同田貫と戦って、
死にかけた。門の都合で突入出来たのが主である彼女と……審神者で座標固定した方が楽とかで淹れられた……山姥切国広だった。
「仲良く出来るか心配でしたけど、仲良くなって良かったです。漫画は偉大ですね」
「オサムが偉大なんだ」
「……アイツはスゲえ。歴史修正主義者よりも倒しづらい連中に堂々と自分の意見を述べやがって……刀とすれば切れば良いが切るのは空閑の役目だ。オサムはオサムだ!!」
オサムについて力説しているがあのオサムは凄い。本丸に来た頃に彼女が戦闘の参考にすると準備した漫画で読んだ。サイエンスフィクション……あるいは少し不思議漫画だ。
「調子、戻ってますね」
「状況が変わるまで切り続けるぞ」
「まかせとけ」
上も何とかしているようだし、やることは敵を切ることだ。連絡待ちは辛いところがあるが言えばあるが、やらなければならない。
歴史修正主義者と戦うことが目的なのだから。