@akirenge
【そうめん騒動】
「これ、何」
『おっさんに送られた来たお中元』
今年は近年まれに見る猛暑だと特務司書の少女は聞いた。そのため、とても暑い。しかし彼女はこの世界の近年の夏を知らない。
夕方になり涼しくなってきた頃、加護者が帝國図書館分館のテーブルの一つに荷物を広げていた。どれもこれもそうめんやうどんやハムなどだ。
おっさんと言うのは帝國図書館の館長のことである。帝國図書館分館の管理者である加護者は館長をおっさんと呼んでいた。
お中元は日本の行事の一つだ。まず、お中元というのは七月十五日のことであるという。その日に贈り物をして相手の無事を確認する行事だったらしいが
今ではその期間に贈り物を贈る時期となっていた。
「多いね。さすが、館長だからか」
『私たちで処理しろって。明日は食堂が止まるから丁度いいんじゃない?』
「だねーお休み。だけど、あたしは部屋から出ないよ。ごろごろするよ」
『ちゃんとした服でごろ寝しなさい』
特務司書の少女の側には徳田秋声が居る。
加護者は何もして居らず勝手に箱のラッピングが解かれて中身が出たりしているが、これは加護者の能力だ。
明日は仕事は休みであり、食堂も止まるため、食事は各自で準備か外に食べに行かなくてはならない。しかしこの暑さだ。特務司書の少女は料理のやる気が無い。
「ちゃんとした服って」
『下手するとタンクトップとスパッツとかシャツとスパッツとかだもの。たまにワンピース』
「切国に布をかぶせられたこともあったっけ。ぐうたらなのを見られたくない人にはきちんとした服は着るよ」
(見得、あるんだ)
彼女が着ているのは夏物のワンピースだが、この暑さだ。服装は軽量でいたいらしい。タンクトップやスパッツ、スパッツやシャツと言えばとても軽い。
切国は彼女のもう一つの仕事である審神者で彼女が顕現した刀剣男士の一人だ。正式名を山姥切国広という。布をかぶせられたと言うことは別に見られてもいい人だったのだろう。
『貴方なら普通にスパッツとタンクトップで出来そうだけど』
「その情報はいいよ」
いつの間にか黒いテディベアのぬいぐるみを出して加護者はそれを抱きしめながら秋声に話している。
秋声さんなら別にその服装でも良いかなとはなった。見栄を張りたいのならば誰かと言えば、井伏鱒二とかもっと見た目が大人の文豪だろうかともなる。
「三食、そうめんかうどんで明日は乗り切るよ。お前、茹でるの頑張って」
『はいはい。それぐらいならやるから。……ある分は全部、使うわね』
「みんなで食べれば大丈夫だよ」
この夏場に調理をするというのは気力を使う。たまにそうめんなら楽だからいいだろうとなるかもしれないが、お湯で茹でるのが大変なのだ。
もみ洗いも面倒である。夏場にやったことがあるが面倒だった。面倒ばかり言うのは暑いせいだ。
「分館は」
『夜に細々なことをして明日も図書館としてはやるわ』
図書館としては、とついているが利用しているのは文豪達ぐらいだ。そうなるようにしてある。秋声の問いに、加護者は答えていた。
徳田秋声はしっかりと睡眠を取ってから早朝、食堂に向かっていた。加護者を手伝うためである。食堂だったのは今日使われないからと
そうめん各種の茹でる量が非常に多いため、大規模な設備がある食堂の厨房が良いと判断されたからだ。
「おはよう。加護者。いるよね。手伝いに来たよ」
『来てくれたのね。徳田秋声。声と動作だけになるわ……力の都合で』
姿を現してくれないようだ。食堂までとなるときついときがあるらしい。動作と言うことはそうめん関係だろう。
「どうすればいいんだい」
『お湯は沸かしているから、そこのそうめんを入れて』
指示を聞く。
大鍋の中の水が沸騰していた。熱気でとても暑い。そこのそうめんと言われたところにあるそうめんは大量にあった。館長に贈られたお中元だ。
言われたとおりに秋声は沸騰しているお湯にそうめんを投入して茹で始めた。
「あの子は」
『寝てる』
それ以上は触れないでおく。寝かせておくべきだ。
「どれぐらい茹でるんだい」
『まずはこれとあと一回ね。少しずつ消化していくべきかなって』
誰がどのくらい残るか不明だが、残れば明日食べればいい。明日は浄化作業だ。連続でして行けば食料の減りも早くなる。
くっつかないようにそうめんを茹でていくが、暑い。
特務司書の少女がやりたがらない理由が分かってきた。さて、と加護者の声が聞こえる。
「次は」
『茹でおわったから鍋のお湯を捨てるから水で冷やしつつ洗うの。頑張って』
秋声が離れると勝手に鍋が浮き上がり、流し台にセットされていたざるの上にお湯が捨てられ、ざるの上にそうめんが載っていく。
そのまま勝手に水が流れてそうめんを冷やしていく。秋声はそうめんを洗っていく。
かなりの手間だ。冷水を掛けることによってあら熱を取り、そしてもみ洗いをすることによってそうめんのぬめりを取っていくのだ。
量が多すぎたがぬめりが取れたところから置かれている皿に置いていく。
「完了……だね……もうちょっと出来たらあの子を起こして。食べようか。つゆとか他の準備は」
「出来ているぞ!!」
反応は加護者ではなく、別の声だった。秋声が声のする方向を見る。
「坂口、安吾……?」
『どうしたの。無頼派長男、貴方に協力は頼んでいないのだけれども』
「俺も居るぞ」
『国木田独歩』
堂々と朝から叫んだのは坂口安吾と国木田独歩だ。この二人、秋声とかつて関連があったというか、ソレを言うと文豪達なんて殆ど何処かで繋がりがあるのだが、
坂口はと言うと秋声の晩年の文章を酷評して秋声と慕っていた者と殴り合いの喧嘩に発展して後に友人通しとなるという何処かの漫画家と特務司書の少女が
ツッコんでいた出来事があったし、かつての自分は国木田独歩の文体をマネして自然主義文学の大家と言われた。
なんで居るの、みたいな不機嫌そうな加護者の声が聞こえた。
「君達、何をして」
「そうめんとかで一日過ごすって言うんだろう。聞いたぜ! こんなこともあろうかと過ごすための準備をしたんだ」
「力作が出来たんだぞ。見に来いよ。秋声。そうめんがゆであがってるタイミングに来てよかった。食おうぜ!」
『嫌な予感しかしないんだけど』
「見に行くよ……」
加護者の言うことはもっともであるが、秋声は状況を確認しようとそうめんを持って行こうとするが嬉々とした独歩が持って行く。
秋声は彼等に着いていった。食堂の外に出る。
そこにあったのは。
「どうだ! 力作だろう」
「これは……」
目の前にあったのはパイプやら竹やらを繋いで作ったレールのようなものがある。レールのようなものは他の竹などで支えられていてそこには水が流れていた。
終点には桶が置いてある。
『流しそうめん?』
「分館でやると想ったら、こっちでやってたから移動させた。水の準備もばっちりだ!」
「――君達、帝國図書館ルールを知っているかな。ある程度好きに出来るのは分館周辺の土地だけでここは違うだろう!!」
流しそうめん。それはそうめんを流して流れてきたそうめんを皆で掴んで食べるものである。鏡花は出来ない絶対無理だこれは。
坂口や独歩が自信満々で言っているが秋声が思い浮かべたのは帝國図書館ルールだ。これは分館を設立したときに出来たルールであるが、
浄化作業や文豪達の精神安定のために分館から一定区画はこちらの好きにしても良いが他は弄らないというものである。
ここは食堂近辺で分館近辺とは違う。流しそうめんをやるには館長の許可が要る。
「作っちまったものはしょうがないだろう」
「流しそうめんするよ。ごん」
お椀と箸を持った新美南吉が来た。流しそうめんに乗り気だ。
「新美……、つゆはどこから」
「調べてよけいなものをいれないでつくったの、偉いでしょ」
「ああ。良く出来……じゃない!! 流しそうめんなんてしちゃ駄目だろう!!」
褒めようとしてから秋声は流しそうめん反対を言っておく。流す予定はなかったのだ。そのままおいておいて各自で食べるという方法で
そうめんを減らそうとしていたのだ。食堂に置いておけば皆食べるだろうという思いであるが、舞台は設置されていた。
「面白そうなのに。オダサクさんも食欲がないのに食べてくれると想ったのに」
「織田が……」
『冷たいものばかり食べてると胃に悪いから暑いときこそ熱いものだけど』
「いいか、鍋もいいがそうめんを見て想ったんだ。――これは、絶対に流すべきだと」
『それ、流しそうめんをやりたかっただけじゃないの』
流されそうな秋声だったが加護者が冷ややかな声で言う。坂口が握り拳を作って宣言していた。
「反対派はお前等だけのようだが、花袋と藤村で他の文豪達を起こしにいった。つまりお前等はそうめんを茹でるしかないってことだ!」
「手元にそうめんもあるな」
「流すのー」
賛成派は着々と流しそうめんを始めようとしている。奥に持って行ってレーンに水を流してからそうめんも流していけば流しそうめんだ。
「加護者、どう……」
『片付けると負担が大きいのと言い訳としてパンの会の大惨事みたくならなくて良かったも浮かべたけどまず始まってすら居ないわ』
「これから次第だ」
パンの会とは明治末期の青年文芸・美術家の懇談会のことであり食べるパンではなく妖精の方のパンだ。最初は芸術方面を話していたが
段々と騒ぎになってきたと言う。独歩が乗り気である。
「安吾、そうめん流すんか。大規模やなぁ」
「食べるぜ。そうめん以外にはねえのかよ」
織田作之助と太宰治が来たようだ。
「待つんだ。館長に怒られ……」
「来ねえよ。あの人、忙しいみたいだし。ネコも……」
「誰が忙しいだ。確かに忙しいが、諫也が止めないと図書館で流しそうめんが行われて大惨事になるって連絡が来たニャ」
「……設置されたとはな……」
独歩は自信満々に行って居たがそこにネコと館長が来た。諫也と言っているが花宮諫也のことだろう。大惨事と着いているというか何故分かったのかと言えば
彼は時と場合に寄るが未来が見えるらしい。イザヤだからという加護者の素っ気ない解答を前に聞いたことがあるが聖書でイザヤは神の言葉を受ける預言者であり、
神の祝福を意味する言葉であるからだ。館長が半袖姿で扇をもって呆れている。
「館長とネコが来ても出来ちまった以上はやるしかねえよな!」
「何が君達を流しそうめんに駆り立てるんだい!?」
「夏だから」
「やりたいから」
坂口と独歩は強制的にやろうとしていた。止まらない。秋声が問えば二人は短く返答もしてくる。
「流しそうめんの話を聞いたのだけれども」
「……本格的というかやるんだな。流しそうめん」
「騒ぎが好きだね」
どんどん文豪達が集まってくる。芥川龍之介や佐藤春夫、北原白秋の声がした。このままだと秋声はそうめんを茹で続けて流しそうめんに参加しないと行けない
レベルになってきたのだが誰か止める相手は居ないのだろうか。
「諫也。諫也は……」
「アイツなら館長代理で他の図書館に……」
『こう、気持ちを抑えるのが大変で』
「君も一寸アテにならないね!?――今は、ならない方が良いか」
レーンに水が注がれる。織田作あたりなんてすでにそうめんを取ろうとしているし新美はお椀と箸を配っている。秋声は諫也のことを呼んだがネコの情報を聞くに
アテにならない。加護者は気持ちを抑えるのが大変と言うが怒ったら怒ったで負担が特務司書の少女に、とまで考えて秋声は、
「そういえば、彼女は……」
特務司書の少女はまだ寝ているのだろうか。秋声がそう想った矢先、突風が起きる。
「お前、起こしに来ないってどうしたの!? 何か流しそうめんやってるけどここ本丸じゃなくて帝國図書館だよね!? 止めて――」
「君――」
聞き慣れた声。
怒っているような、だが、頼もしいとも取れる声がしたので秋声は声のする方向を見た。そこにいたのは、特務司書の少女だった。
ただし、服装はワンピース系の寝間着姿。
ピンク色のワンピースの寝間着は肩紐が細い。そして上の下着を着けてないし、右の方の肩紐がずれていて微妙に下が見えているというかかなり大きいなとか、
足下は適当に履いてきたらしいサンダルであり、普段隠してある細い足も見えている。
文豪達の視線が注がれる中、特務司書の少女は色々と気付き――。
『起こしに来なかったのは謝るけど、アンタ、それ寝間着……』
「とりあえずは君、この上着を羽織ろうか!」
慌てた秋声はとりあえず腰に巻いている上着を着せることにした。司書の顔が赤い。
「待つんだ君。それは許さないよ!」
「――白さんは俺が止める! 秋声、司書に上着を着せるんだ!」
何が許さないかは置いておくとして北原を止める室生犀星を横目に秋声は司書に上着を羽織らせた。
特務司書の少女は今日一日騒動を止めたから引きこもってご飯は司書室で片付いた。徳田秋声の目の前にはそうめんが流れている。ただし、本格的なものではない。
ミニサイズの回転式の流しそうめん器だ。電池で動くものである。
「はあ……」
「秋声、何をため息着いているのですか」
「そうめんの炒め物を食べている君に言われたくはないよ」
あれから、騒動の鎮静化を行い、流しそうめんについてはやるな、でおわった。片付けられた流しそうめんは何処かでやられるかも知れないがそれはそれで止めればいい。
そうめんは茹でられて食堂におかれてこうして尾崎一門で食べられているが鏡花の場合は専用メニューだ。そうめんなんて彼は絶対に食べられない。
「流しそうめんが出来ただけ良かったでは無いか」
「コレも流れていますけどね」
「徳田、疲れているがご苦労だったな」
「……しばらくは休みますよ」
師匠である尾崎紅葉が笑いながら言い、秋声はため息交じりに言い、幸田露伴にねぎらわれた。
各々、休みに戻り、そうめんはこうして食べられていく。
とりあえずは、平和ということにしておこうと秋声は、素麺をすすった。
【Fin】