X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

かつても今も

全体公開 2593文字
2017-08-08 23:17:01

即興お題加筆修正

Posted by @akirenge

特務司書の少女は目の前の光景に目を見張った。

……何やってるの?」

「コイツから秋声を守っているのですよ」

「何したの」

『仕事をしただけよ』

状況を確認する。
泉鏡花が徳田秋声を守るように立っていて秋声は原稿をもっていて、加護者は加護者で積み上げた本を浮かせていた。

「どうしたの」

「実は――

秋声も困惑しながら、自体を説明し始めた。



【かつても今も】

徳田秋声は特務司書の少女から帝國図書館分館のマスターキーを預かっている。
それに加えて宿舎のマスターキーなどもだ。鍵束としていつも肌身離さずもっている。転生して最古参に入る自分は
面子の都合上、責任感がありそうだとかいって押しつけられたのだ。
分館のドアに鍵を差し込んで開ける。

『おはよう。徳田秋声』

――おはよう。何を読んでいたんだい?」

『明治文学全集の初期白樺ね』

降り立つように現れたのは加護者、特務司書の少女に利害の一致で協力している分館の管理者だ。夏のせいか白っぽい服を着ていた。
手に持っている本について問えばそう返ってくる。
彼女には時間が有り余るほどあるらしく……寝なくてすむかららしいが……今は専ら読書をしているらしい。

「巻数が多かったよね」

『ええ。でもなかなかの網羅。貴方の巻もあるわよ』

……あるのか。それはよかった」

棒読みになってしまうというか明治文学全集とあるのだから片隅にでもあることを、喜ぶべきなのか。

『早いわね』

「師匠に見せる小説が終盤が完成しないんだ。今から書く。寝てしまったし」

『寝ることはいい事よ?』

小首を傾げるようにして言われる。
〆切りが近いと言えば近いのだ。いつの間にか加護者が移動していて秋声の右肘を掴んでいた。
こうしてみると幼い少女と言うかよく見てみればソレよりも年上の少女が今の少女を演じているような
雰囲気を感じる。

「その明治文学全集なんだけど、他にはどんな巻が」

『硯友社文學集とかもあるわ』

「その明治文学全集から適当に見繕って欲しい。おわったら、読みたいから」

『解ったわ』

――小説というのは難しいものだね。かつての僕は簡単だったのかも知れないけれど」

未熟だ、と自分でも想う。自分の文体や自分の美しさだって、掴み切れているようで掴み切れていない。
加護者は、それを聞いて黒い瞳を改めて、秋声に向けた。

『徳田秋声』

「何」

にっこりと。
おかしそうに、面白そうに彼女は微笑んだ。

『貴方が言った言葉の前半、かつての貴方の今際の言葉』

彼女がそういえば、そうなのだろう。
未熟である自分もそうじゃなかったかもしれないかつての自分も、同じ事を考えてしまっていたようで、

「難しいね」

そういえば。そうね。とだけ返ってきた。

『小説、出来たら、後で見せて』

「いいよ。あっちで僕は書いてるから」

行ってらっしゃいと加護者の声がする。食事は後で食べることにして、秋声は小説の仕上げに取りかかった。



『そんなこんなで選んでみたの! 自然主義の大家と言われる貴方だけどそんな貴方だからこそ明治反自然主義派文学集一巻と二巻。
近代文学開祖である二葉亭四迷と嵯峨の屋おむろ、批評はいいけど文章はそんなに上手くない齋藤緑雨……

「秋声いけません! あの女の声に耳を貸しては」

……お前、過剰摂取させるなよ」

特務司書の少女が低めであるが自分もかつてその被害を受けていたためである。

『適当に見繕ってとあったけど司書業務が半分と趣味が半分よ』

「泉、落ち着けって秋声もこれぐらいは読めばいいから」

そこで志賀直哉が現れ、加護者を持ち上げる。適当に浮いている本を一冊取ると秋声に渡して、秋声はそれを受け取る。

「その原稿は真っ先に紅葉先生に見せるんです。いいですね」

「解ったよ」

『えー』

背中を押すように鏡花は秋声を押しやる。その場には特務司書の少女と志賀直哉と加護者が残された。

「秋声さんの小説、後で読みたいな」

「徳田の文章は読みやすいよな」

「志賀さんも読みやすいって聞いてる。小説の神様! 横光さんも小説の神様って言われてるけど」

聞いてるなのはまだ読んでないからだ。読みたいのだが著作が多い。志賀については暗夜行路のあらすじを聞いたら、
最後に山登りをする話と言っていた。完結に十七年の時間を要したとも言われる。

――徳田先生も、小説の神様です」

「川端さん」

「秋声氏こそ真なる小説の神様、真なる小説の名人です。徳田先生の新作、読んでみたいですね」

低い声がした。気配は先ほど感じ取ったので分かっている川端康成、ノーベル賞も取ったことのある文豪であり、徳田秋声のファンだ。

「後で奪ってくるよ」

「泉と喧嘩するなって、お前も」

鏡花は特務司書の少女とそこまで仲が良くないが、加護者とも仲が悪い方だ。川端がお願いしますと言って来ていたので、
頃合いを見て秋声に頼んでコピーさせて貰うことにした。



「硯友社文學集……

志賀が適当に渡してきた加護者が選んだおすすめ本はこれだった。硯友社は師である尾崎紅葉が他の文豪達と起こした明治期の文学結社だ。
紅葉の死によっておわったものでもある。

「あの黒いの。読んでいるのですか」

「今は白いけどね。以外と何でも読んでいるよ。彼女、好きなのは不遇な作家らしいけど。僕も入るのかな」

「入りませんよ。秋声」

『そうよ。私は貴方の書く話のその地味加減が好きなのよ。おざ……

声が途切れた。この分館は加護者の領域だ。聞いていたのだろう。その途中で彼女が何を言おうとしていたかなんて、解らない。

「君と違って派手さはないんだけどね」

「別にいいではないですか。貴方は、貴方なんです。その貴方加減を皆、認めているのですよ」

そうは言っても、今の自分は今の道が正しいのか、歩めているのか、正しさなんて解らないのだけれども。
解るような解らないようなところがあって、それでも行けているのならば、

「そっか」

歩めているのならばいいのだろうと、認めてくれるところはくすぐったいところはあるが、まずは、謙遜せずに受け止めてみることにした。


【Fin】


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.