長串さんの「乱れ髪」シリーズをイメージして書いた短文(本当に短い)です。勿論本編とは一切関係ありません。本来の二人とは違った感じになってたらすみません。
お誕生日おめでとうございました。長串さんの軽妙な、それでいてウィットに富んだ比喩表現の飛び交う文章ががとても好きです(再現できるとは言ってない)
@hataflag
「西住ちゃん、もし私に……そうだねぇ、例えば、彼氏だとかができたら、どうする?」
「ん?」
何のことはない問いかけだった。昨日散々くんずほぐれつして、例のごとく大凡自分はこんな事言ってる訳ないと後から目を背けたくなるような言葉を喚き散らし、そのまま意識を失って朝を迎えた風雲西住城である。
昨夜の余韻が残っていたせいか、心ここに有らずのままもくもく西住ちゃん謹製の目玉焼きを口に入れていた私は、頭を過ぎった言葉を咀嚼することも忘れ、ついそのまま口に出してしまっていたのだ。
その言葉を聞いた西住ちゃんは、いつもの無機質な笑顔を貼り付けたまま、数秒間ぴたりと動きを止めた後、「彼氏ですかぁ……」とのんきに首を傾げながら一頻り唸り。
「会長に彼氏っていう絵面がまず想像つきませんけど、それは『私と付き合っていた会長に』っていう事で良いんでしょうか?」
と返答した。
あぁ、確かにそれは重要だ。一応、初恋が男なのか西住ちゃんなのかは設定しておいた方がいいのかもしれない。良くも悪くも、西住ちゃんに関わる事は私にとってそれだけ多くの変容を生み出したのだから。そして、それは西住ちゃん自身も把握しての事なのだろう。
「じゃあ、西住ちゃんと付き合ってる最中に、好きな男ができた……って事で」
「えぇー、仮定でも傷つくなーそんな事」
頬を膨らませながら手を伸ばし、私の顔をつんつん突いてくる西住ちゃんは、そう言いながらも特に動揺などをしている様子は無かった。
しかし、言ってから自分で思うが、これは不毛に過ぎる問いだ。その辺のマックで駄弁る女子中学生だって、もう少し建設的でマシな話をしている気さえしてくる。
「会長さんの気持ちが定まってしまっているのであれば、私にはもうどうしようもありませんが」
内心で彼氏を殺すとか言い出さないかほんの少しだけ期待とも不安とも言いようのない複雑な感情を抱いたのは内緒だ。
「神経内科の受診をおすすめします」
「……あー」
「胃袋に穴じゃ済まないと思うので」
西住ちゃんが何の気なしに答えた予想は、私の脳内にはっきりとした像をもって形成された。考えるまでも無い事だ。罪の意識によって西住ちゃんに紐付けされた私が、目を逸らしたまま逃げるなんて。最初から、耐えられる筈がないのだ。
「そうだよねぇ、そうなるよねぇ」
「あぁ、でも」
やっぱり嘘です。会長さんがそんな風にならない様に、全力で阻止します。
垂れ目がちな西住ちゃんの目がきりりと引き締まって、栗色の、底の見えない瞳で見つめられる。対面に座っているだけの、少しばかり開いた距離がいやに詰まって感じられる。ある種の威圧にも思えるその圧力が、必死に繋ぎとめようとしている様に見えて、嬉しかった。
「なってしまったら……って前提の話だったけどねぇ」
「でも、私と付き合ってる時点で、会長がそんな風になる兆候があったら、見逃すと思いますか?」
「あー」
言われてみれば、そもそもこの観察力の鬼の様な存在が、男と頻繁に接触したりしている私を黙って見過ごすなんて、それこそ想像もつかない。
「なんか言ってたらむらむらしてきました」
「唐突過ぎる上に身も蓋も無いよ西住ちゃん。今ちょっといい感じになってたじゃん、近い、近いよ」
「いい感じになってたから余計にです。この不安を何とかしてください会長さん」
とうとう物理的に距離を詰めて来た西住ちゃんが私の膝と膝の間に足を突っ込んで来た辺りから私の記憶は飛んでしまっている。