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みずのそこ

全体公開 2087文字
2017-08-30 00:26:26

帝國図書館文豪百物語参加用。
私にホラーは無理だった
もっとホラーって言うか怪談の勢いが欲しい。

Posted by @akirenge

【みずのそこ】

――あれ?)

新美南吉の口から泡がこぼれ落ちる。
空気が、一度に抜けていく。
体が、沈む。
友達の狐のぬいぐるみであるごんも一緒に、水に沈んでいく。

(どうして……

慌ててもがこうとしたけれども、”何か”に引っぱられるように体が動かない。
どうして水の中に沈んでいるのか。
落ち着いて、落ち着くことは大事だと潜書中にも何度か言われていたからまずはどうにか落ち着こうとして必死で落ち着く。

(ボクは――

帝國図書館分館と呼ばれる場所がある。表向きは国が運営している国定図書館の一つである帝國図書館の特に近代文学を集めた場所と
されているが実質は有碍書と呼ばれている黒く染まった文学書を浄化するための図書館だ。南吉はここに所属している特務司書によって転生されて、
文学書の浄化をしていた。
そんなある日のこと、新しい文豪が転生してきた。正宗白鳥という文豪だ。白鳥という名前だから白いと想っていたら肌は黒かった。
服装は白かった。正宗は批評家な面も強いらしく、他の文豪とたびたび口論になった。
新美としては正宗は悪い文豪だとは想っていないが、空気が悪くなっていることについて、特務司書の少女は悩んでいた。

(おやつ、買って……

甘いものでも食べたら仲良くなるかも知れないと、新美はお使いに出かけたのだ。
美味しい和菓子屋さんで和菓子を買ったり、窯出しのシュークリームを買ったり、あいにく、他の文豪達が各々用事だったけれども、
自分一人で出来るのだと、お使いをこなした。

(そうだ……

早く帰ろうと違う道を通ったら、そこに沼があったのだ。
やや大きめの鬱蒼とした沼だった。
釣りでも出来そうなぐらいの大きさで、透明なようで濁っている沼で周囲は森で覆われていた。
森というか住宅地の中にぽつん、とあるような場所で、いつの間にこんな場所に
ついてしまったのだろうと新美は首を傾げてしまったのだけれども、いつもならばそのまま立ち去ろうとするのだけれども、
気になった。
近づいてみて。
そっと。
水底を、除いた。


(誰かと……

血走ったような目が新美を睨んだかと想ったら、水の中に居たのだ。いるのだ。
足が重い。
おそるおそる目を見開いてみると何かが、女の手らしいモノが、新美の足を掴んでいる。
水底へと水底へと水底へと。
沼の中に引きずり込んでさらに奥へ奥へ奥へと新美を引きずり下ろそうとしていた。
どこに?
生きている、自分を。
死へと。
あるいは、死ではない死か。停滞、か。

(あ……

ぎらぎらと。
何かが下を見ている。
何か達が新美を誘っている。
おいでと。
一緒にと。
自分のようになれ。
自分達のようになれ。

道連れ、だ。

(嫌………………

暴れたら、空気を余計に吐いてしまう。意識が、遠くなる。
水底へ、いきたくは、ない。
そんな中で。

(誰……

強く、手を引かれた。
自分ではない誰かが、抵抗としているようで。
それは。



水底から引き上げられた。
体が地面に着く。まるで引きずられているようだった。頭がぼんやりする。
空が、見えた。

「気がついた?」

「司書さん……

「急いで運ぶから。危なかったんだよ。ここ、妙なところだって言われてるし。って、落ち着いてよ。正宗さん!」

特務司書の少女が安心しきった笑顔を浮かべている。
正宗さん? と想うと体が抱えられる。そこにいたのは正宗白鳥だった。

「行くぞ」

(菊の、花……

この場からすぐに立ち去るように正宗は新美を横抱きにすると立ち去る。
新美の目に沼に沈んでいく菊の花束が見えた。大きめの花束らしい。纏めて放り投げられたかのような花々は沼に浮いている。

「見るな」

正宗が、目を塞ぐ。
危なかったとか、妙なところとか言われていたが、新美は、

「よかった……怖かった……ごんは……

「無事だ」

「ありがと、う……

そう言うと、目を閉じた。



補修でコレは治るのだろうかと特務司書の少女は正宗白鳥の足首を見た。
黒いブーツにべっとりと、真っ白い手形がついている。
握りこまれていた。正宗の足をねじ切らないばかりの痕だ。

……後のことは任せよう」

専門家にと言うか自分でも一応やれることはできるが専門家に丸投げしておくことにする。この沼は、危ない。
沼というか水が溜まっているところと言うのは全体的に危ないのだが。
こうしているうちも心がざわつく。

「行くぞ。礼を言うのはこちらの方だが」

「南吉君に聞かせてあげてね」

其の返答は来ない。
正宗がさっさと行ってしまったので、特務司書の少女は新美が買ってきたおやつ達を持ち追いかけることにする。
追いかけようとした矢先、代わりに別の声が沼から聞こえた。
特務司書の少女は其の声を聞き、振り返らず、

――菊の花が代わりだ」

それだけを答える。
彼等が去った後、

ずぶっ。

浮いていた花々が一斉に、水の中に引きずり込まれた。


【Fin】


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