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【コトシタ】冒険者ハロウィン秋の陣

@miraclegumi
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2017-10-29 13:59:23

【フォリウムハロウィン2017・女子冒険者秋の陣】

この仮装パーティーの前日譚です。



リゼッテ、シュリン、箱陰、ベリエ(敬称略)を借りさせて頂いております。


 寒さも身に沁みる秋の暮れ。冷たい空に鮮やかな夕日が落ち始めている。
 季節も気温も関係なく、青々とした葉が生い茂る大樹の世界、フォリウム。
 その大樹の麓にぽつんと置かれた1つの箱──大人が1人は優に入れる大きさの箱が場違いに置かれている。
 綺羅びやかな金細工がフチに施された、巨大な宝箱。
 その中からせわしなく、人が現れては再び中に駆け戻るという様子が映っているのだった……。



「カフェさーん、記憶の世界から小麦粉と砂糖10kg、回収できたよー!」

 右肩にずっしりとのしかかった革袋を2つ担いで、勢い良く階段を降りながら部屋の主に声を掛ける少女の声。
 蒼灰の髪と耳を揺らして、リゼッテ=ハルニーヴは疲れの色も感じさせない様子でドサリ、と重たい音を響かせながら室内の床に袋を重ね置いた。
 その声に気がついたのか、部屋の主……魔導具屋をフォリウムで営んでいる金髪紅蒼眼の女学生、カフェ=ラテは奥の部屋から顔を覗かせて喜びの声をあげる。
 瞳の星を輝かせてリゼッテの持ち込んだ収穫品に近づくと、屈んでゆっくりと両手で持ち上げ棚に載せていく。

「でかしましたリゼッテさん★ いやー本当この記憶の世界は大体の食材が揃いますね」
「大凡戦闘前提なのが難だけどね。この砂糖と小麦粉だって、両手から砂糖と小麦粉を弾丸として撃ってくるクッキーの魔物を倒した時の収集品だし」
「えっ、何そのファンシーすぎる魔物は……」

 言われた単語だけでどんな魔物か想像するのも難しい……このフォリウムはヒトの記憶を元に形成される物語の世界。
 それこそ夢のようなモノも当然のように現れるのだ。言われてみれば、リゼッテから仄かに焼けた香ばしいクッキーの香りがするかもしれない。

「それにしても、まさかリゼッテさんの世界とわたしたちの世界で季節の行事や祭事が同じだなんて思いませんでしたよ。やっぱりカボチャでお菓子で仮装なんです、そっちも?」
「うんうん、基本収穫祭であとは自由参加の仮装パーティーだね。コレをやっておかないと秋を満喫したー! って気分になれないから、カフェさんたちも知っててビックリだけど嬉しいね!」

 リゼッテは腕を組み、満足気に首を縦に振る。二人が指す共通の祭事……そう、ハロウィンがフォリウムに訪れた多くの冒険者たちの共通の認識として存在していたのだ。
 カフェたちの世界やリゼッテの元居た世界だけに留まらず、このフォリウムに居る者たちの多くが内容や委細の違いはあれどハロウィンという行事を知っている。
 偶然にしては驚くようなコトではあるが、知っているなら楽しむ祭りで遠慮する必要はない。
 カフェたち含め討伐戦に参加している面々はハロウィンの為の仮装、そしてフォリウムの近隣に訪れる他の探索者に配るためのお菓子作りに励んでいるのであった。

「それにしても、1人でこれだけの大きな袋を担いでくるのは肩がしんどくなかったですか?」
「うん? そうでもないよ、こう見えてヒトの女の子よりは力もある方だし、大体元の世界での調査では男連中に混じってよく力仕事とかもしてたし。
 ……夏にタナバタ? ってイベントがあった時は、友達に頼まれて竹1本切り抜いて運んだりした事もあったね。それくらいなら余裕余裕」
「竹1本!? 1人で切って、担いで運んだんですか……狼種というか、亜人種の方って体力が本当規格外ですね……リゼッテさん、戦闘疲れもあるでしょうし一度シャワーに入って来たらどうです?」
「うぇ、やっぱり戦闘後で汗くさかったりしたかな!?」
「ああっ、そういうつもりで言ったわけでは……」

 思わず慌てた様子で、服のリボンを掴み鼻先に運び、小さく鼻を鳴らすリゼッテ。
 ……甘いバターと小麦粉の香り、一瞬にやけて喉を鳴らす緩んだ表情。

「……お腹空いてくるね……」
「はい……って違う、いや違わないけど確かに匂いの原因は主にクッキーですねこれ」
「汗くさいとか言われるよりはマシかな、あはは……それじゃあシャワー室使わせてもらうから、またね!」

 そう言って、リゼッテは小さくカフェの方を振り返ってから部屋を後にするのであった。
 残されたカフェは、リゼッテが持ち込んだ材料と、魔導具屋に集められた素材……メロンビーンズにラムネ結晶、骨白糖等が並んだ食材たちを目の前に腕まくりをする。


「よーし……皆さんが色々と食材を集めてくれたわけですし……ハロウィンの時間です!★」



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【ロビー:トレジャーボックス】

 ……魔導具屋の隣、冒険者向けのラウンジにて。
 深紅のマントを両肩に、黒の袖を大きく拡げると布がはためく音が部屋の中に響き渡る。

「……フフ、どうだ、見よ、この闇属性っぽさを! 竜っぽさを!」

 ニンジャ……グラップラー、シュリンは燕尾に深紅の蝙蝠羽を模したマントを、何度も開いて、閉じて、開いて……
 楽しそうにはためかせている。まるで竜が翼を広げるようにも見えるその姿に、冒険者仲間のベリエはおお……と感嘆を含ませた声を漏らしていた。

「普段の戦闘用のスーツとはまた雰囲気が違って、コレはコレで可愛いですね。シュリンさん」
「だろう、そうだろう。闇夜に潜む忍の者、そしてニンジャの国ではこういった容姿の妖は竜公子とも呼ばれるらしい。誠、拙者に相応しい装いと言っていいだろう」

 身体に巻きつけるようにマントの端を掴み、直立姿勢でポーズを決めるシュリン。
 ポーズは様になっているが……このヴァンパイアの仮装、スカートの丈は非常に短いミニスカート、そしてロングブーツとマントと一体化した袖以外はビキニサイズの布しか着ていない。
 ……マントを巻いても、腰つきや太もも、下手をすればヒップラインの肌色すらチラチラと覗いてしまいそうな露出度であった。

(シュリンさんは……この肌の露出度は自覚されているのでしょうか。でも本人は嬉しそうだし……)
「い、いいですねシュリンさん! 私、ヴァンパイアハンターだけどシュリンさんみたいなヴァンパイアなら思わず手が出せないかもしれません、こう……可愛くてっ!」
「か、可愛い……!? ま、まあうん……好評なら別に、どのような反応でも満足だが、うむ」

 本人としてはクールさを想定していたのだろう。言葉を濁したベリエのリアクションに、微かにたじろぎながらも頬に朱色を浮かばせるシュリンであった。


「ところで、シュリンさんその仮装はどこで用意されたのですか?」
「カフェの店だな。今年のハロウィンはフォリウムでも気合を入れて行う、とかで元の世界からマジックアイテムの装飾や衣装まで持ち込んで用意しているらしい」

 聞けばシュリンのマントも、闇属性の魔防エンチャントが施されたれっきとしたマジックアイテム。スカートやビキニはそれに合わせて服を見繕ったという。

「一応全員分、衣装は用意すると言っていたが……早めに取りに行かないと面倒な事になるかもしれないぞベリエ。もしも仮装に参加するなら、だがな」
「……うん? カフェさんの魔導具の衣装を貸してもらえる、というなら特に問題も無いとは思うのですが……」
「拙者がこのマントを借りに行った時点で、既にリゼッテと物陰が魔女帽と衣装を取り終えていてな……"まだマシなモノ"がもうこの吸血鬼のマントくらいしか残っていなかったというのも事実なのだ」
「……まだマシなモノ……と、いうと……まさか……」

 そこまで聞いて、ベリエの中で嫌な予感が脳裏に過ぎる。
 カフェが用意する道具、衣装。それらは確かに効果もいいが、当たり外れが激しいという特徴も持っている。
 主に効果よりも、デザイン的な意味で……着るモノに関しては、デザインと布面積の量という意味で。

「もしかしなくても、もう大分アレでソレなモノしか残っていない、とかそういうコトじゃ!?」
「……まだ辛うじてビキニアーマーくらいは残っていた気がするぞ、急げベリエ。まだ間に合う」
「行ってきます!!」

 間髪入れずに立ち上がり、隣の部屋……ロビーから直結している魔導具屋にベリエはズカズカと突撃していく。
 その後ろ姿を見送ってから、シュリンはベリエがまだまともな衣装を選べる無事を祈りつつ自分の深紅のマントをヒラヒラと袖を揺らしながらニコニコと笑みを浮かべるのだった。




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 ロビーに置かれた漆黒のドア。
 ……漆黒のドアに、色鮮やかに明滅する目に悪い発光色で自己主張するライトアップがされたドアを開けて、1人の少女が姿を現す。
 上物の生地で作られた黒のドレスに、艶のあるブロンドのツインテール。そして歩く彼女の後ろを音も立てずに追従する"箱"。
 "ミミック"物陰は、黒の扉から箱を連れ出して現れるとその真横を大急ぎで走り抜ける黒髪の姿が視界の隅に入る。

「およ、アレはベリエちゃん……と、入れ違うようにリゼッテちゃん。カフェちゃんに頼まれてたお菓子の材料集め?」
「箱陰さんだ! そうそう、ラムネ結晶1瓶に、小麦粉と砂糖を10kgずつ! 記憶の世界から食材を調達できるって本当便利だよね、お金要らずだし!」

 ベリエが魔導具屋の中へと駆け込んだ直後に、リゼッテがドアの隙間から顔を出す。
 店の前で会う形になった物陰……箱に入っている物陰だから箱陰と呼ばれているコトもある……は、少しだけその場で足を止め会話を弾ませるのであった。

「ベリエちゃん、何だか凄い慌ててた様子だけどカフェちゃんに何か用事でもあったのかな」
「特にお菓子の材料集めとかは頼まれていなかった気がするけど……箱陰さんは、そのドアの先で何をしてたの?」
\聞いて驚け見て驚け/

 リゼッテの問いに応える形で、物陰の背後に置かれた宝箱からフリップボードと……巨大な"カボチャ"が飛び出してきた。
 その大きさ、優に二人の背丈を超える巨大なお化けカボチャ。質量と体積を無視した野菜がズドン! と床に置かれるだけでもロビーに小さな地響きが揺れ聞こえる程の重量の代物だ……。

「じゃじゃーん♪ 仮装に使える良い感じの"容れ物"を探してたのよ。ハロウィンっぽいモノの方がいいじゃない?」
「いいじゃない? ってレベルの大きさじゃないねコレは……!? ええ、確かこのドアの先って花や植物が沢山植えられてたアルラウネのいる迷宮……」
\良い感じのモノを狩りてきた/
「借りてきたんだよ。あそこのアルラウネたちは物分かりがいいモンスターたちで話が通じて助かるね」
「お、おお……」

 アルラウネといえば一般的には知性の高いモンスターという評判は聞かない、どちらかといえばヒトの姿をした低知性のモンスターだ。
 それらがテリトリーとしている広大な植物迷宮で、これだけ巨大なカボチャを指定して"借りてきた"と称する物陰。
 一体扉の奥でどのような交渉があったのか……リゼッテは深く言及しないコトにした。関わってはいけない世界、そういうものもある。


「箱陰さんは、いつもの宝箱の代わりにこのカボチャを大道具にして仮装するんだねー、私も魔女衣装だけども、コレは随分イメージ変わりそう」
「やっぱり差別化はした方が、可愛い女の子が並ぶにしてもファッションに差が出て見栄えがいいしコレくらいはね? っと……ああ、そうか衣装……」
「うん? どうしたの箱陰さん」
\ベリエの目的が分かった/

 物陰の箱からフリップボードが飛び出した直後……もう1つのドア、魔導具屋の方から、喧々諤々と姦しい少女二人の声が響き渡り始める。



『カフェさん! 流石に、この格好は私イヤですからね!?』
『仕方ないんです! もうこの衣装しか残ってないんですから! ミイラか、ナース服か、二択なんです!』
『このミイラってただ包帯巻きつけてるだけじゃないですか! こんな格好で外を出るなら下着で出歩いたほうがまだ肌が隠れてますよ!』
『わたしだってナース服の方がいいですー! ベリエさんにはこの包帯譲ってあげますから、是非ミイラにしてくださ……』

 ビリ。

「……ビリ?」
「破ける音?」
\絹を裂くような生娘の悲鳴?/

 大凡何が起きているのか、声だけで分かるやり取りをドア越しに耳にしている2人と1箱。
 そして直後に聞こえたビリ、という布が引き裂かれる音……それが意味するモノは。


『……カフェさん、流石に傷物の衣装を人に着せるだなんて、言ったりしませんよね?』
『……はい、流石に、それはお店をやる上でどうかと思います……でも破けたのって、ベリエさんが無理に包帯引っ張ったから……』
『言ったり、しませんよね? 私がナース服を百歩譲って着ます。いいですね?』
『は、はい……え、えええ……どうしようコレ、もう無事に巻ける包帯の長さがほっとんど残ってないじゃないですかー!』
『元々それくらいの長さしか用意しないで私に着せようとしてたってコトですよね、カフェさん!』




「……早めに衣装貰いに行ってよかったね、箱陰さん」
\どうしてこうなった/
「仮装パーティー当日、楽しみだねコレ。色んな意味で」

 魔道具屋の奥から聞こえる怒気混じりのドスの聞いた声と悲痛な嘆き。
 悲喜こもごも……全てが完璧に順調に進んでいる様子ではないが、賑やかにハロウィンの準備は進んでいるようだ



 そして、フォリウムの節目の日……大乱戦の当日、少女たちは仮装とお菓子を持ち込み一晩の祭りに臨むのである。



 おしまい。


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