moonfesta〜水の恵み Part.2〜

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2017-11-01 21:52:53

満月の宴へようこそ。
白司書ラブストーリー、第2話。

Posted by @natsu_luv

季節はすっかり秋めいて、昼夜の寒暖差も激しくなってきた。
司書室から覗く景色も、紅葉の赤に染まっている。
夜になると、湖に反射する月が輝いて美しい情景を創り出す。
今日も仕事がひと段落したから、文豪のみんなとお話したくて談話室に寄ることにした。
談話室の近くから、軽やかな弦の音色が聞こえてくる。
扉を開くと、朔ちゃんがマンドリンを演奏していた。
その隣で賢ちゃんが嬉しそうに耳を傾けていた。

「あっ、司書さん。仕事が終わったんだね」
「司書さん、お疲れ様! 朔太郎さんがボクにマンドリンを教えてくれたんだよ」
「そうなんだ。綺麗な音色だったよ」
……ありがとう」
「朔、良かったら俺と一緒に演奏しないか?」
「うん、いいよ」

すると、そこにクラシックギターを持った犀星くんが現れた。
犀星くんと朔ちゃんが息の合った演奏を聴かせてくれた。
クラシックギターの躍動感とマンドリンの柔らかい音色が奏でる交響曲。
優しくて温かい時間が談話室に流れた。
演奏が終わり、談話室は拍手喝采。
その中に白秋先生も混ざっていた。

「君達、見事な演奏だったよ」
「白さん! ありがとうございます」
「聴いてくださって嬉しいです……

白秋先生は二人の演奏を絶賛して、私の近くに寄ってきた。
どうやら、私達の話の内容に興味を持ったようだ。
実は朔ちゃんと犀星くんが演奏している間に、私は満月の夜に演奏会を開きたいという話を賢ちゃんと南吉ちゃんとしていたのだ。
白秋先生は自分を特等席に招待して、美しい演奏を披露するようにと私達に伝えた。
いきなり演奏会のハードルが上がり、私達は満月の夜の本番まで猛練習をすることになった。

翌日、私達は演奏会で披露する楽曲を考えていた。
私は持っている音源と楽譜を演奏者の皆に見てもらい、選んでもらうことにした。
今回の演奏者の演者は朔ちゃん、犀星くん、賢ちゃん、南吉ちゃんと私。
マンドリンとクラシックギターの演奏をバックに歌を披露するという内容だ。
演奏する楽曲が決まった。
「ムーンフェスタ」という月夜のお祭りをテーマにした楽曲だ。

朔ちゃんと犀星くんがアンサンブルの練習をしている間、私と賢ちゃんと南吉ちゃんは歌の練習を重ねていた。
今回はメロディパートだけでなく、ハーモニーのパートも歌うことになっている。
そのため、他のパートにつられないようにする必要があった。
綺麗なハーモニーを奏でるために、私達はピアノの音を聴きながら、歌の音程を合わせていった。

「ううん、なかなか難しいね……
「そうだね。でも、素敵な演奏会にするために頑張ろう!」
「ありがとう、賢ちゃん」
「賢ちゃん、司書さん、もう一回歌おうよ」
「うん!」

賢ちゃんと南吉ちゃんに励まされながら、私は歌の練習を続けた。
幾日か過ぎて、歌も大分と形になってきた。
楽器の演奏と歌を合わせ、本番で披露できるような質の高い演奏を創り出すことに力を入れていった。
日が経つにつれて、問題が更に増えた。
演奏会当日の天候だ。
秋雨前線の影響で長雨が続いている。
本番の夜に雨が降らないことをただ祈っていた。

演奏会当日になった。
外はあいにくの雨模様、私は窓を開けて雨に触れながら夜までに止んでほしいと願った。
恵みの雨は時として、憂鬱な気持ちを運んでしまうこともあるのだ。
その一方で演奏会の準備は進んでいた。
雨天の場合の会場が食堂だったので、少しずつではあるけれど飾り付けやステージの設営をしていた。
その時だった。
雨音が静まり、空から陽の光が射した。

「司書さん、虹が出てるよ!」
「えっ、本当だ! 綺麗……
「君達が奇跡を起こしたようだね。今夜の演奏会、楽しみにしているよ」
「ありがとう、白秋先生! 楽しみにしててね」

空に架かる七色に輝く橋を見つめて、白秋先生は微笑みを浮かべた。
そして、いつものように喫煙室へ行った。
雨が止んだので、演奏会のステージを外に移すことにし、私達は設営を進めた。
ひと通り設営が完了したので、私は今日の分の仕事を終わらせるために司書室に戻った。
無事に仕事がひと段落して、私は泉の近くに設置した演奏会のステージへ向かった。

ステージでのリハーサルが終わり、気付けば夜になっていた。
夜空のキャンバスに美しい満月が顔を出し、星たちがきらきらと輝いている。
文豪のみんなが観客席について、演奏会の始まりを待っていた。
スポットライトが当たり、朔ちゃんのマンドリンのイントロが演奏された。
朔ちゃんの奏でる旋律に犀星くんのギターの音色が重なり、その上に歌声のハーモニーを織り込んでいく。

「満月の夜の演奏会へようこそ!」
「今夜は楽しんでくださいね!」

私達が奏でる満月の夜の交響曲。
耳を傾けている文豪のみんなも手拍子をしたり、楽しんで聴いてくれているようだ。
拍手に包まれながら、演奏は無事に終了した。
空の上から見守っていた満月も笑顔を浮かべているように見えた。
泉の水が反射して、美しい満月の姿がはっきりと写っている。
その光景に惹かれるがままに、私は泉へと入っていった。
満月と星空を写した泉は、晴れの日の昼間とは違う姿をしている。
水を手で掬い上げると、星の光が反射して私を包み込むように輝く。
泉の向こう側から声がする。
泉の水と戯れる私の様子を見て驚く犀星くんと朔ちゃんの声だった。

「おい、何やってるんだ⁉︎」
「ずぶ濡れになっちゃうよ……!」
「犀星くん、朔太郎くん、彼女をよく見たまえ」
「えっ、全然濡れてない……!」
「むしろ、水を吸い上げてるように見えるよ……
「彼女の生まれ持った体質なのだよ」

白秋先生が私の体質のことを話している間に泉から上がり、ストッキングと靴を履いた。
それから、先生に呼ばれて木陰に行った。
私を視界に入れた瞬間、先生は木に両手をついた。
すっかり、私は取り囲まれてしまった。
先生が顔を近付けてくる。
私の心臓の鼓動が速くなる。

「君の歌声は、まるで海原の人魚だね。何処まで僕を惑わせたら気が済むんだい?」
「白秋先生……?」
「そういった表情もいいね。ますます好きになったよ……

先生はそっと私に囁いて、唇を塞いだ。
私の人生最初の口付けは、鮮やかな手付きで貰われてしまった。
だけど、白秋先生なら構わない。
私の大好きな先生だから。
幸せの気分に浸っていると、朔ちゃんと犀星くんが呆気にとられた表情をしていた。
そんな二人を見て、白秋先生はいつもの上から目線で語りかけた。

「君達、彼女に手を出したら……わかっているね?」
「そんなことしませんよ!」
「先生が司書さんのことを好きだということは……わかっていますから……

二人の言質を取った白秋先生は、満面の笑みを浮かべていた。
夜が更けていく。
満月と星たちが更に輝きを増している気がした。


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