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死神襲来事件 クェイルーヴァ01

新矢 晋@企画用
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2017-11-11 23:42:24

アガフォンさん( @mohe369 )と!




 ――意思とは何だろう。
 人間には自由意思が与えられている。彼らは何にでもなれるし、どこにでも行ける。あらゆる可能性を秘めているのが人間という生き物であり、天使や悪魔とは決定的に違う。
 その人間を守り導くため我々にも自由意志が与えられている。自らの意志でもって人の子に奉仕することが出来る。
 ……そう、その天使は信じていた。
 しかしその意思がほんの些細な不具合で上書きされてしまう程度のそれだったと思い知らされた今、彼が自由意志だと信じていたそれが本当に自由意志なのか、彼自身にもわからなくなってしまっていた。


 クェイルーヴァは目を開けた。正確には「開けようとした」。それが叶わぬことに一瞬戸惑ったが、すぐに現状を思い出して瞼から力を抜いた。
 学舎の子、まだ年若き天使クェイルーヴァは、現在天界の何処かにある小さな部屋の中にいた。壁も床も天井も自ら光を放つように白く、中央に一脚の椅子が置かれているだけの部屋。その椅子に腰掛けているクェイルーヴァは、その「目」を封じられていた。
 顔は当然のこと、首や手足等、肌の露出している部分のほとんどに艶のある黒い布がきつく巻き付けられ、全ての目が封じられている。クェイルーヴァはその認識能力のほとんどを視覚に頼っており、目を封じられている現在、幼子よりも無力で無知であった。
 であるから、その部屋に誰かが入ってきたことに、クェイルーヴァは声をかけられるその瞬間まで気付かなかった。
「天使クェイルーヴァ、目を開けなさい」
 ぱちん、と指を鳴らす音。瞬間、クェイルーヴァの目を封じていた布が砂のように崩れ霧散した。ゆるゆると瞬きをして相手の姿を視認したクェイルーヴァは、椅子から降りると一瞬ふらついてから跪く。
「わざわざご足労頂くとは、何のご用でしょうかアガフォン様」
「貴方にやってもらいたい仕事があります」
 天の書記、偉大なる天使アガフォンはその黒曜に似た目でクェイルーヴァを睥睨する。その眼差しを鮫や冬空にたとえる者もいるが、クェイルーヴァにとって彼の眼差しはただ冷徹な記録者のそれでしかなく、畏敬こそあれ恐怖の対象ではなかった。むしろ、ごくごくまれにではあるが、己よりよほど人間のように見えた。
「では謹慎は解除ですか」
「緊急事態ですので。その代わり、クェイルーヴァ、上を向きなさい」
 言われるまま天を仰いだクェイルーヴァのそのあるかないかわからない控えめな喉仏へアガフォンが触れた。首の太さを確認するように一瞬指が食い込み、離れる。
「    」
 短く囁かれたのは天使語の中でもかなり古い、クェイルーヴァのような若い天使には馴染みの薄い言葉。罰するための言葉。その囁きと同時、クェイルーヴァの首に見えない何かが巻き付いた。ひゅう、と喉から空気が漏れる音がする。突然呼吸を奪われ驚いた様子の目がそちらを見たが、アガフォンは気にした風もなくクェイルーヴァのおとがいに指を添え、顎を上げさせ続ける。
「すぐに終わります」
 首を締め上げているものがじわりと滲むように姿をあらわした。艶のある白色と金色の金属のような素材で出来ていると思しき首輪がぐるりとその白い首に巻き付いている。丁度喉仏のあたりに穴が開いており、……その穴へ、アガフォンがいつの間にかその手に持っていた針を差し入れた。
「……ッ、!?」
「動くな。余計なところに傷がつきますよ」
 ずるずると喉の中へ潜り込んでいくその針は光の反射がなければ見えないくらいに細い。それが完全にクェイルーヴァの喉の中へ消えたところでようやくアガフォンはクェイルーヴァの喉元から手を離し、解放されたクェイルーヴァは数度咳き込んだ。
「……これ、は?」
 呼吸と発声には問題がないらしく戸惑いながらも問うたクェイルーヴァを、冷めた漆黒の目が見遣る。
「武器の召喚と使用、加えて階層移動を禁じます。違反した場合その首輪から痛打が与えられますからそのつもりで。……本来は戦天使を拘束する際に使うものですから、貴方の脆さだと一撃で昏倒するでしょうけれど……まあ、問題ないでしょう」
 ――貴方は聞き分けの良い子ですから。
 その言葉を聞いたクェイルーヴァは指先でそっと己の喉――首輪――を撫でたが抗議はせず、表情もほとんど変えなかった。
「ありがとうございます。……それで、仕事とは」
「ある書物の修復作業です」
 詳しくは現地へ向かいながら説明しますと踵を返したアガフォンの後を、クェイルーヴァはもう一度咳き込んでから追った。



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新矢 晋@企画用 @sin_niya_b
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