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名前も知らない二人

豆腐屋ふうか
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2017-12-10 00:21:48

結構な難産

 父親が姿を消してから半年が経った。父親が姿を消して以来話し相手が居なくなったのか、母親は寮生活をするニールに毎日手紙を送ってきた。手紙の内容は毎回特に変わりはない。当たり障りのない季節の挨拶、ニールの体調を気遣う言葉、父親への恨み言、帰ってこいという催促などをよくもまあここまで書き上げたものだと言いたい程に1枚の紙に詰め込んでニールに送り付けてくるのだ。
 ニールはいつものようにくしゃりと便箋を丸め、ポケットに仕舞う。

 いつものように手紙を捨てる場所を探して町を彷徨う。自分を知っている人間がどこにもいないような、そんな場所が好ましい。誰にも見つからないように、誰にも心配を掛けないように。
 はあ、と溜息を吐く。白い煙のような呼気が冷たい風に溶けていく。
「ボクも消えてしまいたい」
 実のところ、疲れ切っていた。母親からの怨念めいたものを感じる手紙を受け取り続けるのも、学友たちに本音を隠し続けるのにも。

 近くに公園でもあるのだろうか、聞こえてきた子供の笑い声にふと足を止める。辺りを見渡すと少し離れた場所にある家の庭で小さな子供が母親であろう女性と遊んでいる姿が目に入った。
 幸せそうな親子の姿を見ていると、どこでおかしくなってしまったのだろう、何が悪かったのだろう。そんな思いが溢れ出して、ぼろぼろと涙が零れてくる。
「あれ……」
 ニールは混乱しながら頬を伝う涙に手を触れる。
「わ、あれ、なんで、なんで……」
 泣いている、と意識したことで更に涙が止め処なく溢れてくる。今まで溜め込んでいたものがどっと溢れ出して止まらない。


 閑散とした住宅街で気の赴くままにバイクを走らせている青年が居た。
「冬は少し冷えるな……」
 青年がバイクを走らせていると街灯に寄り掛かって立っている人影が見えた。
「ん?」
 バイクを路肩に停止させ後ろを振り返ると、何やら子供が泣いているようだった。

 青年はバイクを押して少年の側まで歩き、通行の邪魔にならない位置でスタンドを立てる。
「よう、こんなところで何泣いてんだ」 
 声を掛けられた子供はびくりと肩を震わせ、恐る恐る青年の顔を見上げる。


 声を掛けられた。
 聞き覚えのある声ではなかった。
 恐る恐る顔を上げると、全く見覚えのない男が目の前に立っていた。
「あの、えっと」
「あ、いやその、俺は怪しいモンじゃねえ」
 男は両手を見せ、『何も持っていない』とアピールする。
「泣いてたからさ」
 とりあえずこれでも使え、と男はポケットから取り出したハンカチを渡す。
「あの、ありがとう……ございます」
「いいっていいって」
 男は気さくに笑うとニールの頭にぽんと手を置く。


 男は暫く名前も知らないニールの身の上話を何も言わずに聞いていた。

「頑張ったな」

 聞き終わってから、男は「かわいそうに」とも「気の毒に」とも言わずにこう言った。 
「なあ、バイク乗るか? ちっと寒いが、ヤなこと全部忘れられるぜ」
「……はい」
 こくりと頷いたニールに男は「それなら早速少し走るか!」と言い、ヘルメットを被せて停めてあるバイクに跨らせた。

「しっかり掴まってろよ!」
「わ……!」
 男はニールを乗せてバイクを走らせる。冷たい風が泣いた後で熱く火照ったニールの体を冷やしていくのが心地よかった。
「気持ちいいだろ?」
「……はい!」
 男の後ろでニールはにこやかに笑っていた。


「その、今日はありがとうございました」
 バイクを降りた後、ニールは男に向かって深々とお辞儀をした。
「気にすんなよ、減るもんじゃねえしな」
 そう言ってバイクに再び跨ろうとする男の上着の袖をニールの手が掴む。
「ん?」
「あの、また、バイク……乗りたい、です」
 もじもじしながら言うニールの頭を男はくしゃくしゃと撫でる。
「いいぜ。また来週な」
「い、いいんですか!?」
「もちろん。またバイク乗ろうぜ!」
 じゃあな!と言ってバイクに跨って走り去る男を笑顔で見送ってから、ニールはハッと何かに気付いたという顔をする。

「名前……聞き忘れた……!」

―――――――――――――――――

BC財団 警備員 ロイ・エンフィールドさん
お借りいたしました!不都合があればパラレルとして扱ってください。


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豆腐屋ふうか @fuka_tofu
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