遺したかった言葉

@fuka_tofu
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2018-01-03 17:30:13

BL注意です!
審判される前日に遺書を書く話

「ニール、愛してるよ」
 彼からこの言葉をかけられる度に胸が痛んだ。
「……ボクはまだ分からないです」
 自分も同じ気持ちだと返せないのが歯痒い。彼を好いてはいるのだけれど、彼を愛していると自覚するのが怖かった。

 愛故に狂った女を見た。
 愛を語ったはずの女を捨てた男を見た。
 自分の周りの人間がそんな状態で、愛なんて言葉にに良いイメージがあるわけがない。

 彼は不満げに溜息を吐く。その気持ちはわかる。恋人に「愛しているかわからない」なんて面と向かって言われれば良い気はしないだろう。
「……ごめんなさい」
 謝ると頭を撫でられ、それからぎゅっと抱きしめられた。

 そんな事があった。


 ◆  ◆  ◆


 閉ざされた西京の街を窓から眺めながら溜息を吐く。
 本当に、本当に彼とはすれ違ってばかりだった。愛を囁かれても素っ気ない返し方しか出来なくて、何度も自己嫌悪に陥った。そのくせ彼の興味が自分以外に向くことが嫌で、彼を縛り付けるのに必死になった。それでも彼への気持ちと向き合う事を拒否し続けて、気付けばここまで来てしまっていた。
 背後に忍び寄る死に気付いて初めて、もっと彼を分かろうとするべきだったと、もっと気持ちを伝えるべきだったと、もっと彼に寄り添うべきだったと深く悔やんだ。

 そしてようやく自覚する。

──いつの間にか、ボクは彼を愛していたんだな。

 明日死ぬかもしれないと考えてやっと結論を出す自分が嫌になる。

 死ぬ前に、いや、死んだ後でもいい。何とか彼に自分の思いを打ち明けたかった。彼の言葉は無駄じゃなかったんだと、そう伝えたかった。
 そう思い立ってすぐ、窓に背を向けホテルの一室に設えられたテーブルに向かう。
 自分が面と向かってこんな事が言えるなんて思わない。それなら、確実に伝えられる手段にしよう。そう考えて手紙を書くことにした。

 書きたいことは沢山あった。
 しかし筆不精な自分には荷が重いのか、気の利いた言葉が浮かばない。それどころか彼を呪ってしまうのではないかと不安になった。

『愛する君の幸福を祈っています』

 3時間かけてようやく紡いだ彼への初めての愛の言葉は、酷く簡潔なものになってしまった。
 それでも良かった。言葉を飾るのは得意じゃない。自分が紡ぐのは素直な気持ちだけ、それだけでいいのだ。

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BC財団 調査員 エドマンド・キャンベルさん
お借りいたしました!不都合があればパラレルとして扱って下さい。


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豆腐屋ふうか
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