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lupo

全体公開 2764文字
2018-01-07 20:38:32

童話パロ的な。狼と狩人の平和バージョン。
頑なにエツィオ表記なしだけどエツエツです。

Posted by @acbh_dmc4

谷底に男がぐったりと横たわっている。
一見死んでいるのかと思ったが、まだかすかに呼吸をしていた。
男の上の崖を見れば、遥か頭上のほうで土の崩れた跡が見えた。

あそこから足を踏み外したのかこの高さから落ちて、虫の息とはいえ助かるとは……
男の格好からどうやら猟師のようだが。
しかし強運な男だ。

普段であれば死にかけた人間の男等放って置くのだが、何故かその男に強く興味を引かれた。
右足を折ってしまったのか、不自然に曲がる足に接木を当て、男の懐から見えた手ぬぐいで確りと足を縛る。
こうしておけばいくらかマシだろう。
応急処置を男に施すと、彼の腕を取り、背に担いだ。




******



目を覚ますと、石造りの粗い天井が見えた。
周りを目だけでサッと確かめる。
簡素な部屋ではあるが、品の良い調度品が置かれている。
私は……狼の群れに追われ、崖から足を滑らせてしまった筈だが、どうやら死を免れ、誰ぞに助けられたようだ。

深く息を吐くと、ズキリと足が痛んだ。思わず呻き声を上げると、同時に部屋の扉が開いた。
凛とした美しい男がこちらの様子に気づくと、ゆったりとした動作でこちらに近づいてくる。
手にしていた水桶から絞った手拭を額に当ててくれる。
その冷たさに、少しだけ痛みが和らいだような気がした。

「目が覚めたかもう2日も眠っていた。喉が渇いたろう。水を飲むか?」
「・・・・・・っ・・・・・・」

朦朧とした頭で、何事か語りかける男を見やった。
男は近くに置いてあった水差しからグラスに水を移すと、私の背を支えて水を飲ませてくれた。
その途端に口の中がからからで不快だったことを自覚する。
ゆっくりと水を飲み干すと、男はまた優しく私をベッドに横たえさせてくれた。
たったこれだけのことなのに体がぐったりと疲れを訴える。
ひんやりとした男の手が私の両目蓋に触れる。
耳元で男の微かな息遣いを感じて、ゾクリと背が粟立った。

「熱も高い。もう少し眠るといい

さらりと彼の手が額をなぞる。
その瞬間、何故だかこの男がホシイ、と思った。

*****



私にとって、この私を助けてくれた者の正体を知るに、とても不本意だと思わざる終えなかった。
この男は人狼で、しかもこの辺りの狼の長だと言う。
人狼には村を幾度となく襲われ、家族を食い殺される者も多く、この私もそんな孤児の出だった。
このヒトモドキは信用ならないと、幼い頃から大人たちに教えられ、私自身成長し力をつけるに従い人狼に出会えば何匹も殺してきた。
そんな憎しみの対象である者に助けられたとして、今までの固定概念が覆ることもなく、ではあの狼の群れもこの男の差し金なのではないかと言ったら、苦笑して違うと言う。

ただ単純に怪我した人間を気まぐれに助けただけである、と。
その控えめな笑みがあまりに美しいので、その真意は正直どうでも良いと思う程であった。

しかし、困るのはこの人狼の無防備さだ。

夜はベッドはここだけであるし、広いので問題無いだろうと同じ閨に入るのだ。
しかも体をぴったりとこちらにつけて、それどころか体に腕を回して抱きついて眠るのだ。
怪我の発熱のおかげで常に体温が高いとはいえ、別の困ったところも熱に浮かされる憂き目に遭うとは
この狼は人の気も知らず、いつだってぐいぐいとこちらに不必要に触れてくる。

今に襲ってやろうか……い、いいや、恩人に対してそれは……しかし

「狼、申し訳ないのだが……もう少し体を離してもらえないだろうかこれだけ広いベッドなのだからぴったりと寄り添う必要は無いだろう?」
「貴方の体温が心地いいのです。それに、貴方の匂いが好きだ。こうしていると落ち着く」
「・・・・・・・・・その、私が落ち着かない」

見上げてくる彼はとても可愛らしく、そして不満そうだ。
僅かに尖らせたその唇に自らのそれを重ねたくなる。

人の気も知らないで、くるくると愛らしい仕種を披露するのだから堪らない。
これははっきりと言わなければ駄目なのだろうか。
できれば今後もこの子との交流は持ちたかったが……それとも、もし拒まれたのなら奪ってしまおうか……

「この姿なら問題ないか?」

人が思考の海に沈みこんでいる間に、なにやら思いついた男が嬉しそうに口を挟んだ。
男を見ると、目の前には大きく立派な栗色の毛並みの狼が行儀良く座っていた。
思わずその柔らかそうな毛並みを撫でる。
狼はうっとりと目蓋を閉じて私の撫でられるに任せている。

「ああ、まぁこれなら……
「でも何故俺が人の姿では落ち着かないので?」
……いや、その

しどろもどろになる様子が楽しいのか、狼は声だけで笑みを零す。
人の姿で微笑んだのなら、それはもう美しいのだろうと思った私は、無性に彼に触れたいと思った。
狼の背に両腕を回し抱き寄せる。

「あまり私を困らせるな
「何故、困るのです?」

狼の背がなだらかになり、私の背に人に戻った彼の両腕が回される。
ギュウと強く抱きしめると、うっとりとした吐息が耳元で吐かれる。
どこまでこの子は私を煽り立てるのだろう。

背骨に沿って、彼の背を撫でれば、彼は体から力を抜いた。
憎らしいくらいに無防備だ。

彼は確かに人狼だが、私とて獰猛な狼をこの身に飼っているのだ。それを思い知らせてやろうか?

「もし望むのであれば、俺を貴方の好きにしていいのですよ」
「な、にを……

耳元で妖艶にふふと笑う声がする。
僅かに体を離し、彼の顔を覗き込めば誘うように艶やかな笑みで私を見上げる。

これが食い殺される前の戯れだとしても構わない。
彼に触れられるのなら、なんだってこの命だって神に捧げよう。

ふっくりとした彼の唇に指を這わせる。
ふにふにと唇を遊ばせれば、彼が私の指を咥えて飴でも舐るようにその熱い舌を絡ませてきた。
彼の口から指を引き抜き、唾液に濡れたその指を、彼に見せ付けるようにべろりと舐め上げた。

狼の喉がこくりと上下する。
熱に浮かされたような美しい瞳は、さらに私を誘いかけるようにうっとりと細まった。

彼の顎を取り顔を近づける。
唇が触れる寸前で、意地悪く彼に同意を求めた。

「キスだけで済まないが、良いのか?」
……さっさとそうしてくれたら貴方だって困ること無かったのにヒトってのは随分と我慢強いのだな」
「なら、もうそれは無しだ。私の好きにさせてもらうぞ」

狼は笑みで了承を示すと、うっとりと目蓋を閉じた。

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