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悪魔集中掃討作戦 クレイン01

@sin_niya_b
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2018-01-14 20:52:11

チュスさん( @mutumu )と!




 悪魔が集団で拠点を作るなど、前例のない行動である。人間では対処できない(ころせない)相手に対して今までなんとか踏みとどまってこられたのはあれらが統率されていない烏合の衆だったからであり、群れを作られ、あまつさえ集団で行動を起こされてしまっては我々に勝ち目はない。一方的な蹂躙によってこの国は滅ぶ。
 ――であるから、我々は戦わねばならない。どんな手段を使ってでも生き延びなければならない。それこそが人間の本懐である。
 自らが籍を置く教会の礼拝室で跪き長い祈りを捧げていたその神父は、祈りを終えると静かに立ち上がり荷物を持ち上げた。出立の時間である。
 彼の名はクレイン・オールドマン。中央区、広域悪魔対策室・第二遊撃部隊に所属する武闘派だ。長年に及び悪魔と戦い続けてきた彼は当然今回の作戦にも召集され、南東にて形成されつつある悪魔の拠点へと向かうことになっていた。
 教会の表に用意した馬に荷物を積み、自分も跨がる。東区経由で南区へ向かう行程で、現地への到着目標は二日後。東区で一泊する予定である。
 手綱を手繰り馬を走らせるクレインの目は静かに凪いでいる。……ように見えるのは彼が本心を押し込めがちな男だからであって、実際のところその心中は穏やかではない。
 悪魔の侵攻が本格的に始まったのと同時期にクレインは正式な神父となった。それからずっと前線で働き続けているため、王国の窮状は肌で知っている――政治や社会活動については範囲外であるが――。ぎりぎりで踏みとどまり、ほんのわずかずつではあるが国民たちの状態も快方へ向かっていたというのに、最近の王国は極めて不安定である。
 ――主よ、主よ、我らに試練に耐える強さを与えたまえ。
 懐に入れられたロザリオを、その感触を、クレインは何度も頭の中で反芻していた。


 ……東区の一角にある小さな靴工房。そこを訪れたクレインは、まるで自宅に帰るような自然さで扉を開き中へ足を踏み入れた。
「こんばんは」
「いらっしゃい」
 奥の方から聞こえたのは落ち着いた男性の声で、少ししてから声の主が姿を見せる。エプロン姿のその男は、手袋を外しながらクレインを見てわずかに表情をやわらげたようだった。
「君か。よく来たな、今日はどうした?」
 チュス・レオーネ。この工房の主であり、クレインの友人である。また、聖職者ではないのにこうして活動出来ているのだから当然普通の人間ではない。……翼が片方逆向きに生えているなり損ないではあるが、彼はクレインを加護し、死の淵から掬い上げた天使だった。
「仕事で南東の方に行くことになったので、ついでに顔を出しておこうかと思って。元気そうでなによりです」
 ふ、と笑みを浮かべたチュスは、軽くクレインの二の腕を叩いた。
「君の方こそ変わりないようでよかった。……ゆっくり出来るのか?」
「こっちの教会で一泊する予定です」
「ならうちに泊まるといい、今ちょうど良い薫製肉があるんだ」
 その誘いに少し考えるようなそぶりを見せたクレインは、わずかに眉を下げ苦笑する。
「貴方には勝てませんね、教会に連絡してきます」
 ……そして一旦工房を後にし、しばらくしてから戻ってきたクレインは片手に包みを抱えていた。中身はパンと果物で、クレインの分として用意されていたものの一部を頂いてきたのだ。
 それもあって夕食はそれなりに満足のいくものになり、その後の晩酌もゆったりとした心地好い空気が支配していた。
 クレインとチュス、二人は一回り近く年が離れている――あくまで外見上であり、実際のところ天使であるチュスと人間であるクレインとでは一世紀近く生きてきた年月に差がある――が、友人のような家族のような不思議な情で繋がっていた。
 次の日があるためクレインは早々に酒は止め、つまみだけを口に放り込みながらぽつりぽつりと言葉をこぼす。一方のチュスはまだ杯を重ねているが、少し口数は多くなったものの潰れる様子はない。
 不意に、しん、と静かな空気が流れる。
 その静寂に、チュスが迷うように唇を開いて、閉じた。襟元を指先で弄りながら視線が落ちたのを、クレインが怪訝そうに見やる。
「……明日、」
「はい」
 促すように頷いたクレインの顔をうかがいながら続けるチュスの表情は少し硬い。
「なにか……危険なことをするんじゃないのか」
 そのチュスを見返したクレインは、少し首を傾げて笑ってみせる。
「いつもと同じような仕事ですよ」
 否定をしないのは彼なりの誠実さか、卑怯さか。クレイン・オールドマンという男はこの友人を、この場所を大事に思うあまり、けして自分の仕事について深く話そうとはしなかった。
 ――もし、己がいつか暴力的な死を迎えて、過去形で語られることになっても。その記憶に残るのは戦士としての己ではなく、ただの穏やかな男であってほしいのだ。
「……いつもと同じ」
「ええ」
 その「いつもと同じ」ものが一般的な聖職者とは少し異なっていることをチュスは知っており、この友人が危険な目にあうことや傷付くことは極めて不本意ではあったが、彼にそれを止めさせることは出来ないこともよくわかっていた。
「そうか、……そうか……」
 少し悲しげな――というより寂しげな――声音で呟きながら目を伏せたチュスを、クレインは黙って見詰めていた。


 次の日、朝。教会から馬を引いてきたクレインは、工房の前で出立の準備をしていた。馬に荷物を積み、その首を撫でると人懐こい仕草で頭を押し付けられる。
「じゃあそろそろ行きますね」
「……待て」
 それから馬に乗ろうとしたクレインを、チュスが引き止める。伸ばされた両手が、怪訝そうに振り返ったクレインの頬を挟んだ。
「僕の目を持っていくといい」
 ぐいと顔を引き寄せ、額を突き合わせる。至近距離で見つめ合うことになった緑と朱が、一瞬ちらちらと光る。瞳の奥に鈍い痛みを感じて思わず目を閉じたクレインは、一呼吸置いてからゆっくりとまぶたを持ち上げた。
 そこにはバーミリオンの輝きを孕んだ目があった。クレインの本来の持ち物ではない、チュスから借り受けた色。
「……終わったら返しに来てくれ」
 ――無事に戻って来なさい。
 言葉にされることのなかった願いを察しているだろうに、そちらについてクレインが触れることはない。柔らかく目を細め、いってきます、とだけ言うのだ。


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新矢 晋@企画用
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