芸術監督として最終シーズンを迎えた宮田慶子とバトンを引き継ぐ小川絵梨子。芸術監督の「これまでとこれから」を語った対談。興味のあるところのみのメモ。記憶違いあったらすみません。ご指摘ください。
2018年1月14日14:00〜15:30 新国立劇場オベラパレスホワイエ
登壇は宮田、小川二人のみ。司会者なし。
宮田:
私が小川さんを知ったのはd倉庫の『プライド』。
その後2013年の30代若手演出家3人を集めたトライアングルシリーズで『OPUS』を演出していただいた。それが小川さんの新国初登場。
小川さんは歴代芸監の最年少の現在39歳。本当に若い芸監。私とは21歳違い。この間の年代にいろんな方がいる…私も53歳で就任し当時は最年少だったが…(大変だよー的な口調でした)
小川:
2年前に理事長から芸監の打診があった。3週間で決めてと。
宮田さんの任期は分かっていたので次が誰かは気になっていた。
芸監によって仕事が来るかどうか違うので(笑)。
で承諾した訳だが、大変さが分かってなかった。決めてから周りから「よく受けたね」と驚かれた。そこから「大変!!」と分かって来て…
宮田:
芸監の一番重要な仕事は基本方針の決定、そしてラインアップ。
ラインアップは2年前には決めるわけだが、何を指針として決めるか国立の劇場として悩むところ。そもそも日本は芸術監督って仕組み自体が始まって間もない。私は日本の演劇とは何か、猿楽まで立ち戻って考えたりもした。
小川:
新国の組織自体の知識もなかったのでそこからレクチャー受けた。
宮田:
組織の本体は独立行政法人でもちろん税金が入っている。ただ税金だけで運営してるわけではない。企業、個人からの支援も受けている。支援を増やすために色々頑張ってはいる。
日本の現代演劇は1924年の築地小劇場に始まり、民間主導がずっと続いた。公共のものは1990年の東京芸術劇場が最初。埼玉、神奈川とあって、うちと世田谷が同じタイミングで開場してちょうど20年。
<ここから小川さんの話。なぜNYに行ったのか?>
小川:
大学卒業後演出を学びたかったが、劇団の演出部は「コワイ」と思ってNYの大学院へ
宮田:
日本だと徒弟制度だからね。ひたすら先輩演出家の手法を見て覚える。足りない部分を自分で本で調べて補う。きちんと体系立って学んだ小川さんが羨ましい。
(小川さんからNYのアクターズスタジオの教育内容の話。すごく面白かったがメモってない)
小川:
元々ずっとえんぶを購入してたくらい演劇観るの大好きで、日本の第三世代の方たちが私のヒーロー。書いて、自分の劇団持って、演じる。私にああいう作演の才能はない。
(宮田:私と小川さんだと観てた対象も違うね。私の年代だと新劇の最後を観てた。)
で演出だけやりたいと思ってNYへ。でも劇団に所属していない場合、日本に戻ってもどこで仕事させてもらえるのか。勉強してる間もずっとそれを悩んでた。日本から来る人に聞きまくったが、皆一様に「書かないんでしょう?うーん」「東宝かなぁ?うーん」。
宮田:
日本は基本それぞれの劇団、劇場の演出部だからね。プロパーの演出家としては小川さんはパイオニア。
<アメリカでは劇場運営は民間でも公立でもないと言う話になり>
小川:ケネディセンターはあるけれど、アメリカの劇場は基本公立じゃない。Non profit(非営利団体)が運営している。基本は全て寄付金。ただ税金の控除が適用されるので個人でも寄付がしやすい。私が一本公演やる時も友人が寄付をしてくれる。「税金で取られちゃう分寄付するね」って感じで。寄付は少額でも大きい。有難い。
宮田:
日本でももちろん控除の仕組みはあって、新国にも個人での寄付が増えて来ている。ただ一般の方が気軽にどんどんってとこまでは。
小川:
うちの主人は会社勤めの一般人ですが、寄付するって考えは全くない。
<帰国して日本の演劇界をどう思ったか?>
小川:
コワソー!飲み会とか。
宮田:
確かに。稽古後ひたすら飲んでた時代が続いた。とにかく飲みで語る世界。稽古場ですればいいのにね。私は飲めないので何度意識を失ったことか。でも最近変わった。体調管理のために帰るようになった。若い役者なんて特に。
小川:
でも出会った人が良かった。中嶋しゅうさんとか。(『今は亡きヘンリーモス』で)しゅうさんと出会ったことは本当に大きかった。出会ったから今がある。出会ってなければ演劇続けてない。演劇のお父さん。
宮田:
あんなに優しい人はいない。顔は怖いけど。
<集客の話に移り>
宮田:
日本でもストプレの上演が増えたと思う。ただ、スマホが登場して10年。SNSの時代。これが本当に大きかった。実演芸術に行くならゲームアプリを買う流れに。ストプレ観るより2.5の傾向。
そして各劇団がプロデュース公演に移行している。
小川:
帰国したら大人計画がプロデュース公演に変わっていて驚いた。
理想は「作品」でお客を呼びたいが現状は違う。どこで集客するのか。はっきり言えば「キャスティング」だと思う。公演は二、三週間しかない、地方のお客もいる。
もちろんこれには良い面もある。役者さんは演劇に興味がある。
(誰をキャスティングしたとしても)作品の力を信じてやっている。
客がいてくれるから作り手も力をもらえる。
がらんとした客席では演劇はだめ。
観客は3人目の作り手。
これは良い悪いでは無い現状。
宮田:
民間で商業ベースの場合でも良い作品だから来てほしいと思ってる。役者の人気に頼るつもりはない。が、たくさんの客席の力を知ってしまうと…
<新基本方針と新ラインアップの話>
小川:
歴代の芸監の方(栗山、鵜山、宮田)に話を聞いた。何を思ってラインアップを組んだか。流れがクリアに分かった。私のラインアップは宮田さん流れの上に考えた。
自分はエッジの利いたものよりもベーシックな作品が好き。言ってみれば芥川賞より直木賞が良い。多くの人に届けるものだから、国立だから。
ただ、民間と違って一作品の成果が命取りにはなる訳ではない。ある程度冒険が出来る。もちろん赤赤赤だと私は次の年にはいなくなってしまうわけですが(笑)。
その意味で三つの柱のうち二つ目(演劇システムの実験と開拓)は特に大事にしたい。三つとも大事だけれど。
「演劇システムの実験と開拓」の話に移り
<フルオーディション>
小川:
役者によって作品が全く変わってしまう。
だからフルオーディションで全ての役者を選ぶところからやりたい。
オーディションに来るという段階で役者のベクトルが違う。スケジュールが空いていたから来たとか勉強しに来たという役者は(ちょっと省略)
宮田:
『わが町』(2011年)のときは若手はオーディションにした。この時の中村倫也君や橋本淳君は今は大活躍。オーディションってある意味一番健全。
小川:
今回フルオーディションにする『かもめ』は戯曲が入手しやすいので選んだ。『OPUS』でオーディションしてもどこで読めるの?になってしまうので。
毎年一本はフルオーディションでやりたい。
<こつこつプロジェクト>
小川:
3人のフリーの演出家の方に1年かけて作品と向き合ってもらう。最終的に上演出来るかはわからない。
昔から思っていたが稽古一ヶ月は短い。一ヶ月だと最後はとにかく形にするしかなくなる。
時間をかけた作品の作り方を試したい。
ロンドンのナショナルシアターに話を聞きに言ったが、あそこではデベロップメントのセクションに200近い作品が待機状態で動いている。作品が良いから劇場にあげる。これをやりたい。
今回3人の方に2年でお願いしている。3ヶ月と6ヶ月は内部のみで試演。6ヶ月目で継続するかどうか判断する。6ヶ月でもっと伸びるかどん詰まったかわかるので。残ったものが1年後に一般向け試演。3本ともだめになる可能性もある。
(宮田:役者も1年間付き合うの?)
ずっとじゃないから。チェンジもありえるだろうし。
作品を作るプロセス、作る喜びと面白さ、これをより重視したい。
すぐの成果よりもシステムを試したい。
<2018/2019ラインアップ作品について>
小川:
ざっと一言ずつ紹介すると
『誤解』若手の稲葉さんに演出をお願いした。とてもしっかりした方
『誰もいない国』いつかやりたいと思っていた作品。寺十さんのファンなんです。役者としても。で、これ寺十さんの演出で見たいと思ってお願いした。
『スカイライト』浦部さんの新訳で私が。浦部さんは私にはなくてはならない人です。
『かもめ』トム・ストッパード版はNYで観た。夏の無料公演だったのでチケット取るのに48時間並んだが。楽しかった。キャストがゴージャスで。ストッパードなんだが特に改変している訳じゃない。ちょっとadaptationしてる程度。
『1001(仮題)』招待枠として少年王者館を。私が大ファンなんで。唯一無二の作演をしてくれる団体。大変有名なので私が紹介するまでもないのだが。
『オレステイア』一応一本は古典も入れたいと思って。厳密には古典ではないですが。上村さんからの推薦でこれにしようと。
『野木萌葱 新作』野木さんが大好きなんでお願いしたら書いてくれることになりました。
ついでで是非言っておきたいことが。NTLiveと並びが被っちゃったんだが、『スカイライト』は確かにNTLiveで知ったが、『誰もいない国』は前からやりたいと思ってた。この並びは本当に本当に偶然なんです!
(場内かなり受けておりました)
<マンスリープロジェクトの話>
小川:マンスリープロジェクトは名前が変わるかもしれないが引き継ぐ。
宮田:8月にはこの8年間96本の振り返りやります!大変なことになりそう。
<宮田さんの心残り話>
宮田:
①新国出版部を作りたかった。ロンドンのマネをしたかった。向こうは統一規格ですぐ出版される。誰でも戯曲が読める。日本では色々な壁が分厚くて挫折。作家さんと出版社の関係とかあるんですよね。ただ日本でも光文社と悲劇喜劇でかなり出していただいています。
②海外との連携ももっとやりたかった。ウェールズのジョン(ナショナル・シアター・ウェールズの前の芸術監督ジョン・E・マクグラス)とはまだ繋がりがあるんで、この前ちょっとメールしたが…
③地方とも繋がりたかった。各地に面白い演劇人がたくさんいる。
④演劇研修所に演出家コース作りたかった。
⑤「新国祭り」をやりたかった。バレエ、オペラ、演劇の三つ合同で、その日一日は短い演目をいくつもかける。お客様は自由に見て回る。やりたい。楽しそう。
どれも心残り。言い残していくのでよろしく。
(小川さんが強くうなづかれ、対談は終了いたしました)
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<感想>
随分と踏み込んだお話もありましたが、とにかく集客の話が一番胸に突き刺さりました。「作品の力を信じて」ってくだりで小川さんのジレンマを強烈に感じましたよ。集客力はあるけれど経験の少ない役者を彼女はとても上手に使うけれど、納得できるレベルに行くことはどれくらいあったのだろう。新国芸監になっても集客の縛りから解き放たれるわけではないですが、どこかのタイミングで思いっきり納得出来るキャストで演出してもらいたい。そういう作品を観たいです!
今回は小川さんに焦点が合ってしまいましたが8月のマンスリープロジェクトでの宮田さんの振り返りも楽しみです。なんだかんだ言って宮田さんは偉大な芸術監督でした(ってまだ最終シーズン残ってるけど)。感謝の気持ちでいっぱい。