@syuu_29
最初こそ着慣れないスーツに戸惑い、メイド達の手をわずらわせていたものの、もう無意識のうちに着替えを進めることができるようになっていた。つい最近までは結ぶことのなかったネクタイも、もう綺麗に結ぶ事ができる。当然、誰の手も煩わせずに。
ナイフを差し込んだコルセット型のベルトを腰に締め、リボンで髪を二つ結びにし終えたのを見計らったように止まり木から飛び立つフクロータを左腕に誘導し、さて部屋を出ようとドアノブに手をかけたその時だった。
遠慮がちなノックが響く。そのタイミングにすこし驚きながら、フェリチータがそのままドアノブをひねれば、扉の向こうには驚いた顔の従者がいた。
「おはようございます、お嬢様。ちょうど出てこられるところだったんですね。」
そうだと頷けば、帽子をかぶった青年はにこりと見慣れた笑みで応えた。心の中を覗くまでもなく、普段通りの様子だ。安堵に唇の端が少しばかり緩む。
「そうだ、お嬢様。今日の朝食は私が作ったんですよ。たくさん食べてくださいね!」
些細な表情の変化だが、伝わったようだった。声がはずんでいる。フェリチータより一回りほど年上のはずだが、嬉しそうにする彼の姿はどうにも幼く、可愛らしいとさえ思えてならない。それが今日も変わらないことが嬉しく、つられるように彼女は笑った。
「うん。ルカの作るものはなんでも美味しい」
だからすき。言外にそう込めて言う。少し前までならば、そのまま「だからすき」まで言っていただろう。他愛もなく。悪意なく。
幼い頃からフェリチータの従者としてマンマと三人暮らしを続けてきたルカは、いつだって朝一番最初に顔を合わせる相手だった。フェリチータがファミリーの一員として認められ、三人で暮らした小さな家からこのレガーロ島へやってきて、三ヶ月がすぎるまでの間も、それはほとんど変わらなかった。フェリチータが寝坊しようとしまいと、彼は毎朝必ず部屋を尋ねてくれた。フェリチータがまだ起きていなければメイド達を呼んで彼女の着替えを手伝わせたし、彼女が起きて着替えていれば、それが済むまで扉の前で待っていた。まるで忠犬だ。
だが、一月前にパーパの提案により決定された“アルカナ・デュエロ”までの準備期間になってからはそれもすこしずつ頻度が落ち、ここ一週間の間ではこれが二回目。従者の身から花婿候補の一人へ立場が変わったルカが案じた結果だ。フェリチータに優しく、甘やかしていると言われても反論できないような態度のまま、しかしほんの少しだけ二人の距離をとろうと試みているらしかった。
デュエロまでにより多くの人と絆を深め、アルカナ能力を高める必要があるフェリチータのためを思っての行動だが、彼の胸の内にほんのわずかに「さみしい」という気持ちが視えている。
それが嬉しかった。
けれど、それが良い事であるのかの判断にフェリチータは迷い、答えを出せずにいる。
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二年前に書いた