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03.時代物風・武家の妻

明咲千寿
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2018-01-21 00:46:00

サイトに掲載しているサンプルボイスを小説に書き起こそうとしたデータを見つけたので掲載。

該当のサンプルボイスは当方運営の個人サイト、愛惜ノスタルジィ(http://asaki36.yumenogotoshi.com/)にて公開しております。

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「御前様の御奉公の為に千石千金の貯えを欠かすわけには参りませぬ」
 そう言って妻は掌で弄んでいた扇を閉じ、それをぎゅうっと両手で固く握りしめた。
「御前が私の慮って仰って下さっている事、重々承知しております。ですが、武家の奥向きはどれほど慎ましくとも恥には為りませぬ。けれども、武備えを怠り、御前様の名に瑕疵がついてしまわれるような事があれば私、私……」
 体を強張らせて肩を震わせながらも、鈴を張ったような瞳をうるませ、懸命に己を射抜く姿は確かに頼り無いが、輿入れした時の少しの側仕えとともに故郷を離れた寄る辺無さを胸に抱えて怯える幼姫とは似て非なるものだった。
 とは言え、あの頃より年を経て美しくなった姫はそれでもまだ幼く、その薄い肩にそう遠くない内に一門を取りまとめる事となる惣領の妻としての重責はさぞ重たかろう。けれど、戸惑う事はあれど、厭うことは無い。
 彼女なりに己の役割と向き合おうとするあの頃にはない気丈さがそこにはあった。
「私には国を治める事も、軍場にて首級をあげる事も出来ませぬ。けれども、御前様の妻として、お支えする事は出来まする。……僅かばかりでは御座いますが、私の持てる限りを尽くし、御前のお役に立ちとうございます」
 そして強く口元を引き結び、深々と頭を下げた。


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明咲千寿 @asaki36
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