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エツィオは激痛に目を覚ました。
足元を見ると、両足ともにありえない方向に曲がっている。
霞みがかる頭で、ああ骨が折れたのだと認識すると、どくどくと心臓が早鐘を打つ。
ハァハァと獣のように速い息をつき、混乱する。
あの狼が猟師を狂わせてから自分の人生は狂いっぱなしだ。
死への恐れから愛しい猟師から逃げ続けてもう何年になるのだろう。本当は猟師の顔が見たい。
たとえ恨まれていても、憎まれていても、こんなときにあの人の顔が一目でも見れたら…こんな事になるのならあの人の手にかかれば、まだ幸せだったかもしれない。
俺はきっとこのまま一人朽ちていくのだろう。
ここは人が入らない山の奥だ。自分は渓谷に落ちてしまった。
助けはない。
エツィオは絶望のうちに気を失った。
ガサガサと草木を駆け抜ける。
憎いあの男の匂いがかすかに道を示す。
どういうわけかあの小僧は私の追跡をことごとくすり抜け、何年も捕まえられずにいる。
私の感覚は研ぎ澄まされ、鷹の目で彼の通った後も、彼の陰影も見えるというのに。
だが、あの小僧は小賢しく、目くらましをする為に同じ道をぐるぐると何度も駆け抜け、私に見せる軌跡を全て潰していった。
あの男を追うために私は忌み嫌っていた人狼の力を研ぎ澄ませた。
いまやほぼ人狼の姿で野山を駆け巡りあの男を追跡する。
人の住む町に下りる際は人間の姿となるが、いつもは半人半獣の醜い姿だ。
この方が力も感覚も体力も極限まで高いのだ。
長年追い求めたあの小僧の匂いが強くこの鼻腔に感じる。
四肢で地を駆け渓谷へと飛び降りると、あの小僧がぐったりと倒れ伏していた。
ぐるると喉が鳴る。呑気に眠っているのであればあの腹を蹴り上げて起こしてやろう。
そして一本一本の骨をへし折り肉を裂き、なぶり殺しにしてくれる!!
やっと復讐が叶うのだ。喉の奥から歓喜の笑いがこみ上げる、ククク、と短い笑いが漏れ、ゾクゾクと鳥肌が立ち高揚する。
だが私は憎いあの小僧の姿を一目見て凍り付いた。
私の愛しい狼に瓜二つの男がそこに横たわっていた。
美しい相貌に不釣合いな立派な口ひげ、首筋から鎖骨にかけて露になる肌は白く、そしてその四肢は瑞々しく逞しい。
あの狼を手に入れる前、私から逃げおおすあの頃の狼そのものの姿であった。
ごくりと喉が鳴る。
エツィオはあの渓谷から滑り落ちてしまったのだろう。まだ辛うじて息はあるが、両足が不自然な方向に曲がっている。
額に脂汗が浮かび、美しい眉は苦しげに寄せられている。
彼の頬に手を当てると、とても熱い。
顔を近づけ彼の唇にそっと口づける。
濡れた感触と熱い息遣いにまだ間に合いそうだとぼんやりと思う。
近くに落ちている太く真っ直ぐな木の枝を拾い、腰のポーチに収納している手ぬぐいを当てて添え木をした。
骨を元の位置に戻す激痛でエツィオの意識が一瞬浮上したが、此方に気付いているのかいないのか、虚ろに宙を見つめて涙を流した。
ああ、なんて美しいのだろう…
こんな風に苦痛に顔を歪めてもどこまでも美しい。
ああ、苦悶に歪むその唇に私の物を突き入れ、喉の奥まで突いてやりたい。
欲を抑え、ここへ彼を追うまでに居た街へと彼をそっと抱えて降りる。
医者を見つけて彼を見てもらい、私が宿泊していた宿へと彼を運び入れる。
泥に濡れた衣服を剥ぎ、逞しくそして彫刻のように美しい彼の体を確かめる。
彼の体を拭き清め、本当に狼と寸分も違わぬ彼のその姿を見つめる。
何故?狼が蘇ったかのようなこの姿…
よぉくこの子の元の姿を思い起こすが、確かに…あの狼と彼は似ていたかもしれない。
あどけない彼と精悍な顔つきをした狼はあの頃は似ているとは思わなかったが、まるで双子か親子かと言うほどに狼と彼は似ている。
思わず両手で彼の体をなどり、彼の首元に噛み付くように口づける。
そのまま肌を舌でなぞり、彼の唇に深く口付けを送る。
熱い彼の舌を飲み込まんと吸い上げる。
可愛らしく鼻にかかる声を上げ、ひくりとまつげを振るわせる。
うっすらと瞼が上がり、私を見詰める。
何度か瞬きを繰り返し、目の前に居る人間が何者か考えているのだろう。
熱で上気し、涙に濡れた瞳は情事の狼を思い出す。
今すぐに彼をどうにかしてやりたいと思うが、こんな事でこの子を失うわけにはいかないと思った。
エツィオには狼の代わりをしてもらう。
狼の代わりにこの子がこれからは私のものだ。
今度は絶対に逃がさない。
牢にでも入れて誰の目にも触れさせず、私だけが彼を愛でる。
甘苦しくこの胸を打つ期待に、うっとりと笑みを零してもう一度エツィオに口付けをした。
****
これは夢かと思った。
一人足を滑らせ落ちた峡谷で朽ちるとばかり思っていた。
激痛の中、願望が幻覚として現れたのか、一瞬猟師の姿を見た気がした。
次に目が覚めた時は痛みが薄れ、ボウとした視界の中で、また猟師が目の前に居た。
どこまでも優しく慈しんだ顔で俺を見詰め、そしてゆっくりと口付けてくれた。
体がうまく動かなくてその口付けに答えたいと思っても舌はうまく動いてくれない。
彼にそんな風に触れてもらえるなんて、これはやはり夢なのだと思った……
「エツィオ、大丈夫か?何か欲しいものはあるか?」
「叔父さん…ううん。今は特にないよ」
優しく問われる。
まるで壊れ物でも扱うように触れられて、労わられる。
彼は俺が憎いのではなかったか?狼を奪った俺を殺そうとしているのではなかったか?
そんな疑問が頭を掠めるが、同時にタイムリミットはこの足が治る頃なのだろうとも思う。
ギラギラと獲物を狙う狼のように、見詰められる事が多々あった。
傷を負い、半死半生となった俺をその場で殺めるのでは詰まらないと思ったのだろうか。
俺の傷を治し、万全の状態にしてからきっと俺は彼に殺される。
きっとただでは死ねないのだろうな、と思う。
痛いのは嫌だけど、一度死んだようなものなのだ。この命は彼のものだ。
正直逃げる事にも疲れ果てていた。
猟師に拾われ1月ほど経った頃、体が徐々に癒えるに従い、欲求も溜まって来た。
今は両足を折ってしまい、トイレなども猟師に手伝ってもらう程生活に支障がある。
猟師は俺が粗相をしないように全て付き添ってくれていた。
それなのに、こんな事で煩わせてしまうなどと羞恥と申し訳なさで言い出せずに居た。
時折緩くたってしまうものを何とかやり過ごしていた。
それなのに、彼が俺の体を拭いてくれている間にどうしようもなく欲情してしまった。
「エツィオ…」
「叔父さん…俺…ごめんなさい…」
「何故謝る?これは自然なことだ。早くに言ってくれれば良かったのに。辛かったろう?」
「え…?」
「手伝ってやろう」
「まっ…?!んっあっ…!!」
ズボンを寛げ彼のゴツゴツとした大きな掌が俺のものを優しく掴む。
愛しい彼の優しい手に撫でられるだけで、とてつもない快感が脳天を貫くように走り抜ける。
ヒクヒクと肌を震わせあまりの善さと羞恥に枕に頭を深く沈める。
ともすればはしたない声が漏れ出てしまうのを抑える為に手首を噛んだ。
欲に抗えず、大きく足を開いてもっとと強請る様な姿をさらす。
猟師からは柔らかく笑う声が漏れ、思わず彼に視線をやると彼の顔が近づいて口元の手をはずされて優しく口付けられた。
「我慢しなくていい。声を出したいなら出しなさい」
「んあっ!で、でもっ」
「聞きたいのだ。お前の可愛い声を…」
「やっああっ…!!」
ギシリとベッドが軋む。
猟師がベッドに乗りあがり、強弱をつけて俺のを擦り上げつつ口付ける。
俺に覆いかぶさるこの体制では。俺のが猟師にかかってしまうと思い、彼の胸を押した。
「エツィオ、抵抗できる立場だと思っているのか?お前は私にただ従っていればいいのだ!
まさか何もされない等とは思っていないだろう?お前はあの狼の代わりだ。お前は、私の物なのだ!」
「……っ…」
「逃げられると思うな。少しでも抵抗すれば、お前もあの狼のようにこの両手足を奪ってやる!」
ギリリと折れた足を掴まれる。
激痛に悲鳴を上げて歯を食いしばった。
その後は弄ぶ様に嬲られた。
俺にとっては甘い責め苦だ。どんなに酷くされようとも、彼に触れられていると思うと高ぶった。
「足はもうすっかり良いのか?」
「……ええ、お蔭様ですっかり治りました」
「………なら頃合だな。このまま見逃されるとは思っていないだろう?」
「…はい」
猟師は獲物を狩るような目で笑いかけてきた。
ついに彼の手にかかるときが来た。
万力で締められるような強さで猟師に腕をつかまれ地下の部屋へと連れられる。
重そうな鍵を開け、中へと通されると、そこには簡素なベッドが一つあるだけだった。
「服を脱げ。全てだ」
「………」
大人しく彼の命に従う。その場で全ての衣服を脱ぎ、彼を見上げる。
彼が手にしていた鈍く光る首枷を嵌められ、その首枷から伸びる鎖を支柱に巻きつけてそこに大きな鍵をかけられた。
これで俺は逃げ出すことが出来ない。
悲惨な拷問にでもかけられるのだろうか。苦しいのはやはり嫌だなと思い、また地下の空気の冷たさに肌が震える。
猟師が俺の肩に手をかけ、少し強引にベッドへと押し倒した。
どうされるのだろうと彼を見上げる。
猟師は自身の服のボタンに手をかけるとそれを一つ一つ外して行った。
逞しい胸が露になる。
上半身の衣服を脱ぎ捨て、覆いかぶさってくる。
ギラギラとした目をして微笑み、俺の首を押さえつけて強引に口付ける。
全てを飲み込まれそうな貪るような口付けに体が熱くなる。
ああ、死ぬ前に犯されるのだろう。
けれどそれは、思いもよらない餞別にしかならない。俺は彼を未だ愛している。
自由な腕を猟師の背中に回し、戸惑いがちに口付けに応える。
此方からの応酬に驚いたのか、猟師が僅かに唇を離したが、直ぐにまた食いついてきた。
口付けの合間に互いの体をまさぐりあう。
首筋にちゅぅと強く吸い付かれ、俺は彼の髪に指を差し込み彼の頭にキスを落とした。
「従順にすれば酷くされないと思っての事か?」
「俺にとっては貴方に触れられるのは嬉しい事です。俺を殺す前に触れてくれてるのでしょう?」
「お前を殺す?そんな気はない。これからお前は私のためだけにその身を捧げ、ここで私のためだけに生きるのだ」
「……何故?貴方は俺が憎いのでは?」
「ああ、憎かった。だがお前はあの狼にそっくりだ。あの狼が生き返ったのかとそう思うくらいに。お前は私からあの狼を奪った。その代わりを務めてもらう」
「…狼の代わりでも、貴方と共に居られるなら…」
多くは望まない。きっとこの先、代わりの役割にどうしようもなく悲しくなってしまうかもしれないけれど。
両手放しで喜べるものではないけれど、猟師の寛大さに微笑んで感謝する。
「ずっと貴方を愛しています」
「……ならば、証明して見せろ」
猟師は首枷を外し、疑い深い目で俺を見下ろした。
****
「エツィオ、久しぶりに一緒に狩をするか?」
「いいの?」
「私から何年も逃げ続けていたのだ。多少はましになっているのだろう?」
ふふんと笑ってからかわれる。
昔の猟師はただ俺に優しく接しても、こんな風に軽口を叩く事はなかった。
試されているのだと思う。きっと山に連れて行くのは隙を作って俺が逃げるかどうか試すためだ。
だが、俺は元々猟師から離れる気などない。
ずっと彼のものになりたかったのだから。
市街地を抜けて山の入り口に差し掛かる。
ここまでくればもう俺たちを気にする人影はない。そう思い、そろそろと猟師の手に自分の手を重ねた。
ぎゅうと握り返されて嬉しくなる。
くっついて歩けば猟師が苦笑して歩きにくいぞと嗜めてくる。
もう少しだけこのままじゃ駄目?と上目遣いでおねだりすれば、猟師は苦笑して仕様がないと許してくれた。
山の奥に入るまでずっと手をつなぎ、他愛のない話をして歩いた。
俺は彼の隣で穏やかなときを過ごせるのが嬉しくて楽しくて仕方なく、ずっとはしゃぐ子供のようになってしまった。
ここへは狩りに来ているのだと窘められて、獲物を探すべく口を噤む。
辺りに神経を集中させ、物音がしないか耳を澄ます。
カサリとかすかな草を掻き分ける音を拾い、俺は勢い良くその音の元へと駆け出した。
獲物に覆いかぶさり首を抑えひねりあげる。
苦しまぬよう首の骨を砕き、一瞬で絶命させてから猟師のほうへ振り返る。
得た獲物を高々と掲げて一番乗り!とはしゃいだ声を上げれば、猟師は目を丸くして俺を見詰めていた。
「ウサギか……随分と俊敏な動きだったな。正直驚いた」
「俺魚も捕まえるの得意だよ!今の時期だと美味しい魚いっぱい居るんじゃないかな」
「では川があったら魚捕りをリクエストしようか」
「良いよ!たくさん捕ってあげる!」
その日はウサギと狐を2匹捕まえ、帰路に着いた。
******
あの子を試す為に狩りに誘った。
エツィオに声をかけると本当に嬉しそうに顔を綻ばせ、楽しそうに頷いて見せた。
出かける準備をし、並び立って山へと入る。
人が居なくなったその入り口で、エツィオはそろりと手を握って来た。
思わずその手をぎゅうと握り返すと、彼は嬉しそうに私を見上げて私の腕を抱くように体を密着させた。
ドクリと心臓が高鳴る。
あの狼の姿で、私を愛しそうに見上げて微笑むこの子を今すぐ欲しいと思った。
この場で襲い掛かり、全てを奪いつくすように彼の体にむしゃぶりつきたい。
私の欲を知ってか知らずか、彼は呑気に世間話を振ってくる。
正直彼の話は右から左へと耳を素通りするばかりで、煽られる欲をやり過ごすのに苦労をした。
山の中腹に差し掛かった辺りで私は彼に、ここへは狩りに来ているのだぞ?と窘めてみた。
するとエツィオは一瞬不満そうな顔をした後、そっと私の腕を放し、口を閉じて周りに神経を集中し始めた。
私は彼の熱が去った左腕が急速に冷えて、とても残念に思ってしまい内心でうろたえた。
狩りどころではなく、彼を熱く見詰めてしまう。
先ほどの人懐っこい可愛らしい笑顔とは一変して凛と佇むその姿は、あの狼そのものだった。
エツィオが不意に私の隣から駆け出す。
その瞬間、彼が私から逃げようとしていると咄嗟に思った。
彼の背に向けて猟銃を構える。
彼は近くの茂みに向かって跳躍すると、なにやら捕まえて小枝の折れるような軽い音を響かせてから振り向いた。
エツィオの手には白いウサギが握られていた。
狩った獲物を誇らしげに掲げて私のところへ戻ってくる。
そういえばこの子は昔から何か珍しいものを見つけたときにはこうして嬉しそうに私に報告をよこしたな、とかつての幼いエツィオを思い起こした。
そのたびに私はこの子を煩わしいと思いつつ、心の奥底では好ましくも思っていたのだ。
「ウサギか……随分と俊敏な動きだったな。正直驚いた」
私から逃げ続けてその技を習得したのだろう。
着の身着のまま逃げて、物音を立てないように、自分の居場所を私に知られないように静かに狩る。
「俺魚も捕まえるの得意だよ!今の時期だと美味しい魚いっぱい居るんじゃないかな」
そうしないと私に殺されると思い。
「では川があったら魚捕りをリクエストしようか」
「良いよ!たくさん捕ってあげる!」
屈託なく笑いかける彼の顔を眺めて、私はこの子を早々に捕まえ、殺めなくて良かったと心から思った。
******
「私から逃げなくて、良かったのか?」
突き上げながら彼に意地悪く囁き問いかける。
正面から私を受け入れ、苦しい体制になってる彼は、その身を震わせ私に縋りついた。
「あっあっ…も、逃げ…ない、からっ!」
「私に殺されないと分かったからか?」
「んっんっ…!!貴方に、救われたからっ…俺は…」
グリと抉る様に彼の奥に突き入れる。
二度目の交わりで多少は要領を得たらしい彼は、自ら良い所に当たるよう、腰を調整する。
「気持ち良いか?」
「んっ…くる、し…けど…きもちぃ…」
美しい涙を零しながら頬を上気させて私の唇に彼のそれが送られる。
必死に縋りつくその様は私の嗜虐心を煽りたて、私に激しく彼を攻め立てさせる。
ひたすら受け入れられる私の想いとこの行為に、あの狼をいくら抱いても得られなかった多幸感が私を包み込む。
私はあの狼に出会わなければ、エツィオに恋をしていただろうか?
彼に慕われ、悪い気はしなかった。
彼の想いが積み重なって互いに時を過ごす中で、私はこの子を愛しただろうか?
いいや、この子は昔から誰にでも愛された。
この子を愛せば私はきっとこの子の未来を想い遠ざけただろう。
だが、今は私だけの物だ!
この身の内に取り込んでしまおうとするかのように強く抱きしめる。
彼は私を不思議そうに見上げると、とても愛しい者を見るような目で、私の頬に両手を添えて優しく口付けてくれた。
ああ愛される事がこんなにも熱く、甘く狂おしい程に幸せなものだとは。
与えてくれる彼の愛を奪うように掻き抱く。
私の物だと、そうなりたかったと言うならば、永遠にこのまま私の腕の中でだけ生きればいい。
「エツィオ、私の許可なく外に出る事は許さん。ずっとここに居るんだ。私の腕の中に」
呪いの様にこの胸に渦巻くどす黒く禍々しい願いを囁きかける。
それなのに私の腕の中で好き放題に攻め立てられるこの子は嬉しそうな顔をして了承のキスを降らせる。
これがどういうことなのか理解していないのか。私の願いを私の我儘をどれだけ受け入れようというのか。
罪滅ぼしのつもりか?それとも同情か。疑い深い己はエツィオの愛情を信じられないで居る。
昔からそうだ。愛する事を知らず、誰からも愛されず、孤独に生きて来たのだ。
あの村に私の居場所はなかった。エツィオ以外に、私に関わろうとする者など居なかった。
ざわりと肌が粟立つ。全ての感覚が鋭くなり力が沸き立つ。
意図せず身体が勝手に変化をした。
「おじ、さ…く、るしい…」
眉根を寄せて苦しそうに抗議する。
後ろに納めている私の怒張がさらに増したのが辛いのだろう。
「我慢しろ」
冷たく言い放ち、腰を強くぶつける。
エツィオははくはくと口を開閉し、下肢にかかる衝撃に成す術もなく身悶えした。
この姿を見せたのはこれで2度目だ。
昔この子が人狼に襲われたとき、その人狼からこの子を守るのに一度だけ変化した。
その時は酷く泣いて脅えていた。
「腹が膨れるまで注いでやろう…嬉しいだろう?エツィオ…」
醜い姿で顔を歪めて嗤ってやる。
さぞ絶望するだろうと冷めた目でエツィオを見下ろす。
彼は苦しさを堪える為か、深くベッドに身を沈め、目を瞑っている。
彼の顔を強引に正面に向けさせる。
その行為にうっすらと目を開け、私を見た。
僅かに驚いたように目を見開くと、彼は私に向かって腕を伸ばした。
「あ、なた…の、人狼の、姿…久しぶりに、見ました」
「………恐ろしいか?」
「……い、いえ…あの時も、思ってましたが…格好良い…」
「嘘を言うな。あの時、お前は酷く脅えていたではないか!」
「だ、って…貴方は、血だらけで…今にも、死んでしまいそうだったじゃ、ない…ですか」
あの時は本当に怖かったとエツィオが言う。
確かに、あのときの人狼はとても強く、此方も危なかった。
1対1なら簡単であったのに、後ろにはエツィオが居た。逃げろといっても腰を抜かして微動だに出来なかったのだ。
「貴方を失うんじゃないかと…」
それが怖かった。
「……っ!…」
綺麗事だ。あのときのエツィオは本当に脅えていた。それが私のこの姿のせいではないとどうしていえる!
もうお喋りは終わりだ。
宣言通り、腹いっぱいにくれてやる。
夜通し彼の体をこの姿で貪り、彼が気絶しても頬を張って意識を戻して許す事はしなかった。
*****
「エツィオ、飯は食えるか」
「………」
ぐったりとベッドに身を横たえ、私の問いかけに何やら返事をしようと試みてはいたが、声が出てこないようだ。
流石にヤり過ぎたかとは思ったが、まるで妊娠したかのように腹が膨らんだ彼は私の嗜虐心を大いに満たしてくれた。
「無理か?」
こくりと僅かに肯定する。
まぁ仕方ないかと思いつつ、無茶させたのは自覚があるので、今日は一日彼についてやる事とした。
水差しを脇に置き、眠っている彼の横で本を読む。
彼の髪を梳くように撫でてやると、気持ち良さそうにするのを見て、時折撫でながら穏やかな時を過ごす。
こういう時も悪くない。
******
******
まさか人狼の姿をリクエストされるとは思わず、エツィオを困惑した表情で見詰めてしまう。
当の本人は何故私がそんな顔をするのか分かっていないのか呑気な顔をして見詰め返す。
「あのね、昨日あの姿で貴方に抱かれててちょっと思ったんですけど、その、人狼の時の体毛が……なんていうか…気持ちよくて…抱きついたらサイコーなんじゃないかと…」
キラキラとした目で懇願され、若干うんざり顔をしてしまう。
昔からうっすら思っていたが本当にこの子は度胸がある…。
無理をさせたのだしと仕方なく変化してやると、エツィオは裸のまま抱きついて来た。
「わあ!もふもふ~」
「……お前、身の危険とかは感じないのか?」
「えっ昨日あんだけヤったのに未だ元気なの?!」
「いや、ソッチでなく…」
貞操の危険以外に思いつかないのか疑問符を飛ばしつつ、私の首もとの毛を撫で繰り回す。
「ねぇ、抱きしめて?あ、あんまり力入れないで。ソっとお願いします」
無邪気に笑いながらされるリクエストにまたも応えてエツィオを抱きしめる。
幸せそうな顔をして抱かれる彼に苦笑する。
この子は昔からこうだ。話していると毒気を抜かれてどうでも良くなる。
「一つだけ言っておくが、この姿になると回復が早くなる。欲情したらまた容赦はせんぞ?」
「えー!叔父さんどこら辺で欲情するのか今一わからないんだけど!」
「考えてもみろ。好いている者に裸で抱き着かれれば誰だって欲情しないか?」
「えっ好いている者?好き?俺の事?」
喜色満面に好き?と繰り返すエツィオは本当に楽しそうで思わず此方も失笑する。
胸の毛に飽きたら今度は唇で顎辺りの毛を食みだす。
この男は、誘っているのか…いや、昔から天然だという事は知っている。だがこれは…酷くないか?
髭がある分、顎の毛長いんだなと一人ごちてうっとりしながら顔中にキスの雨を降らす。
このままでは本当に昨夜のようにまた体を重ねたくなると、エツィオの名を窘める様に呼ぶ。
こちらの気も知らぬ呑気な男は鼻に掛かった矢鱈と婀娜っぽい笑いを零すと、私の唇に少し深い口付けを落とした。
「誘っているのか?」
「後ろが痛いから今日はもう勘弁してもらいたいんだけど…ちょっと変な気分なんだ…
貴方に触りたいし、触られたい…」
「これでも我慢しているんだがね」
「じゃあ、クチでシてあげる…」
クチュリと舌を絡ませ、艶っぽく微笑うとエツィオは私のズボンを寛げ、人の姿のときよりも大きなソレに舌を這わせた。
んっんっと鼻に掛かった息を零し、懸命に私の物に舌を絡める。
初めての奉仕に顔を上気させ、稚拙な口淫に没頭する。
あの狼に無理強いした時のように、頭を固定して好きに咥内を犯したい欲求もあったが、私はエツィオの健気な奉仕に手荒な真似をするのを躊躇った。
彼の髪を撫で梳く。そうしてやれば犬のように嬉しそうな顔をして口淫に熱が籠もる。
何もかも、この子は私の都合の良い様な態度を返す。
どんなに酷い扱いをしても、拗ねる事はあっても責めはしない。
それがとても心地よく、同時に猜疑心を産んだ。何もかも受け入れるのはフリで、私の安心を買って逃げ出そうとしているのではないか。
「…」
エツィオが私のものから口を離した。
イクにイケない口淫であったから、少しホッとしたが、エツィオの行動に目を見開いた。
エツィオは私の体を跨ぐと、私の肩に手を当て、私のモノを後ろの蕾に宛がい、ゆっくりと腰を下ろした。
昨日の名残を残し、柔らかく熱いソコは、私をゆるゆると締め付け、心地良い快感をもたらした。
「エツィオ?」
「やっぱり、貴方のが、欲しくて…でも、やっぱちょっとい、痛い…」
でも繋がりたかったんだ…吐息を零すように私の耳元で呟く。
貴方は信じられないかもしれないけれど、俺は本当にこうしてずっと貴方のものになりたかった…そう涙を溜めて訴える。
愛しい体をそっと抱き寄せれば、健気に微笑み、体を揺すって私の欲を慰めた。
せめてもと負担をかけぬように人の姿に戻ろうと思ったが、興奮状態の今は体が思うように戻らない。
せめて彼が辛くないように彼の動きに合わせ、彼の欲望を優しく擦りあげてやる。
美しく撓る彼の腰を支え、痛みと快感に歪む顔にキスを贈った。
彼が愛してると耳元で囁く。
その度にこの胸が熱く滾り、狂おしいほどの幸福感が胸を締め付ける。
思わず彼を抱く腕に力が籠もり、苦しそうに喘ぐ彼を攻め立ててしまう。
「あ、まり…煽るな。辛いのは、お前だぞ?」
「愛して、るんだ…俺は、貴方を…」
「ああ、昔から…お前は私を愛してくれていたな…」
「ん、ん、…ずっと…すき」
「……っ……!」
これが嘘であろうと、今だけは幸せに浸っても許されるだろう。
こんなにもこの子は私を受け入れてくれているじゃないか。
この姿で、この子に触れて、愛されるのなら…
*****
翌日は気だるげなエツィオに見送られて生業である狩へと出かけた。
まだ一緒に付いて居たかったが、当のエツィオが苦笑を零し大丈夫だと言ったからだ。
疑う心は捨てきれない。
今まで誰の事も信用などせずに生きて来たのだ。そう切り替えが利くものではない。
しかし次は絶対に捕まえる確信があった。
何度も抱いた彼の体は、私の匂いが染み付いている。
よりいっそう身近に強く感じられる彼の馨は、必ず私を導く事だろう。
もうどう足掻いても私から逃げることは不可能になったのだ。
また昨夜よりあの家を出るなと彼に約束させ、もし誓いを破ったら承知しないと剣を含ませて脅した。
もし破っているようであれば、どうするかと獲物を運び岐路に着く。
彼の自由を完全に剥奪し、私のものとするために腱を切る。
もう二度と私から逃げることは許さない。
あの怒りは相当なものだ。私のものであるのにそれを拒否して逆らわれるなど剛腹ものだ。
思考に深く沈んでいる間に家が見えてきた。
念のために鷹の目で家の入り口を視てみたら、さっそくエツィオが言いつけを破っている陰影が見えた。
しかし、手には大量のシーツや衣服が抱えられている。
その彼の軌跡を念のために追いかけてみると、家の裏手の川で洗濯をしつつ、木の実を見つけて摘んでみたり、家に入れば掃除に精を出していた。
台所へと向かうと、エツィオはにこやかに私を迎えた。
「お帰りなさい!お夕飯はまだだけど、もう直ぐお湯が沸くのでお茶を入れましょう。裏の川辺で美味しそうな木苺も摘んだので、つまんでて下さい」
「私は家から一歩も出るなと言いつけたはずだが…」
「えっ?!家事も駄目なの?でもそうしたら大変なの叔父さんばっかりになっちゃうし、俺嫌だよ?」
「………」
「それに外って言っても裏の川なんて庭みたいなもんじゃない。ここ街から結構離れてるし、誰にも会わないよ」
どうしても駄目?
と上目遣いで懇願される。
その仕草が可愛らしくて折れたわけでは断じてないが、確かに洗濯等は骨が折れる。
エツィオに家のことをやってもらえれば楽だろう。
渋々仕方がないと呟くと、彼はたいそう嬉しそうに笑って私を居間へと押し返した。
テーブルの上に洗った木苺が葦の籠に入って置いてある。
すると直ぐにエツィオが戻り、お茶を出してくれた。
「これも裏の川辺にあったハーブで作ってみたんです。街に行けば色々揃えられると思うんですが…」
「出るなと言ったのを忘れたのか?」
「では欲しいものとか考え付くものおねだりさせてくださいね。あ、俺も狩手伝いたいんですが…山は色々と食物も豊富ですし」
「たまには連れて行ってやる」
「やったぁ!またデートですね」
少し一休み!と言ってエツィオが隣に座る。
機嫌よくニコニコと私に寄り添い、一緒にお茶を飲む。
もくじ