@toasdm
いつの間にか、好きになってた。そんな使い古された、ありふれた表現なんてできれば使いたくないんだけど。でもそれ以外にいい言葉は見つからなさそうで、もやもやする。
プロデューサーさんは相変わらず、一心不乱に仕事を片付けてる。
どうせ僕は年下で、プロデューサーさんからしたら弟みたいなもので、ただの仕事仲間だから、恋愛対象なんてなれっこないんだ。クリスさんや雨彦さんみたいな、ちゃんとした大人だったらもっと違ってたのかなあ、とは思うけど、僕は僕以外にはなれそうもない。だからせめて、他の誰かにとられちゃわないようにこうやってできるだけ近くで、じーっと監視してるんだけどね。効果、あるのかなあ。
「想楽さん」
「なあにー?」
目線は僕に向けずに話しかけるのも、まあ、いつものことなんだけど。どうせ次にプロデューサーさんが言う事なんて、決まってる。帰らなくてもいいんですか、って言うんでしょ?用がないなら帰れ、って意味なのは知ってるけど、別に用がないわけじゃないからね。監視するっていう、大事な用があるわけだし。
「帰らなくても」
「別にいいよー」
「でしたらこれ、手伝ってください」
「えー」
プロデューサーさんが書類の束をこっちに寄せてくる。ちらっと見た感じ、処理済みの書類みたい。
「そっちの棚に、ファイリングしてください」
どうせいるならこき使う、って感じかな?ばりばり、って音がしそうな程真剣に働いてる横顔は、見てて飽きないし好きだから、僕としてはずっとここで監視してたいんだけどね。監視するようになって初めて積極的に僕の存在を求められたような気がして、そこまで悪い気はしないから。
「しょうがないなー、後でご褒美、くれるんでしょー?」
憎まれ口を叩きながら書類を抱える。綺麗に並んだファイルの中から、貼ってある付箋を頼りに目的のファイルを取り出す僕の背中に、プロデューサーさんがぽつりと言う。
「ご褒美、ほしいんですか?」
「そりゃあねー、無償で働くのってあんまり好きじゃないんだよねー」
カタカタとキーボードを叩く音が一瞬止まって、ファイルを棚に戻して振り返ったら、プロデューサーさんは僕をじっと見つめてる。
「終わったよー」
「想楽さんって、背、高いですよね」
「えー、普通だと思うけどなー」
普段から背の高い二人に挟まれてるから、きっとわかんないんだろうな。僕は普通なのに、あの二人が規格外なせいでちっちゃいイメージが強くなってるんだとは思うけど。椅子に座った僕は話を逸らして言ってみる。
「そうだー、ご褒美はー?」
「あ、えっ?」
「まさか、ついさっきの事忘れたー、なんて、言わないよねー?」
急に我に返って慌てる様子がおかしくて、もっとからかってみようかな、って悪戯心が目を覚ます。せっかく座ったばっかりだけど立ち上がって、プロデューサーさんのデスクに片手をついて、ぼんやり僕を見上げる顔に、屈んで顔を近づけて。
「ねー、プロデューサーさん。ご褒美、まだかなー?」
「あぅ」
あぅ、ってなんだろう。可愛い。ちょっとからかっただけなのに、真っ赤になって動けなくなって。もっとからかいたくなっちゃうから、ほんとそういうのやめてよねー。
「……ここまで来たらさー、もう、ご褒美ってなんなのか、わかるよねー?」
もっと顔を近づけて、調子にのった僕はプロデューサーさんのほっぺに手を添えてみる。……なんで、嫌がらないのかな。そういうの、ほんとよくないと思うなー。勘違いしそうになるんだよねー。嫌じゃないのかなー、って。
「……嫌じゃないなら、続けるけど」
「あぅ、え、あの」
唇の触れそうな距離まで近付いても、ほんとに逃げる気配もなくて。親指で唇をなぞってみたら、反射的に目まで瞑っちゃうし。ねえ。それって、何を待ってる顔?
「ふふ、逃げないんだー……」
逃げないんだったら、別に、いいよね。ふるふるしてるプロデューサーさんに、僕は唇を重ねてみる。あ、柔らかい。あったかくて、ふにふにしてて、なんかすっごく、柔らかい。これ、なんかずーっとこのままで、いられそうな感じだなあ。好きっていう前にこんなことして、順番間違えてる気がするけど…でも、まあ、いっか。試したい事、まだあるし。例えば……
「ねー、どうだった?」
耳元で囁いたらどうなるのかな?
「年下にいいようにされるの、好きだったりするのかなー?」
強い言葉で責められたらどうなるのかな?
「知らなかったでしょ、僕がプロデューサーさんのこと、こんな風に好きだって事」
好きだって打ち明けたら、プロデューサーさんは、どうなっちゃうのかな?
「年下でもさー。僕もちゃんと、男なんだよねー」
油断しないでほしいなー。僕の前以外では。
もう一度唇を重ねても、やっぱり逃げる気配はないし、袖も掴んで離してくれないから。
きっと、これは、もう僕のもの。