@toasdm
感情を言語化するとそこにはどうしてもある種の齟齬のようなものが発生してしまうので、思っている事を正確に伝えるのは難しい。
そこで私は考えたのだが、今後君がたまらなく愛おしく感じた場合にどうするべきか、予め感情と紐付けした言動をいくつか取り決めておくのはどうだろうか?
例えば、私は今こうして君と手を繋いで歩いているが、これは所謂デートと呼ばれるものであり、私の感情はひどく浮ついている。浮かれた勢いのままこうして指を絡め合い、立ち止まって君にキスをしたいなどと考えているのだが、この感情を言語化することは非常に困難だ。なので今後、手を繋いでいる時に君とキスがしたいと思った場合にはこのように、繋いだ手の親指で君の手の甲をそっとなでてみようと思う。そうすれば君も、私が何を考えているかわかりやすいのではないかと思ったのだが、どうだろうか。君の意見が聞きたい。
「あの、却って恥ずかしいです」
「恥ずかしい?どういうことだろうか」
私の長い説明の後、君は黙り込んで俯いてしまった。私の対応に何か問題があっただろうか、と思い返してみるが、私としては懇切丁寧にわかりやすく、具体例を挙げるなどして真摯に向き合ったつもりではあったのだが……。それに、恥ずかしいというのも非常にわかりにくい。君は一体何を恥ずかしがっているのだろうか。
「それってつまり、こうやって親指でなでられる度に、硲さんが何を考えているか、わかってしまうっていうことですよね?」
「わかりやすくするための紐付けだから、当然だ。その為の取り決めなのだから」
「……私がしたくなっても、っていうことですよね?」
繋いだ手の甲にそっと、君の親指が触れて優しく動く。ぎこちなくたどたどしく、おずおずと動かされたそれは、つまり、君が今私とキスをしたいと思っているということを示している。私の頬はカッと赤くなり、寒空の下だというのに急に気温が高くなったような気すらした。
「……なるほど、確かに恥ずかしいものだ」
「はい……」
今までどおりでいこう、と言う私の言葉に、君はやっと顔を上げて頷いた。二人分の羞恥の熱が、二月の気温を少し上げたような気がした。全てに答えを見出さなくてもいい、という例を学んで、私達はデートの続きをはじめた。