@souko_log
1、拘束を考える
唐突な話であるが、二次創作の18禁小説で、ことに及ぶ際に、攻めが受けの手首拘束する流れを見ると注目してしまう。
なぜかというと、あまりにも攻めの手際が良すぎて、「プロだ……」という感想を抱いてしまうからだ。
拘束する際のオーソドックスなアイテムはおそらくベルトだと思うのだが、だいたい描写としては、まず攻めが受けや自分のズボンのベルトを外すところから始まる。拘束する云々以前に、脱がさないと本番に入れないから当たり前である。というわけで、ベルトを外す。バックルをがちゃがちゃ言わせながら外し――この“がちゃがちゃ言わせる”のが大事なのだ、一刻も早く本番に入りたいという焦燥や欲が感じられる――、そして流れるような動作で手首を縛り上げるのだ。
早い。すごい早い。縄をかける動作があまりにも手馴れている。ここで「プロだ……」という感想を抱いてしまう。銭形警部もかくやといわんばかりの、見事な手際だ。何気なく流してしまう描写だが、ふと自分がベルトで誰かの手首を拘束する動作を想像してみても、こうはいかない。かなり手間取るだろうと思う。
数多くの二次創作で、バックルをちゃがちゃ言わせながら手首を拘束する攻めを見てきたが、みんな「バックルがちゃがちゃ言わせ」てから、「手首を拘束した」までが異様に短い。これはもう、『ベルト手首拘束選手権』をやるしかないレベルである。とにかく手際がいいのだ。
さらにフォロワーさんが言っていたのだが、逆に受が攻を拘束する場合は、ことに及ぶ前に「緩い」と攻めがあっさり拘束を外して形勢が逆転する……というパターンも見かける。つまり、この場合の攻めは、拘束も得意だし外すのも得意ということになる。
ここまで来ると、もう攻めの職業が危ぶまれて来る。「お前、そんな拘束に対する知恵を備えてるなんて……さては泥棒とかスパイか?」という危機感を抱く。拘束をあっさり外して形勢逆転を果たす攻めに対しては、「縄抜け師かな…??」という感慨を抱きながら読んでしまう。
とはいえ、エロにおいてそんなこと些細な話だ。だいたい、エロを読んでるときにそういう余計なこと考えながら読むのは愚行の極みである。エロを読むときは、煩悩を捨てて読まねばならない。煩悩を捨てて煩悩に集中する――矛盾した言い回しであるが。
それにここまで書いておいてなんだが、手首を拘束する過程を丹念に描写されても、「そこは必要か?」ってなるのが実情である。もちろん、「拘束する」という行為そのものに重きをおいたエロの場合は別だ。突き詰めると緊縛プレイやSMプレイだが、そうでもない場合、そこはスキップして手際良く拘束するのは、話のテンポ的に大正解だろう。あくまで個人的な意見だがそう思う。
2、エロは総合格闘技では?
「エロを読むときに余計なことを考えるのは愚行の極み」と書いた。逆に言うならば、書き手側としては、「読み手に余計なことを考えさせず、エロに集中させる」ことが必要になる。
読者が読んでいるときに、行為そのものに没頭できるようにする巧さが必要――当たり前のように聞こえるが、これは結構な難題である。この難題をクリアするために必要な技術を考えてみると気が遠くなるような話だ。単純に「棒を穴に入れた」で終わる話を、どれだけ魅力的に見せるか。体の部位の描写、動きの描写はもちろんのこと、エロに至るまで経緯や、エロに突入するまでの説得力も考えなければならない。
小説におけるエロには、書き手のあらゆる技術を駆使して戦う、総合格闘技に近いものを感じる。
具体的に考えていきたい。
まず人間にはおよそ理性というものが備わっているので、特に理由もなくおっぱじめるわけにもいかない。というわけで、まずそれなりに欲情するに至るまでの描写や理由を用意しておく必要がある。例えば、「風邪をひいて気怠そうな受けを見てムラっとくる」とか。現実的に考えれば鬼畜の所業で到底推奨できるものではないが、なるほど導入としては完成度が高いため、テンプレとしてよく見かけるシチュエーションではある。
次に場所の話だ。エロに限らず小説において情景描写というのは大事で、漫画で言うと背景画に当たる。「このキャラは今どこで何している」という情報をどこかで書いとかなければならない。前述した「風邪シチュエーション」の場合は、おそらく受けキャラは自宅でベッドに寝ている状態なので説明も簡易なもので済むが、野外の場合はまずおっぱじめる場所に移動しなければならない。
こう考えてみると、最初からベッドのシーンで始めることができる「風邪シチュエーション」は、難易度が低く初心者向けであることがわかる。なるほど、テンプレにはテンプレになる理由がきちんとあるのだ。
さて欲情して、なんとか行為に没頭できる場所に移動した。ここからは書き手の趣味やエロの内容やシチュエーションによって大きく分かれるところなので一概にどうとかは言えないが、風呂にはいるなりベッドに押し倒すなりの流れがある。とはいえ、最終的に服を脱がせるのは共通する点であろう。前述した「バックルをガチャガチャ」の描写がここで入るのだが、しかしここで大きな問題がある――服だ。
実は服の描写が大変面倒くさい。普通に「下を脱がせ」とか、服の描写そのものを省いて「裸になった」とかでもいいのだが、ここも巧く描写しないと「服を脱ぐの早くね??」と、読み手の気を散らしてしまう要因になりかねないので、実に気を遣う。
また、本番に突入するまさに直前という場面であるので、脱衣の描写は重要だ。「バックルをガチャガチャ」とかで、キャラクターの心情が垣間見えるように、情緒を表現するものとしてわりと有効なシーンである。
ところがいざ描写するとなると、これがなかなか手強い。「ズボンを脱がせて……」というのは少しダサい気がする。最近では下半身に着るものは、オシャレに「パンツ」という言い方が定着しているが、しかしここで「パンツを脱がせ」になると、下着のパンツと混合してしまいそうで実に使いづらい。結局のところ、「ジーンズ」とかを採用してしまう。
ここでキャラが来ているものが制服やスーツなどのコスチュームなら大変便利だ。また、部屋着だとスウェットやジャージなどが採用できる。つまりここでも、「風邪シチュエーション」のエロは初心者に大変優しいことがわかる。
やはりテンプレにはテンプレになるだけの強さと理由がある。「風邪シチュエーション」の万能さがすごい。すごいというか、つよい。
ようよう服を脱がせた。ここからはさらにエロの内容というかプレイの内容によるので一概に言えない分野になってくるのだが、とにかく触れる描写というのは必要になってくるだろう。愛撫でも暴力でも変わらないのだが、少なくともここで書き手は「人体の構造の理解」と「空間を把握する能力」を問われることになる。
頬を撫で、腕を絡め、髪に触れ、あるいは腕を押さえつけて拘束し、服の下をまさぐって、または顔を隠したり、相手の体を突っぱねようと腕を伸ばしたり、背中に回したり――特段、この描写については作品によって異なるので置いておくが、なにせ気を抜けば「待てよ、これ腕がたくさんあるんじゃね?」みたいなことになりかねないのが難しい。人体の構造を理解するのはもちろんのこと、動きに矛盾がないように気をつけねばならないのだ。
さらに攻めと受けの体の位置関係がどうなっているのかを説明する、空間把握の能力も必要だ。二人の人間の動きを矛盾がないように、それでいて色っぽく描写する――眩暈のするような作業である。
いつのまにか好きなキャラが腕が複数生えた阿修羅になっていたのでは、読み手の興も削がれてしまうだろう。
ところで、エロにおいて体の動きや前置きのほかにもう一つ、重要な要素がある。喘ぎ声だ。行為に没頭する中で、どんどん余裕がなくなり上り詰めていく様を描写するのに、喘ぎ声というのは非常に重要であるが、しかしこの喘ぎ声というのがかなり難しい。
いわゆるみさくら語や実況系のセリフを使わない、普通のエロにおける話だが、まず、「あいうえお」「ん」「は」「ふ」「ッ」くらいの、わずかな音で喘ぎ声のバリエーションを用意しなければならない。何気なく読み流しているのかもしれないが、実は違和感のない喘ぎ声を描写できる人はかなりの達人だと思われる。あれは本当に、一種のリズム感みたいなものが必要なのではないだろうか。
そもそも、キャラクターによってはそんなに喘がないというキャラもいる。その場合は「できるだけ喘がない、息をつめた声」というのを用意せねばならず、これも「…」と「、」の使い分けのスキルがいる。
喘ぎ声というのは結局、「セリフなどを途切れ途切れにしつつもリズム感を保つ技術」なのだろうが、「途切れつつリズムを保つ」という矛盾の塊のようなワードからして難易度の高さがわかる。個人的に、違和感のない、キャラのイメージに合った喘ぎ声を描写できる人はかなりすごいと思う。
このように考えていくと、小説におけるエロ描写というのは、大げさな書き方をすれば、書き手の技術の粋を集めた総合芸術だと思う。
エロが巧い人は文章力が高い――極論のように聞こえるかもしれないが、あながち間違ってもいない気がする。改めて、エロを書ける人ってすごいと思う。
ところで、ここまで書きながら思ったのだが、上述したエロに必要な、体の動きの描写、感情や情緒の表現、色っぽさなどの雰囲気の描写、声の描写などとほぼ共通する、類似の分野があるのではないかと気づいた。戦闘描写だ。
導入部――キャラクター同士の関係性や、戦闘に至るまでの理由の提示。
情景描写――戦闘においても「いつどこで」という描写は必要だろう。
服装などの描写――装備品や武器の描写である。
体の動きの描写――戦う二人のスピード感、距離感、動き、緩急などの描写。
感情や情緒の表現――戦う二人の昂ぶりや、感情の動き。
色っぽさなどの雰囲気の描写――疲弊や緊張感など、二人の間に漂う雰囲気の描写。
そして声の描写である。激しく動くキャラの言葉はきっと息を切らしながらのものになるだろう。あるいは、死にかけのキャラが虫の息で喋るセリフも途切れがちになると考えられる。これもまた、エロにおける喘ぎ声の描写と同じく、リズム感が必要とされる分野だ。喘ぎ声は使える音が限られるので更にハードル高い気がするが、場合によっては戦闘も、ろくに言葉が出ない描写が必要になる。
いにしえの腐女子の格言に、「戦闘は実質セッ…」という言葉があるが、これはあながち間違いではないのでは――そんなことを考えながら筆をおく。
おわり。