@toasdm
ありがたいことに最近人気が出てきたから、仕方がないとは思うけど……落ち着いてデートができなくなるのはやっぱり、少し困る。これでも変装してきたつもりなのですが、と申し訳なさそうに眉尻を下げてこちらを見るクリスさんと私を、徐々に囲み始める人だかり。付き合っていることを公表しているとはいえ、好奇の視線に晒されるのは気分のいいものではなくて。
「……プロデューサーさん、足に自信はありますか?」
あちこちから聞こえてくるクリスさんの名前やLegendersという単語に、ああ、これはもう完璧にバレているな、と覚悟を決めて、私はクリスさんに自分の足元を見せて言った。
「見てのとおりスニーカーです」
「頼もしいですね、では……っ」
繋いだ手をぎゅっと握り合って、目線を合わせて頷き合って、私達は駆け出した。
「失礼いたします、完全オフなので許してくださいね!」
こんな時でもクリスさんはファンサービスを忘れない。キャーと上がった黄色い歓声、人波を掻き分けて笑顔を振りまいて、ついでに手を振って。追いかけてくるファンの子達の勢いに驚きながら私は、私の手を引くクリスさんの横顔をちらりと見る。なんて楽しそうなんだろう。
見慣れた街並みを背景に、全力疾走するクリスさん。変装の為に被っていた帽子を、もう必要ありませんね、と脱いで後ろに放り投げて追加のファンサービス。帽子の中に隠していた亜麻色の長い髪の毛をサッと払って、行きますよ、と笑顔をこちらに向ける。サラサラの綺麗な髪が弾むようにきらめきながら風になびいて、整った顔の輪郭が露わになる。追いかけてきたファンの子達がクリスさんの帽子に気を取られている内に、とひたすらに、私達は街を駆け抜けた。走る横顔は弾けるようなとびっきりの笑顔。繋いだ手を離さないようにしっかりと握って、前を向いてキラキラの笑顔のまま走るクリスさんに、思わず私は問いかける。
「っクリスさん!楽しそう!ですねっ!」
「ええ!楽しい、ですよっ!」
徐々に遠ざかるファンの子達の声を後ろに聞きながら、ちらりとこちらに顔を向けて、今日見た中で一番の、とびきりの笑顔でクリスさんが言った。
「もう、あなたとなら、どこで何をしていても!私は楽しいんです!」
「はい!私もです!」
このまま海まで走りましょうか、と本当に楽しそうに言うクリスさんと一緒なら、私だってどこで何をしていても楽しい。
人の波から海の波まで、私達は街並みを抜けて海を目指して走った。