@toasdm
お昼ご飯またなんでしょー?と声をかけられて、ついでに手を引かれて、私は事務所を後にした。いってらっしゃーい、と見送ってくれた山村君の微笑みがとても恥ずかしい。想楽さんと付き合うようになって随分経つけれど、あんな冷やかすみたいに笑われるのはやっぱりいつまで経っても慣れる気がしない。
「今日はねー、どうしても一緒にお昼ご飯が食べたかったんだー」
本当に嬉しそうに言う想楽さんの横顔をちらりと横目で盗み見ると、いたずらを思いついた子供みたいな顔じゃなくて、本当に、心底楽しみにしていたといった雰囲気の笑顔で、つられて私も笑顔になる。
想楽さんの笑顔は私の大事な宝物だ。アイドルとしての笑顔ももちろんそうだけれども、こうやってたまに見せてくれる私専用の笑顔が何よりも嬉しい。いつか想楽さんが言っていた、僕にこんな顔させるのはプロデューサーさんだけだよー、の言葉がそれを、現実のものだと教えてくれるのも。ウキウキ、と書いてあるようなほっぺたに笑みを浮かべたまま私の手を引く想楽さんが、視線に気付いてにっこり笑う。
「今日はねー、どうしても一緒に、オムライスが食べたかったんだよねー」
「オムライス?」
そうだよー、とおっとりとした口調で私を連れて歩く想楽さんが、そこのお店ー、と指差したのは最近できたカフェだ。オムライスが売りらしく、私も一度は行ってみたいと山村君に話したことがあった気がする。
「僕もねー、オムライス好きなんだー」
混雑時間の前だからなのか比較的席は空いていて、すぐに通された私達はテーブルについてオムライスを二つ注文する。
「はー……間に合ってよかったよー」
「あ、お昼に、ですか?」
「ふふー……さぁ、どーでしょー?」
テラスから差し込む二月の淡い日差しの中で、何かを含んだように笑って言う想楽さんは、小悪魔みたいな表情で頬杖をついて私の向かいに座っている。程なくして運ばれてきたオムライスは、評判どおりの見た目と味で、スプーンを刺した瞬間にとろりと溶け出す卵のふわふわ感がとても優しい。
「ん……んっっ!おいしい!!」
「うーん…ほんとにおいしいから、困っちゃったなー…」
スプーンが止まらない、みたいな勢いでぱくぱくとオムライスを口に運ぶ想楽さんは、いつものふわっとした雰囲気と少し違って、育ち盛りの男の子らしさがあってちょっとドキっとする。ほっぺたにケチャップでもつけて食べてもおかしくなさそうなあどけなさの残る顔立ちなのに、一口が大きいせいか、少しワイルドに見える気がする。ぼんやりみとれる私のお皿に、えいっ、とスプーンを刺して、ひとくちもーらい、と略奪していく仕草だって、子供なのか大人なのかよくわからなくて余計にドキドキしてしまう。
「はー…おいしかったぁ」
「ごちそうさまー」
あっという間に食べ終えた私達は、ランチタイムの混雑を察知してテーブルを空ける。お店を出てすぐにまたさっと差し出してきた手を取って、事務所に向かって歩き出す。
「もう帰らなきゃなんだねー」
「ふふ、寂しいですか?」
「んー、そりゃあねー……」
あー、でも。と想楽さんは立ち止まって何かを考えている。なんだろう?と待ち構えた私の右手を、想楽さんの両手が優しく包んでくれる。
「一緒にオムライス食べたかったから、今日は満足しちゃったなー」
「今日がよかったんですか?」
今日って何の日だったかな?と考えをめぐらせてみたけど、特に思い当たるところはない。想楽さんは、別に今日じゃなくてもよかったんだけどー、と少し恥ずかしそうにぎゅっと手を握る。
「……誰かと食べに行っちゃう前に、僕が一番最初に、行きたかったなー、って……ふふ、変なの。順番なんて関係ないのにねー…」
ああ、これはなんか、ずるいぞ。いつも自由奔放であんまりそういうことに執着しないと思っていた想楽さんの、これは所謂、独占欲だ。そこに至ると恥ずかしさは私にも伝染ってきて、赤くなったほっぺたは二人分になる。
「…ねー、プロデューサーさん」
「は、はい……」
恥ずかしがっている私の耳元にそっと口を寄せて、想楽さんはこっそり囁いた。
「これからもさ、僕がプロデューサーさんの一番最初が、いいなーって…駄目かなー…?」
「っ!!」
一気に赤くなった顔の熱さが、想楽さんにばれてしまうような気がして恥ずかしかったけれど。
「……私も、想楽さんの一番最初にしてくれるなら、いいですよ……」
「……ふぅん、そっかぁー」
ちょっとした反撃をしてみようかな、と思うくらいには、嬉しかった。じゃあお互いを一番最初にしていこっかー、と再び歩き出した想楽さんの横顔は、今までみたどの笑顔よりも嬉しそうに見えた気がした。事務所まではあと五分くらい。私達は短いデートを再開した。