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[古論P]Wine Red.

全体公開 1 1457文字
2018-02-26 12:47:20

クリスさんと飲むならワイン、スペインバルで。

Posted by @toasdm

 以前、仕事で関わるようでしたので少し研究をしようと思いまして、とはにかみながら言うクリスさんは勉強熱心だ。郷に入っては郷に従え、餅は餅屋の精神でスペインバルに通いつめて、もうだいたいのタパスは作れるようになったというから驚いてしまう。色々食べ歩きましたが、やはりこのお店のアヒージョが一番ですよ、と勧められたえびとマッシュルームのシンプルなアヒージョは確かに、絶品だ。

「こちらのタコのガリシア風もおいしいですよ。ワインととてもよく合います」
「んっんーー!確かに、すごくおいしいですね!」

 食が進んで止まらないとはまさにこのことで、合間合間にはさむスペインの赤ワインの軽さと飲みやすさに、気が付けば二人でボトルを一本空けてしまっていた。これはいけない、と酔いの回った頭を軽く叩いてみると、隣でクリスさんがじっとこちらを見て、穏やかな笑みを浮かべている。
「クリスさん、お酒強いんですね……
 そういえば、私よりもハイペースで飲んでいたような気がするのに、クリスさんは多少顔が赤くなって表情がゆったりとしているかな?という程度の変化しかないように見える。笑い方も話し方も、態度も声も表情も、普段とあまり変わらないようにしか見えない。そうですか?と笑いながら長い髪の毛を耳にかけて、グラスのワインを一口飲むその仕草も、普段と同じで爽やかなのに色気があって、私の胸がどきりと跳ねる。

「そうですか?」
「はい、私なんてふわっふわしてるのに、クリスさん、全然じゃないですか」
「ふふ……お酒でふわふわしたあなたも、可愛らしいですね」

 花がほころぶように微笑んだクリスさんの視線が少し熱っぽいような気がしたのは、もしかしたら気のせいかもしれない、と思ったけれど……。グラスを置いたクリスさんの手がすっと伸びてきて、私の頬に触れた時、もしかしたら酔っているせいで少し大胆になっているのかも、と、ほんの少しのときめきが私の胸に灯った。触れられた頬が急に熱くなった気がして、あ、う、と言葉を紡げないでいる私をじっと見つめる瞳は、私の知らない色をしている。

「ザルというほど強くはないですが、女性を口説けなくなるほど弱いわけではありませんよ?」
「え、う……ぁ、え?」

 頬のラインに添えられた手、その親指で、すっと撫でられて鼓動が跳ねる。あなたは本当に可愛らしいですね、ともう一度言うクリスさんの視線から目が逸らせなくなって、見つめられるまま動けない私の頭が、どうでもいい問いかけを口からぽろり、と零させた。

「クリスさん、女性を口説いたり、するんですね……

 意外です、と思わず口走ってから失礼にあたらないだろうか、と考えたけれど、クリスさんは意に介せずといった様子でまた微笑みながらきっぱりと言った。

「いいえ、女性を口説くのはこれが初めてですよ」

 そんな言い方をされて、期待をするなという方が無理な話で、というか、もしかして私、今、クリスさんに……く、口説かれて、いる、ということ、なの、かな……?ドキドキが強すぎて、お酒もまわって、考えが全然まとまらない私の今度は両頬を、優しく包んでクリスさんが言う。

「口説かれてくださいますか?」

 穏やかなのに真剣なその表情と口調から、ますます目が離せなくなってしまった私は、気が付け ばこくこくと、小さく頷いていた。よかったです、と極上の微笑を浮かべたクリスさんが手を離した私の頬は、クリスさんが飲んでいるワインの色と同じくらいに赤かった。


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