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[硲P]Colors

全体公開 2 1648文字
2018-03-02 12:49:56

硲先生とアンパンをもぐもぐするお話です。

Posted by @toasdm

 最近、雰囲気が変わったと言われることが多くなったように感じる。行動を共にする機会の多い舞田くんや山下くんはもちろんのこと、同じ事務所の他アイドルからも。常に仏頂面というわけではないはずなのだが、どちらかといえば話しかけにくいと言われることの方が多かった私が、誰かから話しかけられる機会が増えているのがその最たるものだろう。先ほども、山村くんから「いただきものなんですけど、いかがですか?」と気さくに話しかけてもらえた。ありがたく受け取ったアンパンを手に、私は休憩室へと向かう。いつもなら誰かがいてもおかしくない時間帯のはずなのだが、今日に限っては誰もいないようだ。自動販売機で何を買うか迷い、最終的にカフェオレを購入する。本来ならば牛乳と言いたいところなのだが、生憎とこの自動販売機には牛乳は見当たらない。衛生面的な問題もあるのかもしれないが、一番近いところで妥協案として選んだカフェオレは確か、彼女が好きだと言っていた記憶があるな、と知らず私は笑いを零していた。
 こういうところなのだろうな、とは思う。ただ真っ直ぐに真っ白いだけだった私の日常を、彩るようにすっと滑り込んできた君という存在は、その白のところどころを好きに色付けてくれている。誰かを愛おしいと思う気持ちの桃色、誰にも渡したくないと思う気持ちの緋色、ただ穏やかに何もせず共にいるだけで心地よさを感じる時間の流れはさしずめ、アクアマリンのような透き通った水色だろうか。少し甘さを強く感じるカフェオレを飲みながら、もらったアンパンを一口齧るが、こちらも甘い。ブラックにするべきだっただろうか、と後悔はするものの、君が好む味を知ることができた喜びに、頬が自然と緩んでいくのを感じる。

 「……君はこんな時でも、私を掴んで離さないのだな」

 独り言が響く午後の無人の休憩室、その静寂にガチャリとドアの開く音がする。振り返ると、今まさに考えていた君がひょっこりと、顔を出して微笑む。

 「硲さん、やっぱりここにいたんですね」

 私の姿を見つけるだけでそんなに嬉しそうにされると、なかなかどうして照れるものだな。私は少し熱く感じられる顔が赤くなってはいないだろうかと気に掛けながらも、隣の椅子を引き君を誘う。会えてよかったぁ、と満面の笑みを浮かべる君が手にしているのは、先ほど私が山村くんからもらったものと同じアンパンのようだ。いくつあるのだろうか。

 「硲さんももらったんですね、アンパン」
 「うむ。ちょうど小腹もすいていたので、ここでいただくことにしたのだ」

 飲み物必要ですよね、と席を立ち、戻ってきた君はカフェオレではなくブラックコーヒーを持っていて、不思議に思う。

 「む?君は確か、コーヒーは甘くないと駄目と言っていたように記憶しているが」
 「はい、これは硲さん用です」

 私はこっちを、と私の飲みかけのカフェオレをひょいと取り上げ、代わりに買ってきたばかりのブラックコーヒーを差し出してくる。

 「だって、それ甘いですよね?」
 「うむ、君はいつもこんな甘いものを飲んでいるのか、と考えていたところだ」

 アンパンと一緒じゃ甘くて大変かなと思ったんです、とはにかむ君から贈られた優しさに気付いた私は、恐らくかなりゆるい表情になっているに違いない。君以外にはあまり見られたくないものだ、と内心思いながらも黙ってそれを受け取った。

 「ん、甘くておいしいですね!」

 アンパンを齧りながら甘いカフェオレを飲む君の笑顔に触れられるこの時間は、アクアマリン色ではなくカフェオレ色だ。そばに居るだけで君は、私を様々な色に染め上げてくれるように思う。私はそれが嬉しい。

 「黒い色の優しさも、あるのだな……

 なんの話ですか?とこちらを見る君の頬にそっと唇を押し当てて、甘くなった口の中を君と苦いコーヒーの味で満たした私は、先ほどよりもおいしく感じられるような気がするアンパンを、ゆっくりと食べすすめた。


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