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[古論P]ポケットのキャラメル

全体公開 1951文字
2018-03-03 12:50:27

男の人のお洋服ってポケットが多いなって思いませんか?
クリスさんとキャラメルの甘いお話。

Posted by @toasdm

 そういえば、と向かいに座って企画書を熟読しているクリスさんを見ながらふと思う。そういえば男の人の服って、ポケットが多くていいな、と。クリスさんが普段から着ているサファリジャケットは、ポケットがたくさんついている。一方自分のスーツのジャケットはといえば、胸ポケットはフラップだけのフェイクポケットだし、メインポケットもスマートフォンがぎりぎり入るか入らないかくらいの、申し訳程度のポケットだ。そんな事を考えてぼんやりしていた私の視線に気付いたクリスさんが、企画書からふと目を上げて、こちらを見て不思議そうな顔をしている。

 「あの、どうなさいましたか?」
 「あ、いえすみません、ジロジロみてしまって。いいな、って思ったんです。ポケットがたくさんあって」
 「ポケット……ああ、このジャケットのことですか?」

 クリスさんがジャケットを片手でさっと開いてみせる。引き締まった胸筋やしっかりとした二の腕の筋肉に一瞬目を奪われそうになって、慌てて視線を逸らした私を見てくすりと笑いながらクリスさんは胸ポケットのフラップボタンを開けて言う。

 「実はここに、こういったものを仕込んでおけるので便利なんですよ」
 「え、キャラメル?」

 おひとつどうぞ、と取り出したミルクキャラメルを私の手のひらに乗せて、もうひとつのキャラメルの包装を剥がしてクリスさんもそれを口に放り込む。せっかくいただいたのだから、と私もそれに倣ってキャラメルを口に入れると、優しい甘さが口いっぱいに広がって、少しだけ疲れが取れた気がする。随分柔らかいな、と思ったけれどもそういえば、ずっとクリスさんの体温で温められていたんだ、と気が付いた時、まるでクリスさんの温もりを食べているような錯覚に、私は一気に恥ずかしくなる。

 「頭脳労働のお供に最適なんですよ」
 「そ、そうですよね」

 頭に浮かんだその考えを必死で振り払って、私も企画書に目を通す。もちろん、頭にはちっとも入ってこない。柔らかくなったキャラメルは、あっという間に溶けてなくなったけれども、口の中に残った甘い感触はいつまでも消えてくれなくて、なんだかいつまでもクリスさんが口の中にいるみたいで、すごくすごく恥ずかしい。

 「ふふ、なぜ赤くなっているのですか?」
 「なんでもないですよ?」

 うまく誤魔化せている気は全然しないけれども、それ以上追求してこないクリスさんの好意に甘えて、私は仕事を再開した。


 「クリスさん、おはようございます」
 「おはようございます、プロデューサーさん」

 いつも通りの挨拶と、いつも通りのクリスさん。いつもと同じサファリジャケットを羽織ったクリスさんの胸ポケットを、なんとなく見つめてしまって、思い出して赤面する。その後の打ち合わせの間もずっとちらちら見てしまったせいか、クリスさんはこちらをじっとみて、申し訳なさそうに口を開いた。

 「あの申し訳ありません、今日はキャラメルを持っていないんです」
 「あ、いえ、あの、そういうわけでは

 完全に気付かれてしまっている気恥ずかしさに、話題を変えよう、と思考を巡らせてクリスさんをじっと見る。長くて綺麗な髪の毛を耳にかけて、クリスさんもこちらをじっと見つめている。

 「ク、クリスさんの髪の毛って、ミルクキャラメルみたいな色をしてますよね」

 ああ、私何を言っているんだろう。支離滅裂な自分の発言に頭を抱えたくなる私に、クリスさんはにっこりと微笑みながら指先に髪の毛をくるりと絡めて、目の高さまで持ち上げて言う。

 「そう、でしょうか?ふふ、でも私の髪の毛はキャラメルみたいに甘くはありませんよ」

 召し上がりますか?の言葉は冗談のつもりなんだろう、毛先までするりと滑らせた指でクリスさんは、髪の毛をそっと私の唇に押し当ててくる。鼻腔をくすぐるほのかな磯の香りとシャンプーの香りに私は、くらりとめまいにも似た甘い痺れを覚える。

 「いかがですか?」
 「あ、う……海の、匂いがします、ね」

 もうさっきからずっとまわらない私の頭は、全く仕事をしてくれない。そうですか、と楽しそうに笑うクリスさんにからかわれているのは明白なのに、何も言い返すことができない。恥ずかしさで消えてしまいたくなる私の頭をそっと撫でて、クリスさんは胸ポケットを軽く叩く。

 「次お会いするときには必ず、甘いキャラメルを仕込んでおきますね」

 キャラメルが欲しかったわけじゃないけど、そう言われると少し嬉しい。頭の片隅にまだ残っているクリスさんの温もりを移したキャラメルの味を思い出して、私は仕事の話を再開した。頭脳労働のお供に最適なら、今すぐ欲しいな、と思いながら。


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