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アヤトがコクリア破りを決意するまで(アヤヒナ、アヤト→ヒナミ)

@yu_oke
湯桶
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2018-03-12 23:26:02

どこかでアヤトがカードキーを手に入れられたのは先が読めているエトから渡されたのではという考察を見て思いついたアヤトがアオギリを抜けるまでの妄想。

独白多め、たぶんエトが隻眼の王ではないと言う少し前あたり。
何パターンか思いついたけどその中でもアヤトがかなりネガティブになった。

あの時助けに行くことが出来たら何か変わったのだろうか。自分が死んだとしても、少なくともヒナミを逃がすことくらいは出来たのではないだろうか。いや、そもそもさっさとこんな血にまみれた場所から無理矢理にでも姉の元に返すべきだったのではないか。
ただでさえグールなのに、こんな組織に所属して任務をこなすということは当然このような結果になる可能性だって当たり前に考えられたことだろう。いや、むしろその可能性を高めていたのかもしれない。

とあるアパートの個室、ベッドの上で一人彼はそんな混沌いう名の後悔を毎日持て余している。
数分前にベッドの上でアオギリの構成員がタタラからの招集を彼に知らせていたが、そんなことは混沌とした彼の脳には微かにしか残らない。それどころか、いっそもうこんな組織からは逃げ出してやろうかとすら思う。

彼の心には大きな風穴が空いていた。そこから登ってきた後悔が顔を出し、大切な思い出が落下して行く。そして循環し、後悔に変貌するのだ。

彼女が、ヒナミがもうコーヒーを一緒に飲もうと、笑顔を向けてくれることはないのだろうか。
いつの間にそんな時間がこれほどまでに大きな存在になっていたのだろう。

頭の中でタタラたちがアヤトへ言った言葉を、やり取りを思い出す。

――コクリアは二度は破れない。

そんなことは重々も承知だ。一度破られた以上、さらにセキュリティは堅牢になっているだろう。あるとしたらよっぽどの偶然が重なった時くらいだ。

――ちゃんヒナはササキを助けに行ったんだ。

わかっている。ササキはさんざん聞かされたヒナミの大切なお兄ちゃん。恐らくそれは正しい。ただしササキがなぜCCGにいるのか、どういう経緯があったのかなどはわからない。ヒナミが守ろうとしたのは当然だ。なんせ、あれほど聞かされたのだから。素の笑顔で、宝物を抱きしめるように。

だったら助けるべきだったのだ。彼自身がたとえ滝澤にやられ、死んだとしても。むしろどうしてそうならなかったのだろう。そうすれば上手くいった。全部が噛み合って上手くいった。
心の中で噛み殺していた気持ちがそんな歪んだ結論を出す。いびつだとしてもそうやって帳尻を合わせなければただただ彼にとっては耐えきれなかった。

彼はベッドから起き上がり、腰をかけ、レールを外しかけている思考を元に戻すべく頭を振る。

――野良犬は野良犬らしくしろ。

その言葉だけはわかりたくないほどわかってしまった。野良犬で居続け、どこにも組せず、姉を気にかけることもなく、血の匂いが充満した死地に佇んでいれば仲間意識だの、そんなものを持つことはなかっただろう。ただどこかで殺し、殺されるだけ。憐れむ人も仲間もおらず、ただの悪逆な存在としてこの世から消えるだけ。

「くそったれ!」

壁に腕を叩きつけた。骨が軋むが痛みすら感じない。軋むのは心の風穴だけ。

確かにそんな風に、刹那的に生きて死ぬのならば今、吐き気を催すほど苦しまなかっただろう。
しかしそれは野良犬以下だ。
そんな野良犬以下では今もササキを思っている姉だって守れやしない。失ったヒナミだって助けに行くことさえ出来ない。
そんな世界では出会いも、何もかもがないのだろうから。

喰らうしかない。

それがグールだ。失うばかりで、何も残りはしない。残るとするならば目に見えない、形なき絶望と希望だけ。それでも譲れないものがあるのならば、失いながら這いつくばるしかないのだろう。

――喰種が仲間を大事にしてる光景がおかしくって

滝澤の言葉がふと頭の中で反響する。そのときは腸が煮えるほどだったが、今はなぜかそれを受け入れることができた。

そうなのだ。

タタラが言った通り、アオギリの連中は替えのきくコマでしかない。ただエトやタタラに使われる代わりにとりあえず生きていけるだけの塵芥のような存在。
確かにおかしかった。ここではそれが正常だ。彼がここのルールに従っていないだけで、その実ここではそのルールが人間でいう法律のようなものなのだ。

ならば、ここから出ていけばそんなルールに従う必要もない。何をどうしようと勝手だ。誰も咎められまい。

何パーセントなのかわからない。成功する可能性なんてそもそも存在しない可能性の方が高かった。
仲間を助けに行こうがそんなことは勝手だ。それが死に逝くことだとしても、勝手だろう。

仲間だ。
コマではない、替えようもない仲間だ。
姉の大切な仲間。

コーヒーの香りがする錯覚を覚える。
仲間だ。

扉を開けて疲労している彼に笑顔を向けてくれた彼女が扉を少しすればノックしてくれ、姿を見せる。そんな錯覚を覚える。

仲間。

「……大切な奴なんだよ」

ぼそりとつぶやく。
利己と恐怖と諦観と苛立ちが混ざり、そんな言葉になった。
名前を付けられないものがくすぶっている。罵りたくなる気持ちが唾棄したくなるほど胸に溜まっている。

――と、扉がノックされた。

そういえば集会があるだの言われた気がした。どろどろとした頭で考えるが、もうここの住人ではなくなる彼にとってはすこぶるどうでもいいことだった。

返事はしなかったが、勝手に扉が開く音がして彼はそちらへ視線だけを向けた。
彼の目はこれ以上ないほど見開かれ、顔ごとそれを凝視するように上げた。

背丈は彼よりも小さい。もう見慣れてはいるが、顔を包帯で覆い素顔は見えず、その声は少女のような声だ。くぐもっていてはっきりとは判断できないが、恐らくは女の、タタラと共にアオギリの頂点に位置するだろうグール。

なにをもってしてその位置にいるのか、彼は知らない。わからないことが多すぎるが、ただのグールとは到底言えない。エトというグールを構成している様々な要素がまるで本当の形を見せないのだ。

そんな彼女は包帯の下で小さく笑う。

いや、それではない。それに驚いたわけではないのだ。元々神出鬼没だが、それも関係はない。

エトは人差し指と中指に長方形の薄いカードのようなものを挟んでこちらへと向けていた。

「ねぇアヤトくん。これ、あげるよ。もういらないしさー、私には意味ないし、ただのゴミなんだよねぇ。だからゴミ処理をよろしく頼もう、アヤトくん。煮るなり折るなり捨てるなり――使うなり好きにしてちょうよ。あとほんとに一応言っとくけど集会ね。タタラさんも私も怒っちゃうぞ」

運命というものがあるのならば、それは今この瞬間から始まったのか。

なにも言えない彼のベッドの上へとカードは落下した。
エトは扉の外へと向かい、閉じる前に、軽く後ろ手に片手を上げた。それがなにを意味するのか、彼にはわからない。なぜ集会のことを言いながらも扉をわざわざ閉める理由も。

ばいばい、なのかもしれない。
早くしろ、ということなのかもしれない。


奇矯で曖昧模糊としたその者は扉を閉め、最後に微笑しながらつぶやく。

「頑張れ」


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