@akirenge
【はるのゆめ】
三月の気温はジェットコースターのようなと特務司書の少女が言っていたのを新美南吉は聞いていた。
ジェットコースター? とごんと共に新美が首を傾げれば、温度差が酷いことと返された。
「三寒四温だからな」
そう言いながら本館の本を整頓していたのは正宗白鳥である。新美はその手伝いだ。
正宗は白いパーカーを着ていた。半袖は寒いだろうと特務司書の少女が渡したものであり、最初は猫耳フード付きパーカーだったが、
却下されて次は小林多喜二のようなファー付きのパーカーだったがファーをとても、もこもこさせたもので、
これも却下されシンプルなものに落ち着いてしまった。
本を戻すことは重労働で、出来る限り道具は使っているがそれでも、紙の束を元の場所に戻していくのはきつい。
新美は正宗の後ろをついていっているような状態だが、正宗は黙々と本を片付けている。
「暖かいと想ったら、寒いよね」
「そうだ。風邪もそうだが……花粉症もきついらしいな」
「薬がないと大変とか聞いたよ」
本館の手伝いは文豪達が交代でしている。というのも税金の関係で帝國図書館はぎりぎりの人数しか雇えないのだ。
白羽の矢が立ったのは転生文豪達である。彼等をスタッフとして時間を交代させつつ雑務をさせているのだ。
「次の交代は誰かな。僕達の分は終わったよね」
「白鳥さん、新美君、交代は私ですよ。もう一人、居ますが」
柔らかそうで穏やかな声がしたが、その声を聞いた途端に新美は正宗の後ろに隠れた。
「夢野。誰だ、交代というのは」
「私と四迷さんですが、四迷さんは恐らくは仮眠を取っているものかと」
「ボク、呼んでくる!」
夢野久作、最近転生してきたばかりの文豪だ。正宗と夢野はそれなりに会話をするのだが、新美はどうも夢野が苦手だった。
四迷さんこと二葉亭四迷を探すことを口実に新美はその場から離れる。
帝國図書館分館にでも行けば四迷は居るかも知れないが、離れることを優先してしまった。
「……ここ、どこだろう」
走ってみたら、知らない場所にたどり着いた。新美とて、転生して一年以上が経過しているが、帝國図書館の全てを知っているわけではない。
謎の廊下に来ていた。
資料室だろうか。そのまま、歩みを進めてみると、ある部屋があった。
扉が開いていたので、入ってみる。
整頓がされていない散らかっている部屋だ。部屋の真ん中には机があってその上には家が置いてある。
「ドールハウス……?」
特務司書の少女が前に写真を見せてくれた。ドールハウス、写真のとは違う。赤い煉瓦の大きなお家だ。
好奇心で新美はそっと覗いてみる。
ドールハウスの中には、少女らしい人影が何かを覗いていた。
「……え?」
一部屋で、少女は何かを覗いている。
よくみれば、それは同じようなドールハウスを覗いている少女で。
さらによくみれば、その先には同じようなドールハウスを覗いている少女が居て。
さらには。
強い力が、新美を引っぱろうとして、
「わっ!!」
逆さまになってしまいそうな感覚が強く強く新美を襲う。
視界が暗転した。
「気がつきましたか。新美君」
「乱歩さん」
「貴方は気絶してしまっていたのですよ」
目を開ければそこは別の部屋であり、江戸川乱歩が濡らしたハンカチを新美の額に当てていた。側には夢野も居るようだ。
寝かされているのはソファーだ。
「ボク」
「余り帰ってこない彼、の作業場だったようですね。あのドールハウス。曰く付きらしくて、頼まれていたものを処理して部屋を離れていたところを新美君が覗いたらしくて」
「彼は正宗さんに怒られていますよ」
曰く付き、
と言うことは普通のドールハウスではなかったようだ。帝國図書館は研究施設の面も持っているが、余り帰ってこない彼と言われている彼は、
特務司書の少女の補佐役だ。
「とてもぐるぐるしたんだ」
「でしょうね。声は聞いていましたが、かなり危ない品物だったようで……隔離されました。他の文豪の皆さんも興味を持ちそうですが」
「興味はいらん」
正宗が戻ってきていた。とても不機嫌そうだ。何時にもまして不機嫌だ。
「どうでしたか。彼」
「アイツも来て、おやつおごってもらえば? とか言っていた」
「おやつで解決しようとしてよろしいのですか」
「欲しい物を買って貰えと」
「それなら、欲しかった本があるんだ! とっても高いの」
特務司書の少女も動いてくれていたらしい。新美は起きようとするが起き上がれない。
「寝ていろ。……部屋に鍵ぐらいはかけておけ。アイツめ……」
「たまには失敗もありますよ」
「……たまには」
「落ち着きましょうね。正宗さん」
未だに怒りが収まっていないように見える正宗に新美は嬉しくなると言うか、心配して貰っているという気持ちが溢れて喜ばしくなってきた。
そんなことをいえば、正宗は怒ってしまうのだけれども。
「あ、鶯の声」
「春が近いですね」
「……春の風は狂気を運んでくる気がします」
「暖かさを運んでくるんだよ」
「……春が近いな」
なんだかんだでいくつものことに巻き込まれながらも、この日々は、過ぎていく。
【Fin】