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[想P♀]うろ覚えの子守唄

全体公開 2 1846文字
2018-03-17 22:01:49

徹夜作業で疲れきったPさんがリップクリームとプリットのりを間違えて唇に塗ろうとするのを慌てて止めに入る想楽君のお話です。

Posted by @toasdm

 あれはもう限界なんじゃないかなー、と想楽はプロデューサーの背中をじっと見つめる。かれこれ一時間ほどこうして見守っているが、プロデューサーは想楽の来訪に気付いてすらいない。事務所に入った際に声をかけなかったわけではないのだが、想楽が声をかけた時には、ちょうど彼女は居眠りをしていた。なにかかけてあげるべきだろうかと逡巡している間に自力で目を覚ました彼女は、自分の頬をぺしん、と叩いて、よし、と小さく気合を入れた。仕事の邪魔をするのも悪いかと思い直し、あえて声をかけなおさずに、ソファで彼女を見守りながら想楽は持参した文庫本を読んでいた。仕事の邪魔をしたくなかったのはもちろんあるのだが、自分の来訪にすら気付かないほどに気の緩んだ彼女をからかってみたいという気持ちが、声をかけなおさなかった理由の大部分を占めている程度には、想楽の悪戯心は無防備な彼女の姿に疼いていた。
 そして、先ほどから彼女は再び、舟を漕ぎ始めている。うつら、うつらと体を揺らし、あともう少しでデスクに額を打ち付ける、というところでがくりと身を起す。もう見てられないよー、と、内容の全く入ってこない文庫本を閉じてテーブルに置いた想楽は、びっくりしたら目を覚ましてくれるかな?と悪戯心の疼きを止められないまま、そっと彼女の背後に近付く。そろりそろりと足音を忍ばせ近付いて、あともう数センチで肩に手が触れるという時になって、想楽は思わず声を上げる。

「わーーーちょっと、なにしてるのさー!」
「へぁっ!?え、あっ、想楽さんお疲れ様で――あ、これ糊ですね?」

 自力で気付いただけまだいいか、と想楽は思わず掴んでいた彼女の手をぱっと離して、気をつけてよねー、と文句を垂れる。彼女の手の中には、キャップを取ったスティックタイプの糊が握られている。リップクリームを塗る時の動作そのままに、彼女はそれを唇に当てようとしていたのだ。

「唇くっついちゃうとこだったでしょー」
「ね、ねぱねぱしますかね……

 するにきまってるでしょー、と呆れた声を上げて想楽はそれを取り上げる。糊のキャップをパチンと閉めて、しっかりしてよねーと彼女の顔を覗き込んでみれば、目の下にはくっきりとクマが浮いている。何日しっかり休んでないんだろう、と想楽は溜め息と共に彼女の頬に手を当てて、親指でそっと目の下をなぞる。

「もー、ちゃんと寝ないからこういうことになっちゃうんでしょー」
「すみません……どうしても、終わらせたくて」

 リップクリームを塗ったところでおさまりそうもない荒れた唇に、持っていたリップクリームを応急処置として塗ってやりながら、想楽は彼女の手を引いてやや強引に立ち上がらせる。睡眠不足の彼女の体は急な動きに耐え切れず、ふらりとバランスを崩し、想楽はほらー、とそれを抱きとめる。

「こんな状態で仕事したって、効率悪くていつまでたっても終わらないでしょー」

 木こりのジレンマー、と赤くなった彼女の顔を両手で包んでじっと見つめて、めっ!と強めに、睨み付けるように注意する。いつになく真剣な想楽の様子に大人しくなる彼女の手を引いて、想楽は自分の荷物を除け二人分の座面を確保したソファに並んで座る。

「徹夜さんは大人しく、少しお休みしましょうねー」

 想楽は自分の荷物の中からひざ掛けを取り出して広げ、彼女の肩を包むようにそっとかけてやると、揃えた自分の太腿を軽くぽんぽんと叩き、はいどうぞー、と膝枕を差し出した。え、と流石に戸惑うプロデューサーの肩を無理やり引き寄せて自分の膝に頭を乗せ、想楽は大きな溜め息をついた。

「頑張ってるプロデューサーさんも素敵だと思うけどねー、大人なんだからちゃんと、休み休みやってよー」

 あんまり心配かけないでほしいなー、とまた溜め息をついた想楽の膝の上で、疲れに瞼を押さえつけられるようにして彼女は目を閉じ、すみません、と呟いた。少し経ったら起こしてあげるから、ちょっと休んでー、の言葉に甘えるように、彼女はすぐに寝息を立て始める。

「子守唄ー、歌う間もなく、夢の中ー……ふふ。膝枕の対価は、この寝顔かなー……

 いつもお疲れ様ー、と眠りについた彼女の髪をそっと撫で付けて、幼い頃に聞いたきりのままうろ覚えの子守唄を口ずさみながら、想楽も小さくあくびをする。背もたれに寄りかかり沈むようにして、起こしてあげる約束を放り出した想楽も、眠りに手を引かれて彼女と同じ世界に落ちていった。


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