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異端教団調査要請 クレイン03

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2018-03-18 22:10:24


グレティヴィ( @nemrisu )さんと!



 告死天使。死神。人の魂が迷わず旅立てるように導く案内人。彼らが今までとは比べものにならないペースで大量の王国民を死へ導きに来た時期があったことは記憶にも新しい。あれ以来──もしかするともっと昔から──聖職者であるにもかかわらず天使や天界を信用することの出来なくなった人間の数が増えている。
 信仰を捨てる者、別の信仰に目覚める者、あるいはもっと罪深い所業に手を染める者……人間は苦悩せずにはいられない生き物であり、常に前へ進むことだけを選び取れる者はそういない。
 ……クレイン・オールドマンが「そう」か「そうでない」かは、彼自身ですら知らない。


 想像よりも長期間教団に拿捕されていたらしいグレティヴィに最近の王国の情勢を説明していたクレインは、その天使の目線がふわりと自分から逸れ周囲を見回したことに気付いて説明を中断した。
「……歌が聞こえる」
「歌?」
 そして不意に呟いたのへ、怪訝そうな眼差しを向ける。
「賛美歌だろうか……だがどこか、不安になるような……」
「私には聞こえませんが……」
 少しの間二人は耳を澄ませたが、グレティヴィが聞いたという歌が再び聞こえることはなかった。
 ……教団員から剥ぎ取った衣装で変装したクレインとグレティヴィの二人はまだ教団の拠点内にいた。彼が人間並みに能力を減衰させていることに気付いたクレインはその活力源について問うたが、彼の活力源は聖歌や祈りなどのクレインにも生み出せるものではなく、自然の営み……星のかそけき光である。日は傾き始めてはいるが一番星にはまだ早く、現状ではグレティヴィが活力を得ることは出来ない。それもあってクレインはグレティヴィを守るべき存在として認識し、天使に助力を請うというよりは、自分が天使を守る盾になるという心積もりであった。
 着慣れないであろうカソックの裾を足に絡ませそうにしながら歩くグレティヴィの足取りは遅れがちで、クレインは慎重に彼の様子を気にかけながら廊下を歩いていた。自分よりも大分小柄の彼を気遣い、その歩みは常よりも遅い。
 しらみ潰しに拠点内を調べて回るのには限界がある。クレインは対人調査に方針を切り替えることにし、グレティヴィはクレインの弟ということになった。「引っ込み思案で人見知りの弟」であり「聖職者見習い」。小柄で顔に傷を負っているというのもあってその配役は自然に機能した。そうして基本的に会話はクレインが引き受け、グレティヴィは後ろで俯き加減に佇んでいた。
 クレインは教団員らと言葉を交わし、そしてその「善良」さに気鬱になった。彼らは本当にありふれた人間で、ここはただ救いを求める迷い子の群れなのだ。群れの仲間──この場合は人間──の幸福のために群れ以外のもの──悪魔や天使──を犠牲にしているだけで、彼ら一人一人の性質はけして邪悪ではない。怯え迷う群れが外敵に攻撃的になることを誰が責められるだろう。
 だが、邪悪でないからといって見過ごすわけにもいかない。また、彼らがまた正しい道に戻るよう導く時間もない。
 ──最善を行うことが出来ず、妥協によって剣を取ることは、この世界ではひどくありふれている。俺は何度もそうしてきた。
「……何をしているんだ?」
 机の上に燭台や杯を並べてひとつひとつ磨いている教団員を見かけたクレインは、思考を一時中断して声をかけた。教団員は見慣れない顔にきょとんとしたが、今日来たばかりなのだと説明すると納得した様子で机の上の道具たちを示した。
「今夜儀式があるんだよ。以前捕まえた天使は弱らせるのに時間がかかってるんだけど、今回は力の弱い天使を確保出来たからすぐ使えるらしい」
 クレインが小さく息を飲んだのに気付いたのは、隣にいたグレティヴィだけだった。そっと横目に見上げた先のクレインの表情が──愛想笑いを浮かべたまま一瞬固まったそれが──何を意味するものか、判断に迷う。
「そうか……その儀式というのは俺でも参加できるのかな?」
「どうだろう、参列するだけなら誰でもできるけど、実際儀式に携わるのはベテランの人が中心だから……」
 司祭様に聞いてみようか、と申し出た教団員に、自分で聞くよ、とクレインは答えた。……そして、そっとグレティヴィに目配せをした。


「……恐らく今夜の儀式に出されるのが私の探している天使かと」
 人気の無い場所へ移動し、ひそやかに話すクレインとグレティヴィ。表情は硬く、空気はひりひりと痺れるよう。
「儀式が始まる前に救出しないと……思ったより時間制限が厳しいですね……」
「自力での脱出は?」
「正直期待できませんね、彼は天使とはいえ身体能力自体はごく一般的な人間と変わりませんし……飛ぶこともできません」
 クレインは長く息を吐きながら大きな手で顔を覆う。少しの間そのまま動きを止めて、それから前髪をかきあげるように手を後ろへ滑らせた。
「……グレティヴィ様」
 囁くように出された静かな声は少し掠れていた。明るく輝く若緑色の目がクレインを見上げ、それを見返す目は暗い深緑。
「今日一日だけでいい。……私にご助力頂けますか」
 その言葉は祈りに似ていた。
 それが善き祈りであるならば、グレティヴィの答えは決まっていた。
「クレイン・オールドマン、その祈りは確かに聞き届けた。お前の加護天使を助け出すまでは、この天使グレティヴィがお前を守護しよう」


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新矢 晋@企画用 @sin_niya_b
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