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[雨P♀]涙の理由と照れの理由

全体公開 1637文字
2018-03-21 17:19:33

仕事のストレスでべそべそ泣いちゃうPさんを優しく受け止める雨彦さんのお話です。
お仕事で疲れきった全ての雨女さんにささげます。

Posted by @toasdm

 じわり、涙が滲んで世界が輪郭を歪ませる。歪んで滲む世界の端に藤色の瞳。覗き込むようにこちらをじっと見ている切れ長のその瞳が、ゆっくりと瞬きをして近付いてくる。お前さん、と低く響く優しい声音に、世界は一層その輪郭をぼやけさせる。ぽとり、と落ちた一粒は二粒になって、あとは数え切れないくらいの数珠繋ぎ。後から後から溢れる涙を優しく拭ってくれた細くしなやかな指は、でも決して、泣くんじゃない、とは言わない。

「そのままでいい、顔は見ないでいてやるさ」

 何があったのかも聞かないし、何をしろとも言わない優しい腕に抱きしめられて、安心感がまた涙を押し上げて、ぽろぽろぽろぽろ零れて溢れる。よしよし、と包むように広がる雨彦さんの声が、わけもなくただ泣きたくなるどうしようもない私を音で撫でる。疲れてるんだろう、疲れのせいさ、と涙の理由を検めて、雨彦さんの大きな手がそっと私の頭を引き寄せてくれる。逞しい胸板を奥に隠したつなぎの生地に、いくつもいくつも私の涙が染みを作って広げていく。そんな自分の情けなさに涙の理由がまた増えて、嗚咽を漏らしてしゃくりあげる私の背中を、雨彦さんはトントンと、優しいリズムで叩いて撫でる。

「よしよし……気にしなくていいぜ、好きなだけ甘えな」

 仕事が忙しすぎたからかな、気持ちが張り詰め過ぎていたせいかもしれない。いつ終わるのか、この忙しさはいつ抜けられるのか、先が見えない不安と焦り、心がちっとも休まらない毎日がずっと続いていたせいかもしれない。決して仕事が嫌いなわけではないのに、嫌いになりそうな弱い自分に嫌気がさしていたのもあるし、こんなことで泣き出して、こうして誰かに甘えることでしかそれをなんとかできない情けなさだって、涙の理由になっている気がする。投げ出す勇気もないくせに、投げ出したい気持ちだけが大きくなって、抱えきれなくなった私の荷物を、雨彦さんの包容力が手を差し伸べて、おろす手伝いをしてくれている。甘えることは悪いことじゃない、と言葉に出さずに態度で私に教えてくれる。雨彦さんは、そういう人だ。
 ひとしきりわんわん泣いて、少しずつすっきりしてきた私の頭と軽い心は、雨彦さんの抱擁に揺さぶられながらだんだんと、疲れて眠気を感じ始める。

「ふぁー……
「なんだ、好きなだけ泣いたら今度はおねむかい?」

 上手に誤魔化したはずの私のあくびを目ざとく見つけた雨彦さんは、少し身を離して私の顔をじっと見つめて、別嬪さんが台無しだぜ、とポケットからハンカチを取り出してそっと顔を拭いてくれる。優しく撫でられた頬に指を添えて、眠たいんならこのまま寝るかい?とからかうように言われた私は、そんなこと、と口に出す前にまた眠気に誘われて、口から出たのは誤魔化しきれない大きなあくびだった。顔をくしゃっとさせて笑う雨彦さんが、私の頭をくしゃっと撫でて言う。

「はは、お前さんは可愛いな」
「ぐすっ……雨彦さんだって、笑った顔が、可愛いです……

 私の頭を撫でていた手を止めて、ん?と言ってこちらを覗き込む顔は、まだその柔らかな笑い顔の余韻を残したあどけなさの混ざった顔できょとんと私を見ている。

そんなもんかい?」

 人差し指でぽりぽりと頬をかきながら、照れたような仕草を見せる雨彦さんの様子が少しおかしくて、私は思わず吹き出した。ああ、やっと笑ったな、ともう一度顔をくしゃっとさせて笑う雨彦さんが、だが、とその表情を一変させて、真剣な顔で私を正面からじっと見据える。

「俺にこんな表情をさせるのは、お前さんくらいなもんだぜ?」

 まだ少し、照れを残した赤い顔が近付いてきて、そっとおでこにキスが来る。照れてるんですか?と素直に聞けば、どうやらそうらしい、と照れ笑いをしながら、雨彦さんは私を抱きしめる。お前さんが可愛い事を言うからさ、と抱きしめられた腕の中で、私の涙の理由はいつの間にか、どこか遠くに流れて消えていた。


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