愛を乞うモノ〜文学少女の日記 Part.9〜

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2018-03-31 15:54:17

「私を愛して」とそのモノは希った。
鈴の図書館物語、第9話。
鏡司書ラブストーリーです。
※捏造設定注意!※

Posted by @natsu_luv

春の足音が近付いている。
図書館の中庭にある桜の木が美しい花を咲かせる日ももうすぐだろう。
私は久しぶりに律子姉さんと会っていた。
律子姉さんは私の7歳上の姉で、今は桜川町から遠く離れた場所でプログラマーとして仕事をしている。
私達姉妹は司書室に設けてある応接室で、桜の紅茶を飲みながら話を弾ませていた。

「鈴の所属してる図書館って、こんなに大きいんだね」
「そうだね。特務司書としてはまだまだ修行が必要だけどね」
「あんなに小さかった鈴も、すっかり大人になったね。時の流れは早いなぁ。鈴が産まれた時のことは今でも覚えてるよ」

律子姉さんが私が産まれた時のことを語り出した。
小学1年生だった律子姉さんが父と一緒に病院に向かって、私が無事に産まれたことを確認したという。
その時に父に言われたことを律子姉さんが話してくれた。
『愛情は与えるものだ。今度は律子が鈴に愛情を与える番だ。愛情を与え合って、人は生きていくんだよ』
律子姉さんは父の言葉をそのまま私に伝えた。

「おっと、昔話に花を咲かせ過ぎたね」
「律子姉さん、身体には気をつけてね。それから、父さんと母さんによろしく伝えておいて」
「わかった。忙しいとは思うけど、鈴も体調には気をつけるんだよ」
「じゃあね、律子姉さん。今日はありがとう」

律子姉さんが帰った後、私は館長さんから謎の侵蝕者に関する調査報告書を受け取った。
報告書には謎の侵蝕者への対策が具体的に書かれていた。
私は図書館に文豪のみんなを集めて、調査報告書の内容を説明することにした。
侵蝕者の名前は「愛に飢えた文学少女」で、私と顔立ちがよく似ている。
どの有碍書にも現れる可能性が極めて高く、倒すには双筆神髄や筆殺奥義なども必要になるとのことだ。

「館長さんいわく、この侵蝕者は私の影みたいな存在らしいの」
「司書さんの影……ですか」
「他の侵蝕者と決定的に違うのは、弱点が私自身にあることなんだ。何かあったら、私が直接この侵蝕者に語りかけてみるよ」
「わかりました。第一会派筆頭として、その侵蝕者を倒してみせましょう」
「鏡花さん……

鏡花さんは私の手を取り、心強い言葉をかけてくれた。
その様子を見ていた第一会派の他のメンバーも、一緒に頑張ると言ってくれた。
第一会派のメンバーだけでなく、文豪のみんなが次々と自分を頼りにしてほしいと言ってくれた。
文学を守るために再びこの世に舞い降りた文豪たちは、文学だけでなくこの図書館も守るために立ち上がってくれたのだ。
私は午後の潜書の時間に再び図書館に集まるように伝えて、この場を一度解散させた。



時計の針が13時を指した。
午後の潜書の時間になり、私は再び文豪たちを図書館に召集した。
今回の潜書も『あらくれ』で、魂の歯車を取ってもらうことが目的だ。
もしかしたら、愛に飢えた文学少女が現れるかもしれない。
御守り代わりに、第一会派のメンバー全員に賢者の石を持たせた。
賢者の石は私が作った小さな巾着袋に入れている。
会派を送り出し、無事に帰ってくることをただひたすら祈った。

第一会派が有碍書の最深部にたどり着いた。
有碍書の中の空が一気に暗くなり、周りに赤黒い霧が立ち込める。
侵蝕者が現れた。
少し紫がかった銀髪に赤と黒のオッドアイ、顔立ちが私にそっくりな女の姿。
女はゴシックロリータ風の衣装を纏い、白い表紙の本と支配神クロノスの大鎌を思わせる物騒な武器を持っている。
愛に飢えた文学少女の降臨だ。

「また来たんだね。私を愛してくれるの……?」
「悪いけど、君には用が無いんだよ」
「図書館とおっしょはんのために、あんたには消えてもらわなアカンねん」
「何ですって……!」

侵蝕者の女の顔が憎しみで歪んでいく。
第一会派のメンバーは怯まずに、私とよく似たこの侵蝕者を倒そうと意気込んでいた。
秋声くんとオダサクくんに続いて、鏡花さんと賢ちゃんも侵蝕者に宣戦布告を始めた。

「これ以上、誰も傷付けさせないよ!」
「僕らはあなたを許しません。浄化致します」
「愛して……くれないのね。許さない……!」

愛してくれないのならば殺してしまえ。
そう言わんばかりに、侵蝕者は大鎌を振り回す。
賢ちゃんが放った弾丸と秋声くんの弓矢が侵蝕者に当たり、血が滲んだ傷口から毒花が咲く。
毒花の瘴気と大鎌による力強い一撃で、賢ちゃんとオダサクくんが深い傷を負ってしまった。
このままだと、以前と同じ結果になってしまう。
私は指示用マイクの電源を入れ、直接女に物申すことにした。

「そこの侵蝕者! 私の大切な人たちを傷付けるのは止めなさい!」
「何なの⁉︎ 私を愛してくれない人間なんて、世界なんて、壊れてしまえばいいのよ!」
「変なこと吹き込まないでよね! 愛は乞うものじゃないの! 与えるものなの!」
「何よ、そんな綺麗事……!」
「与えられた愛情を大切な人たちに与えるの! 愛情を与え合って、人は生きていくんだから……!」

侵蝕者に思いきり言ってやった。
私の後ろで話を聞いていた紅葉先生と逍遥先生が頷く。
今度は哀しみで顔を歪めて、侵蝕者は大鎌を振り下ろす。
泣き叫びながら、全てを壊すかのように侵蝕者はひたすら攻撃を繰り出す。
破壊の一撃は鏡花さんと秋声くんを一気に喪失状態まで陥らせた。

「真っ当に愛されたあなたに私の気持ちなんてわからない! わからない……!」
「容赦なさ過ぎるよ……! 僕を……怒らせたね……!」
「もういいわ。あなたの一番大切な人を眼の前で殺してあげる……!」
「その臭い口を閉じろ!」
「えっ……? よりによって、あなたに倒されるなんて……

秋声くんの必殺の矢を受けながらも、侵蝕者は鏡花さんに襲いかかった。
鏡花さんは鋭い眼光で奥義を繰り出し、レイピアで侵蝕者の心臓をひと突きにした。
侵蝕者の身体が半透明になり、徐々に消えていった。
瞳孔が開き、声を荒げていた鏡花さんの顔が穏やかになった。
有碍書に降り注いだ眩い光が視界に広がっていく。
温かな光が満身創痍の第一会派のメンバーを包み込んだ。



有碍書から第一会派が帰ってきた。
賢ちゃんとオダサクくんは鴎外先生に補修室へと運ばれていった。
疲れきった秋声くんがその場に座り込み、私の姿を目で捉えた鏡花さんが傷を庇って駆け寄ってきた。
涙目の鏡花さんは強く私を抱き締めた。
私も鏡花さんをしっかりと受け止めた。

「司書さん……。僕もどれだけあなたから愛情を与えられたか……
「鏡花さん……。ちゃんと帰ってきてくれて良かった……
「鏡花、秋声、よく頑張ったな。さぁ、我について参れ。ゆっくり休みなさい」
「補修が終わったら、君もゆっくり休むんだよ」
「紅葉先生、逍遥先生……。ありがとうございます」

鏡花さんと秋声くんも、紅葉先生に連れられて補修室へ。
私は逍遥先生に手伝ってもらって、傷を負った第一会派のメンバーたちの補修を済ませた。
ベッドで眠る鏡花さんの枕元にうさぎのぬいぐるみを置いた途端、私も眠り込んでしまった。

「司書さん、風邪をひいてしまいますよ」
「うっ……。鏡花さん、傷が癒えたんだね」
「はい、もう大丈夫です」

目を覚ますと、いつもの優しい笑みを浮かべた鏡花さんの姿があった。
その姿を見て、私は安堵した。
窓の外に目をやると、桜の花が咲いていた。
この図書館にも春がやって来たのだ。
春の訪れを文豪たちと一緒に迎えられて良かった。

「いつ見ても、桜の花は美しいですね」
「今度、お花見しようね。一緒に紅茶でも飲もう」
「はい、楽しみにしてますね」

謎の侵蝕者という脅威が消え去り、この図書館にほんの少しだけど安寧の日々が訪れた。
桜の花も次々と咲き誇るだろう。
この時に愛する人と一緒にいられることが、私にとって何よりも嬉しいことだ。
願わくば、これからもずっと一緒にいたい。
愛情を与え合って、私達は未来を生きていく。


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