@toasdm
「んっ、これでよし、と」
真っ白のホイップクリームを綺麗に飾り付けて、彼女は満足げに微笑む。土台のスポンジケーキから焼いて全て手作りしたバースデーケーキ、その中央にはマジパンで作った可愛らしい人形まで乗っている。もちろんそれも、手作りだ。淡い金色の髪の毛をゆるく束ねた人形は、今日誕生日の都築をモチーフに作られている。シックな黒のステージ衣装を身にまとい、五線譜を手にしてたおやかに微笑む姿を象ったつもりではあったのだが、等身の関係上可愛らしさを前面に押し出した、なんとも愛らしい人形になってしまった。まあ、これはこれで、と納得した彼女はその人形の手前に、【HAPPY BIRTHDAY】とチョコペンで描いたチョコレートプレートを置き、そこではた、と考え込んだ。
「……待って、ろうそく何本用意したらいいの?」
都築圭はアイドルである。天上の音楽を奏でるアイドルユニットAltessimoに所属している、年齢不詳のアイドルである。…年齢、不詳の。履歴書にも記載されていなければ、本人に聞いても忘れてしまった、とはぐらかされてしまうばかりで、恋仲になった現在でも、彼女はプロデューサーとしても恋人としても彼について知らない部分が多い。それは年齢についても同じだ。まあ、その謎めいたところもいいんだけどね、と心の中で誰ともなしにのろけて頬を染めながら、彼女はいやいやいや、とかぶりを振る。
バースデーケーキにはろうそくを立てなければならない、と法律で定められているわけではないのに、それでもやはり彼女はその一点にこだわりがあった。お誕生日はケーキに立てた年齢の数のろうそくを吹き消してこそでしょう!と強い思いを抱きつつも、その肝心の年齢がわからないのだ。さて、どうしよう……逡巡をめぐらせながら、0から9までの数字を象ったろうそくたちとにらめっこをした彼女は、しょうがない、とため息をついてからくすりと笑い、2つのろうそくを手にとってケーキに立てた。
「圭さん、お誕生日おめでとうございます!」
「えっ、今日ってそうだったっけ?」
いつもどおりだな、と苦笑しながらそうですよ、と席をすすめて、彼女は紅茶を淹れはじめる。ふわりと漂うベリーの香りの中、都築の視線はテーブルの真ん中に置かれたケーキに釘付けになる。
「これ、もしかして僕?」
「ふふふ、わかってもらえて嬉しいです」
彼女が心を込めて作ったマジパン細工の人形を細い指先でつつきながら、都築は興味津々と言った表情でそれを見つめる。ふふ、と笑いながらケーキを眺めて、あ、と気の抜けた声を上げる都築に、彼女はどうしましたか?と聞きながら、同じく、あ、と気の抜けた相槌をうつ。
「圭さんの年齢、わからなかったんですよ」
「うん、僕もよくわからないからね」
でも、とろうそくをまじまじと見つめる都築は、彼女の顔とそれをと見比べて、複雑な表情をして言う。
「でも、三十九歳ってことは、多分、ないよ」
「…それ、年齢じゃないんです」
どうぞ、とお茶を差し出しながら、彼女は頬を染めてそっぽを向いて言った。
「……いつも、ありがとうございます、っていう意味を、込めました」
「この数字に?」
こく、と一度頷いて、彼女は都築の目を真正面から見つめて、はにかみながらも微笑んで、プレゼントを差し出した。
「三と九で、サンキュー、の…つもり、です」
「…………ぷっ」
一瞬の間をおいて意味を理解した都築は、吹きだしながらプレゼントを受け取った。ああ、恥ずかしいと顔を覆う彼女に手を伸ばして、僕は面白いと思ったよ、とまだ微妙に方と声とを震わせながら都築はそっと頭を撫でる。
「年齢なんてどうでもいいかな、って思ってたけど」
彼女の後頭部に手を添えて、それをそっと自分の方に引き寄せると、その頬にいとおしげにキスを落として都築は彼女の耳元に囁いた。
「今度、思い出したらちゃんと教えてあげるから、ね」
それまでは、三十九歳でもいいかな?とまだからかう都築に、もうやめてください、と羞恥と喜びに耳まで真っ赤にした彼女はろうそくに火を灯した。
「お誕生日、おめでとうございます」
「……ありがとう、嬉しいな」
小さなケーキを挟んで二人分の笑顔が満ちたテーブルで、ささやかなバースデーパーティーが始まる。フッ、と吹き消された三と九のろうそくをサッと取り外すと、彼女はケーキを切り分ける。来年はちゃんとした、言葉遊びじゃないろうそくを立てられますように、と願いながら彼女は、心の底から恋人の誕生日を祝っていた。