@acbh_dmc4
荒唐無稽な話だが、と前置きをして、その男は未来から来たと言う。
何故過去へと飛ばされてしまったのか、それは分からないがちゃんと戻ることは出来るから、暫くここに置いてくれと男は言った。
男の話を全て鵜呑みにするわけではないが、確かに俺に面影があるし、俺しか知りえない事も色々と言い当てられた。
何より信用の置ける男である事だけは直感し、俺は彼を受け入れた。
男との共同生活は存外に楽しく、張り合い甲斐もあった。
まるで兄のように俺をからかい、遊びのような喧嘩をし、そして時に父のように俺を嗜め、そして励ました。
俺はちゃんと未来で復讐を遂げたのか、それともまだなのか、安易に聞いてみたが男は薄く微笑むばかりで答えてはくれなかった。
しかし、時折剣や体術の稽古はつけてくれる。
その時の男は厳しく、厭味で、そして憎らしいくらいに優美だ。
「どうした?眠れないのか」
「考え事…」
「俺のことか」
「うん」
「悪いが、答えることは出来ないぞ」
「うん」
優しくキスをしてくれる。
もっとと求めるが、彼はそっと抑止して俺の髪を撫でるだけに止めて微笑する。
「確り寝なければ、傷の治りが遅くなる」
「……なぁ、添い寝してよ」
「仕様のない」
薄く微笑んで隣に横たわる。
小さな子供の我が儘を聞いてやる大人のような笑み方に、俺は不貞腐れたような態で彼に文句を言う。
そうすればますます彼が俺をからかうと分かっていても、そんな保護者のような顔を止めて欲しくて抗議する。
この男は、確かに俺に愛情を持って接してくれるのに、肝心なことはいつもはぐらかす。
全てを与えて欲しいのに、やんわりと拒絶される。
密やかに生まれた温かで残酷な感情が、俺の心を掻き乱す。
変化を望んでも、すべてを見透かしたような彼は、きっと上手にかわすのだろう。
俺の心を冗談にして。
隣で俺を抱いて眠る彼の胸に頬を寄せる。
暖かに刻まれる彼の規則正しい命の音は、確かに彼がここにいると知らせてくれるのに、いつも目覚めたら幻のように消えてしまうのではないかと、それが怖くて寝付けない。
ふつりと意識の糸が途切れては、幾らも経たない内に目が覚める。
何度そうして眠れない夜を過ごしたか、彼は知っているのだろうか?