「ん……ふふ、何?そんなにキスしたかった?」
みのりさんの部屋で灰皿を見つけてしまったPさんが、口寂しさをキスで誤魔化そうとするお話です。ほんのりR15風味。
@toasdm
「ん……ふふ、何?そんなにキスしたかった?」
したいかしたくないかでいえば、したい。ずっとしていたい。キス以外ではきっと、誤魔化せないと思うから。甘えん坊さんだね、と笑って抱きしめてくれるみのりさんが、心配だから。
部屋のかすかな残り香と、部屋の隅の灰皿と吸い殻。昔、やんちゃをしていたのは知っているけれど、ある時を機会にきっぱりとやめたはずの煙草の痕跡に、私は複雑な思いを抱いている。
みのりさんは嘘はつかない。でも少しずるいから、上手に誤魔化して隠してしまう事がある。例えば、寂しさを抱えて眠れない夜とか、弱さとか。そんなことないよ、って笑って誤魔化してしまうけど、本当は誰よりも強くて脆い。誰かに手を差し伸べる優しさの裏に、ずっと孤独を抱えている人なんだ、と気付いた時から私の心は、みのりさんのその弱さに触れる度にどんどん、みのりさんに惹かれている。だから…煙草を吸いたくなるような何かがあったとして、それを問い詰めてもきっと、そんなことないよ、って誤魔化してしまうだろう。
体に良くないからやめてはしい、という気持ちも強いけどでもそれよりも、煙草を吸いたくなるような何かがあって、それがみのりさんにとって辛いものなのだとしたら、私は、それをなんとかしたい。煙草を吸わなくても口寂しくならないように、私は夢中でみのりさんの唇を求める。
「ふふ…ねえ、ほんとにどうしたの?」
「…キス、したいだけです」
本心を隠して求めたキスの味は、いつもより少し苦い気がして、後ろめたさに俯く私の頬を両手で包んだみのりさんが、ねえ、と私の心を覗き込む。
「何、隠してるの?」
「……隠してなんか」
嘘つき、と重ねた唇からは、いつものみのりさんの優しさが伝わってきて、余計に胸が締め付けられる。煙草くらい好きに吸えばいい、という気持ちと、煙草なんて吸わないでほしい、という気持ちがぐちゃぐちゃになって、気がつけば私は、目からぽろぽろと涙を零してしまう。
「ほら、泣いちゃうくらい辛いんだよね?俺には話せない?俺じゃ駄目かな?」
「ちがっ、そういう、あれじゃなく」
じゃあ何?と私を抱きしめて耳元で囁くみのりさんの声は、怒っているでも悲しんでいるでもなく、泣かないで、と涙をそっと拭うみたいな温もりの色が混ざっている。これ以上隠しても意味なんてない、と観念した私は、ぽつり、ぽつりと白状し始める。
「……煙草、やめたと思ってたんです」
「え?うん、吸ってないけど」
「え?」
「うん?」
きょとん、と私を見つめるみのりさんと、きょとん、とみのりさんを見上げる私。でも灰皿、と部屋の隅のそれをちらっと振り返った私に、やっと合点がいったのか、ああ、それ?とみのりさんは笑い始めた。
「俺は吸わないけど、お客さんには吸う人もいるよ?」
「お客さん…?」
なんだそんなことか、と笑い続けるみのりさんが、腕の中の私をぎゅっと抱きしめて頬ずりをする。ごめんね、と言いながらもまだくすくすと笑うみのりさんが、はあ、とため息をついて、失敗したなぁ、と天井を見上げる。
「ちゃんと片付けとけばよかったな」
「もしかして、なにかやなことあって煙草吸ってたのかな、とか……」
勘違いした私の告白を、みのりさんはまだ笑いながらじっと聞いてくれている。一気に恥ずかしくなりながらも、ここまできたらもう取り繕ったって意味ないやと開き直って、俯いたまま私は続けた。
「口寂しいなら、ずっと……キスしていれば、大丈夫かなって、思ったんです…!」
「うわ、なにそれ、可愛い」
瞬間、ぐるりと視界が回転する。みのりさんの顔が目の前に、天井を背景にして視界いっぱいに展開する。さらりと落ちてきたみのりさんの前髪が頬に触れて、くすぐったさに思わずすくめた私の肩を、みのりさんの力強い手がぐっ、と床につけるように押してくる。
「あんまりにも可愛くて、押し倒しちゃったよ」
「ん…っっ!」
さっきまでの後ろめたいキスとは全然違う、貪るような激しいキスがいくつもいくつも降ってきて、私はみのりさんに溺れそうになる。息ができなくて思わず叩いたみのりさんの胸板が、すっ、と離れてそこで私は、やっと呼吸を取り戻す。前髪をざっとかきあげて、目は真剣なのに口元はにやりと笑っているみのりさんの表情は、見ているだけでドキドキと、私の鼓動を速くしていく。
「寂しくなんてないよ、今は……キスもできるし――…」
「みっ、みのり、さ、んんっ!!」
全身にみのりさんの重みがのしかかってきて、愛おしさとドキドキと、男の人らしさで私は再び息がつまる。私を押し潰すように抱きしめたみのりさんが、耳元で艶っぽく囁く。
「キスより先も、できるから…ね?」
寂しくないけど、してみる?と低く甘い声に包まれて、みのりさんが何を言おうとしているかがわかった私は、顔だけじゃなくて全身に、みのりさんが灯した熱を広げる。体を起こしてため息をついて、みのりさんは私を見下ろしている。
「……ね、したいな」
ただ優しいだけじゃない、男の顔のみのりさん。くらくらするような年上の色香にあてられて、私は目を閉じてキスの先を待った。可愛い、と短く呟いたみのりさんに体を預けて、私はそれを受け入れた。部屋の煙草の残り香は気がつけば、二人の甘い香りで上書きされているようだった。