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[雨彦夢]幸せのにおい

全体公開 933文字
2018-04-10 12:41:54

「ああ、お前さん早かったな」

おうちに帰ったら雨彦さんが晩御飯を作って待っていてくれるという、そんな夢のようなお話です。

Posted by @toasdm

「ああ、お前さん早かったな」
 優しい声と温かい香りが、疲れきった私の体をゆっくりとほぐすように出迎えてくれる。靴を脱いだ足にはくっきりと跡が残っていて、パンパンになった素足に冷たい床が心地よい。ただいま、と声をかける相手がいる幸せと、それが雨彦さんであるという幸せは、似ているようで少し違う。ちょいと借りてたぜ、と私のエプロンを身につけた雨彦さんは、その背の高さとエプロンの丈が全く合っていなくて、その姿にくすりと笑った私に、なんだその笑いは、と照れながら、エプロンで手を拭いて雨彦さんも玄関にやってきた。
「おかえり、お前さん」
「ふふただいま、です」
 自然に寄せられた唇に目を閉じると、身を屈めた雨彦さんの唇がそっと、おかえりなさいのキスをくれる。ああ、幸せだな、とそれをかみ締めて、引き寄せられるままに雨彦さんの大きな背中に手を回してそっと抱きついた。
「なんだ、随分と甘えん坊さんじゃないか」
 疲れたかい、と私を持ち上げて、雨彦さんはそのまま私をリビングへと運んでくれる。おいしそうな夕飯の香りに満たされたそこは普通のリビングだけれども、今は、私と雨彦さんだけの特別な空間。少し待ってな、すぐ飯にするさ、と再びキッチンに向かう雨彦さんの背中を見つめながら、私はぼんやりと考える。
 幸せのにおいはきっと、こんな温もりに満たされたあったかい毎日のにおいなのかもしれないな、なんて
 ふふ、とこぼれた笑いを耳ざとく拾った雨彦さんが、換気扇のフードに頭をぶつけないようになるくらいには、この光景が当たり前になっていることに感謝しながら、私はむくんだ足を投げ出して、幸せなため息とともにソファに身を投げ出した。
「こら、着替えくらい済ませとけよ」
「ふふふ、はーい」
 キッチンで振り返る雨彦さんの優しい声に背中を押されて、よいしょと身を起こした私の足は、さっきよりも少しだけ軽くなっている。その足取りで私はクローゼットへと向かった。今日のご飯はなんだろう?と考える幸せも、きっと毎日のにおいの一部になっているのかもしれない。早く着替えろよ、とキッチンから雨彦さんに呼ばれて、はーい、と返事をした私の声からは、疲れはもうすっかり抜けきっているようだった。


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