「そうかなー?やってみないとわかんないことって、きっとこれから先もたくさんあると思うんだけどー」
想楽さんと新婚生活を味わうお話です。
@toasdm
「ただいまー」
おかえりなさい、と出迎えてくれたのは、プロデューサーさんと僕の奥さん。どっちも苗字は、僕とおんなじ北村だ。ついでに着ている服もつけてる指輪も、髪型も笑った顔も、おかえりなさいのキスをしてくれる時に少し恥ずかしそうにするところも、全部おんなじ。…プロデューサーさんは、先月僕の奥さんになったからね。嬉しそうに僕に抱きついたプロデューサーさんからは、ふわっと甘い匂いがする。僕は知ってる、この匂い。
「もしかして、プリン作ってくれたのー?」
「あ、わかります?」
カラメルソースの香ばしくて甘い香りは、プロデューサーさんの手作りプリンの香りだからね。最近お仕事が忙しくてなかなか作ってもらえなかったプリンを、せっかくのお休みの日なのに張り切って作ってくれてたんだな、と思ったら、僕は自然とほっぺたが緩むのを抑えきれなくなる。にまにましてるー、とほっぺたをつついてニコニコ笑うプロデューサーさんが、すぐ食べますか?と僕とおんなじにまにました顔でこっちを見上げている。
「うん、食べたいなー」
荷物を置いて手を洗う僕がソファに座るより前に、プリンの器がローテーブルに置かれている。ちっちゃくてかわいい木のスプーンを手にとって、さっそく僕はひとくち食べる。
「んーーー…♪」
あー、これ。これなんだよねー。僕の心と胃袋を、がっつり掴んで離さなかったプリンの味。とろとろで、ぷるぷるしてて、甘くてたまご味。カラメルソースもしっかり焦げてて、甘くて苦くて香ばしい。何よりも、大好きな人が僕のために作ってくれた、っていうのが一番大きいよね。幸せすぎて目を閉じて味わっていた僕の隣、作ってくれたプロデューサーさんをちらっと見ると、なんか、もじもじしてるみたいにプリンを食べている。
「なあにー?どうしたのー?」
「う、えーと、あの……」
おろおろしながらきょろきょろして、わたわた慌てて、どうしちゃったんだろう?言葉の続きを待ってたら、とうとう覚悟が決まったみたいで、よしっ、て小さく呟いてから、プロデューサーさんはプリンをスプーンにのっけて、僕の口元に差し出して、上目遣いで恥ずかしそうに言った。
「お、お疲れ様、あなた…っ、は、はいっ、あーん……」
ちょっと、待ってほしいんだけど。何それ僕聞いてないんだけど。お疲れ様?あなた?はい、あーん?
いつも僕のこと、想楽さん、って呼ぶでしょ?いちゃいちゃしようとしたって、恥ずかしがってなかなかしてくれないでしょ?うわ待って、僕今すごい顔になったりしてない?大丈夫?デッサン狂ってたりしない?平気?絶対顔赤いよね?っていうか、プロデューサーさんも真っ赤だし、なんか、え、僕どうしたらいいと思う?
「な、なんでもないですっ!ししし、新婚さんらしいこと、してみたくなって……」
照れ隠しに慌ててプリンを食べたせいか、プロデューサーさんは勢いよくむせちゃった。あーあ、なんかもうほんと、可愛い。可愛すぎて駄目。無理。なんとかおさまった咳に、はぁ、と一息ついたプロデューサーさんが、思いっきり恥ずかしそうに笑ってこっちを見ている。
「慣れないことは、するもんじゃないですね」
「そうかなー?やってみないとわかんないことって、きっとこれから先もたくさんあると思うんだけどー」
言いながら僕はまたプリンをすくって、今度はさっきプロデューサーさんが僕にしてくれたみたいに、口元にプリンを持っていく。自然と笑っちゃう口をもう隠すようなこともしないで僕は、にこっと笑って言う。
「お疲れ様、お前ー。はい、あーん」
ふぎゃ、とも、ひょあ、ともつかないような、すごく不思議な声を上げて、プロデューサーさんは固まった。食べないのー?と差し出したプリンをさらに口に近づけてみると、目を閉じたままえいっ、と食べて、また俯いて固まったままになってる。ぶつぶつと、お前って、とかあーん、とか呟いてるから、多分意識はあるんだろうけど、心ここにあらず、ってとこかなー。
「新婚さん気分、味わえたー?」
「お……おかげ、さまで……」
新婚さん気分をプラスしたプリンの味は、カラメルソースの苦味が引き立つような、甘くてとろける味だった。そっちも食べちゃうよー、と空っぽになったプリンの器を見せながら、僕はスプーンを伸ばしてみる。あげません!とやっとこっちに戻ってきたプロデューサーさんは、慌ててプリンを食べている。今度はむせないようにねー、といいながら、僕はキッチンにプリンの器をさげにいった。お口の中は、まだまだずっと、甘いままだった。