@toasdm
「なんだ、お前さん寝ちまったのかい」
風呂からあがった雨彦は、ソファで寝こけるプロデューサーを見つけてくすりと笑う。疲れてるんだろう、と労わりの心がブランケットを手にとって、彼女の体をそっと包む。起こさないようにそっと隣に腰掛けて雨彦は彼女の髪を撫で付けて、お疲れさん、と心の中で呟いた。
まだ軽く濡れた髪の毛をタオルでがしがしと拭きあげて、雨彦はフッ、と息を上へと吹きかけるようにして吐き出した。普段は後ろに上げている前髪が息でばさばさと動き、乱れた前髪の隙間から目を細めて雨彦は、隣で眠る彼女を見つめた。
お前さん、頑張り過ぎだぜ。こんなところで着替えもせずに、風呂に入る前に寝ちまうなんて、よっぽど疲れてるんだろう。寝顔こそ穏やかなもんだが、普段は根を詰め過ぎているんだろうな、たまに見かけるお前さんの眉間は、シワが寄ってることだってある。……それにしたって、気を抜きすぎじゃないのか、お前さんは。涎まで垂らして、こんなところで。
ぽつりぽつりと泡のように浮かんで消える雨彦の心情が、雨彦の頬を緩ませる。ゆっくりと撫でる手の優しさに彼女は時折嬉しそうに微笑んで、二人はだいたい似た様な顔をしながら、夜の時間をひとつのソファで、夢と現で分け合っている。
流石に邪魔だな、と雨彦は前髪をざっとかきあげて後ろへと流す。整髪料で固めていない前髪はすぐに乱れはするものの、顔にかかることはない。はあ、とため息をついた雨彦はソファの背もたれにもたれかかったまま、横ですやすやと寝息を立てる彼女の頭を相変わらずゆったりと撫で続けている。気が抜けているのは俺も同じか、と自嘲しながら、雨彦は髪の毛を拭いたタオルでそっと、彼女の口元を拭ってやる。年頃の娘さんが晒していい顔じゃないぜ、と親心のような優しさで涎を拭いて、雨彦は彼女を起こさないように気をつけた。はずだった。
「んぅ……」
「お、っと…悪かったな、起こしちまったかい」
頭を撫でる手を止めて雨彦は彼女に声をかけるが、彼女からの返事はない。なんだ、寝言かとまたこっそり笑った雨彦がタオルを引こうとするが、なぜか彼女はそれをぎゅっと掴んでいる。赤ん坊かい、とまた親心のような優しい気持ちを胸に抱えて再び彼女を撫でようとした雨彦の手は、彼女の呟きひとつでぴたりと停止した。
「…雨彦、さんの……匂いだぁ…」
切なさで胸が締め付けられる、鷲掴みにされる。お前さん、本当に寝てるんだよな?と顔を覗き込んでみるが、そこにあったのは無防備が過ぎるほどに気の抜けた、ぐっすりと眠る彼女の寝顔だ。間違いなく寝ている、寝ぼけているのだ。やれやれと言わんばかりにため息をついた雨彦は、一度止まった手をもう一度、彼女へ慈しむように伸ばしてから、この上なく優しく、撫でた。
「俺はここにいるからな……ゆっくり休みな」
手だけではなく心でも、言葉でも。雨彦の優しさは、疲れて眠る彼女の全てを優しく撫でた。夢と現で分け合った優しい時間は、ややしばらく続いた。