X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

[雨P♀]朝

全体公開 1 2473文字
2018-04-21 21:45:41

……そばに、いてくれ」
……そばに、いてください」

寝落ちしたPさんを優しくベッドに運ぶ雨彦さんと迎える朝のお話。素敵な話題を提供してくださった匿名の方に、最大限の感謝を。ありがとうございます。

Posted by @toasdm

■Side P

 瞼越しに感じる朝の日差しに意識の手を引かれて目を覚ます。根を詰め過ぎたせいだろうか、腕とか肩とか、要所要所がだるい気がする。うっすらと開けた瞼から、カーテン越しの光が一気に飛び込んできてくらくらする頭と視界。見間違いで、なければ。眩しさにまだ慣れていない目が、錯覚でも起こしたんだろうか。白の光を堪えて私はもう一度、ゆっくり目を開ける。……いやいや。いやいやいやいや。
 腕も肩もだるいのは、当然だ。私の体は雨彦さんに抱きかかえられている。雨彦さんのしっかりとした逞しい腕が腕と肩とをがっちりと抱きかかえている。いやいや、いやいやいやいやいや、なんですか、これはなんですかどういう状況なんですか!軽くパニックを起こした私は、慌てて記憶の引き出しを開けた。目は閉じる、じゃないと目の前の雨彦さんのきれいな顔が、うわ、思い出したらまたドキドキしてきた。落ち着け、落ち着け……。昨日寝る前に何があっただろう。思い出せ、思い出すんだ、私……っ!
 昨日は珍しく仕事を持ち帰ってきた。お迎えに来てくれた雨彦さんの車の中でも確認しながらおうちについて、雨彦さんが用意してくれたご飯を食べながら企画書に目を通した。お前さんは手間がかかるな、なんて笑いながら後片付けまでしてもらって、ええと、それから……それから、どうしたんだっけ。私の記憶はそこで途絶えた。恐らく、雨彦さんがお風呂に入っている間もリビングで仕事をしていたはず。でも。今私の体があるのは、雨彦さんに合わせて買った大きな大きなベッドの上だ。で……隣には……
 「雨、彦さん?」
 とりあえず起きよう、と体を起こそうとした私を、雨彦さんの腕が抱きとめる。まだ眠いんだろうか、完全に寝ているわけではないにせよぼんやりとした雨彦さんの腕の力は、弱いようで強い。
 「あの、起きますので離して、ください」
 「……お断りだ」
 そんなはっきりとした口調で寝ぼけたことを言わないでください!こっちはすっかり起きてるんです!!一気に熱くなる顔、目の前の雨彦さんは割と寝ているみたいで、寝起きの掠れた声のまましゃべっているのに、呼吸は寝ているときのそれだ。私を抱きしめながら、雨彦さんは私の頬に顔を摺り寄せながら、まだ寝ぼけた掠れ声の雨彦さんが耳元でぼそ、っと呟いた。
 「……そばに、いてくれ」
 聞き違いで、なければ。そんな風に甘えたことを、雨彦さんが言った気がする。朝の光が拡散するベッドの上、雨彦さんに捕らわれたままドキドキしっぱなしの胸を抱えて私は、考えることをやめた。


■Side 雨彦

 「やれやれ……
 風呂から上がってみれば、机に突っ伏したままぐーすかいびきをかいているときたもんだ。お前さんの顔の下にある書類は、今日お前さんが必死に残業して作った大事な仕事の書類じゃないのかい?涎でもついたらどうするつもりなんだ。だいたい、こんなところで寝ちまうくらいに疲れきってるんだったら、さっさとベッドに潜っちまえばよかったじゃないか。……とはいえ、どうせお前さんのことだ、俺が風呂から出てくるまでは起きているつもりだったんだろう。眠気と格闘した結果、見事に机に沈んだお前さんは、全身から疲れが滲み出ている。いっそ痛々しいほどに疲れきったお前さんの体は、こんな硬い机じゃなくて、ふかふかのベッドに沈むべきなんだぜ?全く、手間のかかる奴だな、お前さんは。
 「よ、っと……
 お前さんが起きていれば、恥ずかしいからやめてくれ、なんて暴れそうなもんだがな。お姫様抱っこってのはどうにも気恥ずかしいらしいが、眠っている時にまでは流石に抵抗もできないと見える。まあ、この不安定な体制のままで暴れられでもしたら、大事なお前さんを床に落とし兼ねないからな。起きてくれるなよ、と願いながら頬を緩ませて、俺はそのままベッドまでお前さんを運ぶ。羽のように軽い、とは流石に言えないが、重すぎて運べないということはない。この小さな体にどれだけの責任が圧し掛かっているのかと思えば、まあ、程よい重さ、とでも言うべきだろう。壊れ物を扱うようにベッドにそっと横たわらせて布団をかけてやれば、お前さんの寝息が穏やかに寝室にこだまする。
 「……お疲れさん、プロデューサー」
 体を離してそっと頭を撫でてやる。せめて夢の中ではゆっくりしてくれよ、と頭をぽんぽん軽く叩いて、さて書類の片付けでも、と思った体は急にがくん、と引かれて、俺はバランスを崩しそうになる。
 「っと……
 咄嗟にベッドに手をついてなんとか体制を維持したものの、俺のTシャツの袖はお前さんの手ががっちりと掴んでいる。
 「こら、掴まれたら動けないだろう」
 と言ったところで、ぐっすり眠ったお前さんは俺の声なんて聞いちゃいないだろう。無自覚にこんな可愛らしいことをされると、こちらとしても対処に困っちまうんだがな……。まあ、仕方ないか。多少心は痛むが、後片付けはきっちりしておかないとならないからな。はぁ、とため息をついて、袖を掴むお前さんの手にそっと手を添えて、心の中ですまないな、と謝りながらそれを引き剥がそうとした時。
 「……そばに、いてください」
 なんともいえない切ない痛みが俺の胸を貫いて締め付ける。完全に寝ているはずだから、きっとこれは、お前さんの無意識の願いなんだろうと思えば、余計にだ。もう一度、今度は幾分かの笑いを含んだため息を漏らして、俺は立ち上がることを諦めた。頼まれちまったもんは仕方がない、か。
 「いいぜ……他ならぬお前さんの願い、お断りするわけにもいかないからな」
 すやすやと眠るお前さんの隣に体を横たえて布団に潜れば、すぐに眠気が襲ってくる。心地よい疲労感が包む体から意識がゆっくりと離れて、眠りの中へ落ちていく感覚。明日の朝目を覚ましたお前さんがどんな顔をするのかを考える。朝が楽しみだ、なんてのは何年ぶりだろうな。俺は腕の中にプロデューサーを閉じ込めて、にやついたまま眠りについた。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.