@toasdm
「お兄ちゃん、メロン食べるの?」
小さな男の子が大きな雨彦さんの手元をじっと見つめながらいきなり話しかけてくる。手にしたメロンをエコバッグに詰めながら、雨彦さんは困ったような顔でこっちをみている。会計を済ませた私達は、買ったものをかごからエコバッグに詰め替えながらお互い顔を見合わせて苦笑した。
「ああ、お前さんメロン好きなのかい?」
「うん、毎日食べれたらなあと思う」
「ははは、毎日か。飽きちまうぜ?」
「でもおいしいよ?」
子供の目線からじゃ雨彦さんの顔はよく見えないからかもしれない、いつもより優しい口調で雨彦さんは子供に話しかけながら手を動かしている。向こう側で男の子のお母さんがすみません、と言いながら雨彦さんと同じくエコバッグに詰め替えている。
「ふふふ、今日お姉ちゃんたちね、お天気がいいからお弁当持って、お外で食べようと思ったの」
デザートはメロンだよ、と私はその子の視線に合わせてしゃがみこんで、今日の予定を教えてあげる。
「メロンのお弁当?」
「ん?メロンだけじゃないよ、メロンはデザート、ご飯全部食べられたら、のお楽しみ」
「他は?」
きらきらとした視線を私に向けて、メロンの大好きな男の子はお弁当の中身を聞いてくる。ああ、本当に可愛らしいな、と私はその子の頭を撫でてから答える。
「おにぎりとー、から揚げさんとー、卵焼きも入れようかな?」
「おにぎり!」
ぱぁ、っと顔を輝かせて、男の子はお母さんの方を勢いよく振り返る。お母さんを見ると、その手があったか!というような顔をして、男の子に声をかけて手をつないでスーパーを後にした。ばいばーい、と手を振る男の子に手を振り返して、雨彦さんは目尻を下げて笑って言う。
「子供は自由だな、俺を見ても怖がらないなんてな」
「ふふ、雨彦さんは別に怖くないですよ?」
「そうかい?まあ、あいつは俺よりメロンを見てたんだろうさ」
そろそろいくかい、と差し出した手を取って、私達もその親子に続いて店を出る。午前十時、お日様はまだまだこれからといわんばかりの高さから照らしている。せっかくの天気のいいオフの日だから、お弁当を作ってどこかで食べませんか?と提案してみて正解だった。うきうきとした気分のまま家に帰る道のりはあっという間に感じられるくらいだ。
「お前さんは、今日二組の家族を幸せにしたな」
「え?」
角を曲がれば家が見えるというところになって、雨彦さんはぽつりと呟いた。なんだろう、二組?と首を傾げる私の方を見て、雨彦さんは続けた。
「きっとあの親子も、この青空の下で仲良くおにぎりでも頬張るんじゃないか?」
青空を見上げる雨彦さんに倣って、私も上を向いてみる。吸い込まれそうな青を飾る雲の白、うららかな春の日差しはどこまでも優しい。
「…はい、そうだといいなって、思います」
「それと」
え?と雨彦さんの方を見た私の耳元に、腰を屈めて雨彦さんはそっと唇を寄せてくる。
「俺達も、だな。……お前さんの提案で、今日って日を幸せに過ごせそうだ」
優しい春風が雨彦さんの頬を撫でて後ろへと通り抜けていく。この同じ空の下でこんな休日を過ごす人たちが、どれだけいるだろうか。そんな風に考えるだけで私はふんわりとした幸せを感じて少し涙ぐみそうになる。
「……さて、俺達も幸せになりにいくとするかい?」
「ふふふ、はい。そうですね」
お弁当詰めちゃいましょう、と部屋に戻った私達と一緒に、作りかけのご飯の匂いをかき混ぜるように春風が入ってくる。穏やかな午後を約束された大きなお弁当箱に、私はカットしたメロンを詰め込みながら、スーパーで声をかけてきたメロン好きのあの子のことを思い出してくすりと笑った。