@fem_prier
※捏造設定、スバルルート
真新しい仕立ての礼装をお人形を着せ替えるように着せられて、なかば強引に連れられたのは、ヴァンパイアの王と名高いとある親類の死を祝う祝祭だった。
だれもかれも、故人を偲ぶわけでもなく血のように赤い――あるいは本当に人間の血液だったのかもしれない――ワインを傾けていた。父親に連れられ出席したその会の様相は、当時のわたしには理解できるものでは到底なくそれを訴えれば、父親はなにかの呪いでも唱えるかのように「お前にもいつか分かる時が来る」と繰り返すのだ。ヴァンパイアの身でありながら生まれつき身体の弱かったわたしは屋敷の中で囲われるかのように、幾重にもベールを被せられた宝物のようにしまわれていたけれど、こと、ヴァンパイアの死の観念については父親はそう何度も繰り返すだけなのだ。
わたしは、それが恐ろしくてならなかった。
わたしの求めること、もの。そのすべてを叶えてくれる優しい父親が唯一譲らなかったそれは、まさしくわたしの未来を予見しているかのようで恐ろしかったのだ。わたしもいつしか、誰の死にも――父親の死ですら、笑って祝祭なのだと受け入れるのだろうか。それは悪夢のような未来予想だった。
「クリスタ、来なさい。彼が、新しい御当主のカールハインツ様だ。ご挨拶しなさい」
「……カールハインツ、様」
名前だけは聞いたことのある響きだった。
そう漠然とした感想を抱いた後で、愚かな己の思考を恥じた。カールハインツ。この夜会で、皆が会話の間に滑り込ませるようにしてその名を囁いていた人の名だ。長きに渡り、一族の長であった人の長男に当たり、そして、実の父親を殺した人の名前だ。
「君が、クリスタか」
「は……はい、カールハインツ様」
恐ろしいルビーの瞳がこちらを見つめていた。血のように赤い瞳に、長くどこまでも広がるような白銀に輝く髪。
「……私と、同じ色だ。クリスタ」
彼の人の手が、わたしの髪を掬い上げ高い位置からこぼれるように滑り落とした。その時、彼の人の白銀の髪と混ざり合い不可思議なほどにどちらのそれなのか、判別が出来ないその色。こちらを見つめる、ルビーの瞳も、いつしか己の瞳ではないのかと錯覚するほどだった。
この胸で暴れるものに蓋をするかのように、銀のナイフが突き刺さる。
狂気の汚水の中にあって、希望を見出すかのようにこの薄い胸に突き立て続けなおこの命を奪わなかった銀のナイフを、まるでなにかの冗談のように身体が受け入れているようだった。
「スバル……」
星を総べるその名を、喘ぐように唱える。
「わたくしは、あの人に、許されたの……?」
私の許可なしに死ぬなと、彼の人はわたしに告げた。それならば、今この死を、祝祭への道を歩みだそうとしているわたしは彼の人にようやく死を賜ることが出来たのだろうか。
彼の人と同じ色の髪が血に濡れて、それは彼の人に瞳の色と同じだった。この身はどうあっても彼の人に支配されているのだと、彼の人にこの身を見初められてより呪いのように感じながらも思い続けたことを結局今わの際になってもなお思い続けるわたしはなんて、彼の人により生かされていたのだろうかと思い、いつもか悲鳴や嗚咽しか漏れない喉が久方ぶりに震えだす。
「おふくろ……どうして、そんなに嬉しそうにするんだ? おふくろの人生は、もっと」
「スバル……あなたもいつか分かるでしょう」
二の句を聞く暇も与えられないことが分かり素早く、どうしてか漏れ出た言葉を告げる。
意識が海底のように深く、宇宙のように軽やかにも思えるけれど淵がいつまでもやって来ないような空間に放り出される直前、やはりスバルは「分からない」と恐れるように呟いていた。
――わたしには、わたくしにはカールハインツ様のお考えが分かりません。
――いいんだクリスタ。君にもいつか分かる時が来る。この種に生まれた、その意味が。