@toasdm
クリスさんは生真面目だ。丁寧で、知的好奇心が強くて、探究心もある。一度自分で決めた事は決して曲げない頑固さもあるけれど、相手に合わせて柔軟に対応する優しさもある。だから、こうやってよく作戦会議を開くことは別に珍しくはないことだ。研究熱心なクリスさんのお仕事の役に立てるなら、私は何時まででも付き合うつもりでいる。
「なるほど、次のインタビュー記事のお話ですね?」
「はい……すみません、こういったことには不慣れでして」
またあなたにご迷惑を、と申し訳なさそうにするクリスさんの言葉を遮って、私は気にしないでと笑って言う。
「いいんですよ、私でお役に立てるなら、ね?」
「…ふふ、ではお言葉に甘えて、よろしいでしょうか?」
クリスさんの次のお仕事は、理想の生活についての雑誌インタビュー。ライフスタイルについてトータルで記事にするというよりも、クリスさんに与えられた役割はずばり、結婚生活についてだ。
「クリスさんは理想のお嫁さんとかって、なんかこう、ありますか?理想像みたいなもの」
「そうですね……海が好きなので、海の近くで一緒に住んでくれたり、一緒に海に出かけたり、ああ、家でゆっくりとお話ができるような女性だと、気が楽かもしれません」
「なるほど…じゃあ、価値観の合う女性、ってところでしょうか?」
「価値観…ええ、まさに、あなたのおっしゃるとおりです!」
すごいですね、尊敬しますよ!と興奮したままクリスさんは私の両手を包み込むように握る。
「私のあの、まとまりのない言葉からこんなにすっきりと、一言で表現できる言葉を見つけ出してくださるのですから、あなたは本当に素晴らしいと思います!尊敬しますよ」
「そ、そんなたいそうなことはしてませんよ…!?」
「いいえ!…価値観の合う女性、と答えてから、具体的な例を先ほどのように挙げればよろしいでしょうか?」
「はい、そうだと思います」
なるほど、と何度も頷きながらクリスさんは手帳に書き込んでいく。この調子なら、午後からのインタビューも無事切り抜けられそうだ、と私はほっと胸をなでおろした。
インタビュアーさんと待ち合わせをしたインテリアショップに併設されたカフェに入ると、既にカメラと照明がセッティングされていて、隣のクリスさんは一瞬息をのんだ。
「やはり、まだああやってカメラを構えられると、少々足がすくんでしまいそうになりますね」
自嘲気味にそういったクリスさんの横顔は、最近少し引き締まっているように見えることがある。場数を踏んで慣れてきたせいもあるとは思うけれども、随分とらしくなってきた。誇らしいような気持ちを抱えた私に手を振って、クリスさんはインタビューのお仕事を始めた。
記者さんに理想の結婚生活について尋ねられたクリスさんが、一瞬ちらりとこちらを見る。優しい眼差しが、私に感謝を述べている。ありがとうございます、あなたのおかげです、と言っているようなその瞳を正面の記者さんに向けてから、クリスさんははきはきと答え始めた。
「そうですね、やはり、価値観の合う女性が共に暮らしてくれる、というのが一番の理想です。私は海が好きですので、やはり同じく海が好きな――…」
この調子なら本当に大丈夫そう、と見守る私にもう一度、クリスさんはにこりと微笑んでから、さらにお仕事を続けている。
「…あと、理知的な女性が好きだ、と最近気がついたんですよ」
え……?
作戦会議の時には聞かなかったクリスさんの言葉に、私は一瞬耳を疑った。…でも、きっとクリスさんなら大丈夫だ…少し高鳴る胸を押さえて私は聞き耳を立てる。
「私の、とりとめもないような、まとまりのない話をまとめてくださったり」
ちょっと待ってほしい。ドキリと跳ねた胸、私はついさっきまで開いていた作戦会議の内容を思い出して顔が熱くなるのを感じた。
「そういった、尊敬できるような女性がいつもそばにいてくださると、嬉しいですね」
今、見間違いじゃなかったら。クリスさんは私の方を、見て、言っていなかっただろうか?ドキドキがいっそうるさいほどに私の中で暴れている。滞りなく進む仕事、もう少し時間をかけてほしいと願わずにはいられなかった。
……せめて、この胸のドキドキが、おさまるまでは。