@toasdm
雨彦さんやクリスさんだったら、これに頭上の心配もしなくちゃなのかー、と思いながらも僕は、満員電車の具材の一部になってぎゅうぎゅうと押しつぶされている。うんざりしか詰め込んでいない満員電車は駅で具材をはみ出させてまた、新しい具材を詰め込んで、朝のラッシュを代謝させていく。ガクン、と揺れて止まって開いて、どっと流れて詰め込んで。人の流れの隙間の奥に、通学途中の僕は見慣れた顔を見つけてはっとする。…あんな小さい体で、大丈夫かな?気がつけば僕は人をかき分けて、通勤姿のプロデューサーさんのそばに向かって移動していた。サラリーマンさん、お疲れ様です。学生さん、今日も頑張ろうね。流れのない流れに乗って、やっと近付いた僕の手が、プロデューサーさんの肩をちょん、とつつける距離にくる。
「おはようございますー」
「おは――そ、想楽さん?!」
朝の顔はまだ少し眠たそうで、僕はなんとなく、いいもの見ちゃった気分になる。にまにましちゃう顔におはようを貼り付けて、僕はなんとかプロデューサーさんの背中に張り付く。電車は動き出す。
「ぎゅうぎゅうだねー」
押しつぶされて密着する体はやっぱり小さくて、バッグを持ち直して小声で挨拶しながら困ったような顔でこっちを見上げるプロデューサーさんと僕は、違う目的地を目指した同じ電車での偶然の出会いにくすくす笑った。確かこの先、少しきつめのカーブがあったはずだけど…プロデューサーさん、大丈夫かな?ドアと僕との隙間で、プロデューサーさんも同じことを思い出したみたいで、揺れと傾きに備えて足を開いて臨戦態勢を取る。
「危ないから、よかったら掴まっててねー」
肩にかけたトートバッグに添えていた手でプロデューサーさんの腕を軽く掴んで僕の腕に誘導する。少し速度を落とした電車がそこそこきつめに傾いたのと同時に、プロデューサーさんが僕の腕にしがみつくみたいにしてバランスをとっている。
「わ、すみま、せ……」
うーん。正直、役得ー。ずっとカーブでもいいんだけどなー、と思ってしまうようなくっつき具合に、満員電車の中で一人だけ、僕は幸せを噛みしめる。腕にさー、当たってるんだよねー。ほんとこういうの、なんていうか。役得。車両いっぱいの朝の圧力に押されて潰されてるっていうのに、げんなりどころか元気になりそう。あえて何がとは言わないけどね。僕の腕にしがみつくプロデューサーさんはさらに小さくなってて、なんとなく、可愛い。
「プロデューサーさんってさー、小さいよねー…」
「な……っ?!」
……あれ、その反応もしかして、なんか勘違いしてない?そういう意味じゃないんだけど。そっちはなかなか、手頃なサイズだと思うよ。顔真っ赤だし、俯いてるし、慌てて腕から離れようとしてるし。離れる場所もないから意味ないみたいだけど。むくむくと大きくなる僕の悪戯心が、そんなプロデューサーさんをドアの方へと押し付けて抱きしめさせる。うわ、なんか、いい匂いとかする。少しドキドキするけど、きっと僕なんかよりもプロデューサーさんの方が、うんとドキドキしてるんだよね。…そうだといいなぁ。電車の揺れと人に押されたせいにして、僕はプロデューサーさんを抱きしめて、守るみたいに包んで小声で囁いた。
「降りる駅まで、このままでもいいー?」
うぁ、と今度こそ恥ずかしさで耳まで真っ赤にしたプロデューサーさんは、おとなしくなってるところをみると多分、別にこのままでもいい、って事なんだと思う。そっかー、と呟いて僕は腕に閉じ込めたプロデューサーさんの後頭部に手を添えて、僕の胸に引き寄せる。
「潰しちゃわないようにするから、守らせてねー」
背中にかかる圧力を肘で受け止めて突っ張って、プロデューサーさんの匂いにドキドキしたまま僕はぼんやりと考える。
降りる駅なんて、こなかったらいいのに。
僕のそんなわがままと、固まったまま動けないプロデューサーさんと、その他大勢を乗せたまま、満員電車は決められた通りに走っていく。朝のラッキーが終わるまで、多分、あと三分くらいだ。三分くらいなら、耐えられそうだなー。このドキドキと、圧力に、三分くらいなら。電車は間もなく、また少しきつめのカーブに差し掛かるところだ。