文アル版深夜の執筆60分一本勝負 「カナリア」「林檎の花」「べっこう飴」で
カナリヤ表記なのは歌のタイトルの方に合わせました
秋声中心うちのいつもの図書館
ちょっと台詞だけで司書や施設責任者が出て来ます
@akirenge
【五月前のこと】
帝國図書館分館の廊下にて、不気味な唄が徳田秋声の耳に聞こえた。
「こ、これ……」
「カナリヤ、の唄、では……」
「あの子、呪いでも撒いているのかな」
秋声の隣には川端康成がいる。先日、川端とは和菓子屋に共に行ったときに柏餅事件に遭遇した仲だ。どんな事件かというと、秋声の師である
尾崎紅葉が、柏餅を大量に食べたいと和菓子屋に予約を入れていた事件であるが予約数が五十個を超えていた。
粒あんとこしあんが半分ずつだ。それにしては食べ過ぎだろうとなるかも知れないが、皆に配るつもりであった、五分の四ぐらいはと言っていたのだが、
最低でも十個は食べるつもりであったのだ。
あの子とはこの場合は帝國図書館分館の管理者である少女のことだ。
「「うーたをわーすれた」」
「新美さんと宮沢さんですか」
「明るい声だ」
リピートなのか一番目から四番目まで歌っているカナリヤ、の唄を打ち消すように聞こえてきたのは新美南吉と宮沢賢治の歌声であった。
二人とは廊下で会う。
「徳田さんと川端さんだ」
「二人とも、錬金研究の方は」
「今は休んでいるよ。効率悪すぎるって司書さんがぼやいてた」
現在の帝國図書館全体の状況はと言うと、まず、館長が一週間ほど旅行に出かけた。限界が来て俺は旅に出るとのことだ。
限界が来すぎて折れるよりは良いだろうと旅行関係については各々肯定的だ。なぜならば館長が駄目になってしまえば帝國図書館及び、
謎の敵である侵蝕者との戦いに支障が出てしまう。
錬金研究についてはアカとアオがやっている研究のことだ。フラスコを集めて錬金するというものだが、
彼等を転生させたアルケミストである特務司書の少女は錬金研究を嫌っていた。
話していると唄がいつのまにか止んでいた。
「……止まってるね。歌。カナリヤの歌ってあんなに暗い歌だったかな」
「わざと曲調を変えている可能性もあります。徳田先生」
「カナリアと言うとゆりかごの歌でも使われているよね」
暗くなるようにわざと歌っていたようだ。カナリアの歌は、大正時代の歌であり、歌を忘れたカナリアに歌を想い出させるための童謡だ。
「北原さんの歌だね。どっちもカナリアだ」
「さっきの歌のカナリアは西條八十さんの作詞なんだよ。北原さんと同じぐらいに大正時代を代表する童謡詩人なんだ」
ゆりかごの歌は北原白秋が作詞した歌だ。どれもこれも有名な歌である。賢治も童話作家の面を持っているためか、詳しかった。
秋声も因みに生前は子供向けの童話を書いたりしたことはあったが、どちらかというと苦手である。
『分館に居る文豪達。これからおやつの時間で白衣を着た尾崎紅葉がべっこう飴を作ろうとしているから作りたいヒトは……』
話し込んでいると分館の主の声が響いた。おやつの時間と言われている。帝國図書館分館はおやつがしっかりと出る場所だ。
「師匠……白衣をノリで着ていたからなぁ……心配だ……行こう」
「一緒に」
「べっこう飴か」
「僕達も行こうよ。南吉」
秋声達は指定された部屋に向かう。分館はたまに構造が変わるときがあるが今回はすんなりいくことができた。
部屋に入れば白衣姿の紅葉が待っていた。
「待っておったぞ!!」
「師匠……」
「……非常に活力に満ちています……青々とした若葉のようです」
案内された部屋はキッチンだった。あることにはあるのだ。本格的な料理をしたいとかで、設置されている。特務司書の少女が言うには
学校の調理室みたいなものだと秋声は聞いたことがあるがそもそも秋声は学校の調理室なんて見たことがない。
「紅葉さん、べっこう飴を作るんだよね」
「ボク達も食べたいな」
「うむ。これならば我でも出来る。露伴と鏡花はおやつ係でおやつを買いに出かけてな」
「それなら、待っていれば良いじゃないですか。買ってくるまで」
おやつ係はある意味で帝國図書館分館にとっては重要な係である。文豪達が食べるおやつを買ってくるのだ。
係は気まぐれに決められ今日は泉鏡花と幸田露伴のようだった。
「先ほど行ったばかりだ。帰ってくるまでは時間があるだろう!」
「べっこう飴を作ろう。レシピは……」
「……簡単です。砂糖を暖めて型に入れて冷やすだけ。カルメ焼きと同レベルとこのレシピには書いてあります」
紅葉が堂々と言いすぎている。秋声は黙るしかなかった。テーブルの上には機械の文字でレシピが置かれていて川端が読んでいた。
レシピは本当に簡単すぎであり、川端が言ったやり方で出来るが、作業台の上には各種果物も置いてある。
「イチゴ飴も出来るのだ。リンゴ飴もな」
「つけて固めるだけ……チョコレートの奴と一緒……みたいだ」
「非常に簡単ですね」
秋声も料理をする。チョコレートの簡単なお菓子を作るのに似ていた。
「わあい。リンゴ飴だ。僕は林檎が大好きなんだ」
「用意してあるぞ」
紅葉が林檎を指さしているがとても大きい林檎だ。秋声は落ち着いて砂糖の量を計算する。僕がしっかりしないとという気持ちが溢れていた。
「……林檎と言えば……林檎の花が……咲いていましたね」
「川端さん、何処で見たの?」
「帝國図書館の敷地の、いつの間にか出来ていた果樹園に……」
いつのまにかと着いているが、敷地内はかなり好き勝手になっているところもある。林檎の花は春に咲く。真っ白な花だ。
賢治が聞くと川端が思い出すようにして言う。
「ならば、べっこう飴を作って林檎の花で花見でもするか」
「一緒に見よう。賢ちゃん」
「うん。南吉」
紅葉が話を進める。これからの予定は決定した。べっこう飴を作り、それをもって林檎の花の花見だ。
「……まずはきちんと作らないと」
「手伝います。徳田先生」
「やれやれ。でも、カナリヤの歌の気分は吹き飛んだかな」
べっこう飴作りでこれ以上振り回されることになるかも知れないが、明るいのは良いことだ。川端も手伝いを申し出てくれている。
秋声は確実に成功させるためにべっこう飴作りの準備を始めた。
【Fin】