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[雨P♀]雨彦さんってそういう人

全体公開 1997文字
2018-04-30 23:39:49

「一回だけだぜ?」

雨彦さん、ずるいです。ほんとずるい。大好き。

Posted by @toasdm

 何をそんなにむくれてるんだ、と雨彦さんは私の肩を抱き寄せて困ったようにため息をつく。むくれている、というか、怒っている、というか、納得がいかない、というか。そんな、一つの言葉で表すことが難しい気持ちを抱えたまま、何から説明したらいいのかと私は私の気持ちを持て余している。
 「俺のせいなんだろう?」
 「雨彦さんのせいでは、ないあ、いやでも、うーん……?」
 お前さん不器用だなあ、と笑って肩をぽんぽんと叩く雨彦さんは、私のもやもやをわかってくれてはいるようだ。うまく言葉にできない私に苛立ったりはしていないけれども、釈然とはしないんだろう。参ったな、と頭をがしがしとかく雨彦さんが、雨彦さんだけが悪いわけでは、決してない。さりとて、事情を説明しようとすれば、それはとんでもなく長く、恥ずかしくなってしまうのは目に見えている。困っているのは雨彦さんだけじゃない、むしろ、私の方こそ困っているのかもしれない。話してみろよ、と優しい声が耳元でする。いつまでも、お前さんが納得するまで付き合うさ、の言葉を信じて縋って、私は覚悟を決めてぽつりぽつりと、話し始めた。
 「雨彦さん、私のこと好きですか?」
 「ん?当然じゃないか。俺はお前さんの全部が好きだぜ?」
 うん、知ってた。わかってた。雨彦さんはこういう人だ。こっちが決死の覚悟で聞いても、それをさも当然かのように、さらっと、こんな風に言ってのける人だ。だから好きなんだけどだから、困ってるんだよね。はあ、とため息をつく私に、雨彦さんは訝しげに聞き返してくる。
 「俺は浮気はしてないぜ?そんな風に誤解されるようなこともしてないつもりだが、不手際があったなら謝罪しよう」
 「あ、いえその雨彦さんを、疑ってるわけじゃ、なくて
 だったらなんなんだい、と相変わらずの優しい声は、でも、私が今一番欲しい言葉はくれない事を、私は知っている。優しいのに、ずるい。優しくてずるい、優しいから、ずるい。雨彦さんはそういう人だ。ふぅ、と漏らした吐息に混ざった気持ちを手にとって、雨彦さんは私の肩を抱き寄せたまま、言ってもらわないとわからないぜ、と私を甘く絡め取る。どうせ、こうなることは目に見えていたんだから。すっかり観念した私は、雨彦さんの顔を見上げて、その一番のもやもやの原因を聞いてみる。
 「じゃあ、私のこと、愛してますか?」
 一瞬、驚いたように目を見開いて、雨彦さんは息をのむ。それからすぐに目を伏せてにやけながら息を吐いて、なんだ、そんなことか、と腕の中に私を閉じ込めた。耳元で、甘くて低くて優しくて、大好きな雨彦さんの声がする。
 「なんだ、そんなことか……?」
 「だって雨彦さん、好きとは言ってくれるけど、あ、愛してる、って、言わない
 恥ずかしさでいっそ消えてしまいたくなる私をぎゅっ、と抱いたまま、雨彦さんはいくらかの笑いを含んだ声で囁いた。
 「言ってほしいのかい?」
 「お願いしてから言ってもらっても、なんか、それは違うっていうか
 そう、私のもやもやの原因はまさにそれだ。雨彦さんはこういう人だから、言ってほしいとお願いすれば、すぐに私のほしい言葉をさらりと照れずに言ってくれる。でもそれは、雨彦さんが言いたくて言った言葉ではない。私がほしいのは、それじゃない。雨彦さんが言いたくて言いたくて仕方なくなって、その上で私に向けられる言葉が、私のほしい言葉なんだから。不貞腐れた私を見て雨彦さんはまた笑って、今度は私の頭をくしゃりと撫でる。
 「まったく、お前さんときたらしょうがないな」
 抱き寄せられた腕の中、ぐるりとまわされた私の体は天井を向かされて、目の前にはニヤニヤと私を見下ろす雨彦さんの顔がある。どきり、と跳ねた鼓動、上手に息もできなくなるほど高鳴る胸を押さえた私を見つめる雨彦さんは、すっ、と波が引いたように笑みを引っ込めて、いつの間にか真剣な表情になっていた。
 「一回だけだぜ?」
 見下ろした顔は、いつもの飄々とした雨彦さんじゃないみたいに本当に真摯で真剣で、吐息のかかるほどに近付いた唇が、たった5音を紡ぐまでには随分と時間かかったように感じた。

 「……愛してる」

 すぐに重ねられた唇、熱を移されて私は胸が苦しくなった。こんなに深い愛があるなら、どうして言ってくれないんだろうか。もっと、雨彦さんのそんな愛がほしい、私はそんな雨彦さんの愛を感じて生きていきたい――。顔を離した雨彦さんは、そんな私の気持ちを初めから見透かしていたかのように不敵に笑ってこう言った。
 「俺は、ここぞという時にしか言わないと決めてるのさ」
 有り難みがなくなっちまうだろう?と意地悪く笑うその声は、どこまでもどこまでも、どこまでも優しかった。……雨彦さんは。私の愛している人は、そういう人だ。


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