Mマス英題企画参加作品。
Say it again,please.
もう一度言ってください
「言、言ってほしいとか、あんのかよ…」
あまとうが!
あいしてるとか!
言うだけの!!!
@toasdm
彼が照れ屋なのは今に始まったことじゃない。そこも魅力だし、そこが魅力だし、それ以外にもたくさん魅力はあると思う。例えばぶっきらぼうな物言いの端々に現れる、わかりにくい優しさとか、それに気付いて拾い上げて見せてあげた時に思いっきり照れて、隠しきれない照れ隠しで必死になってるところとか、挙げていったらキリがない。今も多分、その隠しきれない照れ隠しが、私に向けられているんだと思う。珍しく被ってきた中折れ帽子が似合う、と褒めただけなのに、お、おう、と言ったきり、黙り込んで目も合わせてくれないんだから。
「ねえ冬馬君…かっこいいね」
「う、うるせーよ…」
まんざらじゃない、と横顔が言っている。愛おしくて愛おしくてしょうがなくなる。大好き、と思わず抱きついた私を振り払いもせずそのままでいてくれる冬馬君。事務所のソファで二人きり、甘い時間を過ごしていると、今ここでこうしていられる幸せを構成する全てに感謝したくなる。抱きついたまま見上げて、私はその思いを素直に口にした。
「大好きだよ」
「な……」
「……ふふ、冬馬君は言ってくれないよね」
照れ屋な彼にそれを望むのは高望みだし、酷だと思う。こうしていられるだけで幸せ、と思う気持ちに嘘や誇張は一切ないから、別に言ってくれなくても私は満足だ。今日はもう誰も事務所には戻ってこないこの遅い時間、はぁ、と幸せなため息を漏らした私の肩に腕を回して、今日は少しだけ、冬馬君も大胆な気がする。普段なら、絶対そんなことはしてこないのに。
「言、言ってほしいとか、あんのかよ…」
「え?」
「好き、だって……」
既に真っ赤になってる顔があまりにも可愛らしくて、うひゃ、と変な声が出る。なんだよその声、と笑いながら唇を舐めて咳払いをして、冬馬君がちらっと私の顔を見る。
「どうなんだよ」
「え、ええと……」
正直に言えば、言ってほしい。滅茶苦茶言ってほしい、聞きたい、際限なく脳内でエンドレスリピートしまくりたい。そのワンフレーズで私がどれだけ幸せになるか、私自身も想像がつかない。でも…耐え切れるかどうかも、正直わからない。少し困って、どうしようか、と冬馬君に返事を任せてみたけれど、あんたがどうかって聞いてんだよ、と笑われてしまった。
「あんまり、聞かないから…わかんない」
「なんだよそれ…」
さらに笑った冬馬君が、ったく、しょーがねーな、と私の頭をくしゃりと撫でる。もう一度で既払いをしてから、一瞬きりっとした表情で私の顔をじっと見て、冬馬君が口を開いた。
「一回だけだからな」
目を伏せて、私の両肩をしっかり掴んで手を置いて、深呼吸をして冬馬君が言った。
「……あっ、愛してる」
ちょっと待ってほしい、想像してたのと若干違う、違うっていうか上位互換だこれ、好きと大好きの上位互換だ!冬馬君よりももしかしたら私の方が今赤くなってるんじゃないだろうか!?慌てた私の口が、現実を受け止め切れなくて思わず滑る。
「ごめん、もう一回聞いていい?」
聞き間違いじゃねぇって!と叫ぶように体を離してそっぽを向いた冬馬君が、帽子を脱いで私の顔にぐいっと押し付ける。真っ暗でなんにも見えない。
「一回しか言わねーって、俺言っただろ?!」
「何を、何を一回しか言わないの!?」
「愛してるなんてそう何回も言えるかっての!」
「もう一回言ったーーー!!!」
帽子を外して叫んだ私の手から帽子を奪い返した冬馬君が、今度は自分の顔を覆うようにして埋めて言った。
「見んな!恥ずかしいだろ!」
怒っているわけではないことは、耳と手とが示している。帽子で隠しきれていない真っ赤になった耳はずっと私の言葉を待っているみたいだし、手はずっと、私の手を握ったまま。にまにましてしまう口から、私はもう一度言葉を滑らせた。
「……私も、愛してるよ?」
「反則、だぜ……ったく!」
帽子をパッと外して今度は、ぐいっと顔を近づけてそのまま、私の顔を隠すみたいにしてから。誰も見てないのに冬馬君は、帽子の影で私にそっとキスをした。……どこまでも、どこまでも照れ屋な彼の口からまたこの言葉が聴けるのは、いつだろうか。
――いつでもいい、ずっと待ってる。帽子はなかなか、離れてくれなかった。