文アル版深夜の執筆60分一本勝負でお題は藤、万年筆、リボンで
これから来る彼に贈り物をしようとする逍遥と彼に付き添う四迷の話
うちの特務司書が出ています
@akirenge
皐月の日に
館長が旅に出たまま帰ってこない気がしないでもないと特務司書の少女が言ったのを二葉亭四迷は聞いた。
帝國図書館分館、浄化専門であるこの図書館は今日も今日とて仕事をしている。
彼女は未来に思いをはせていた。
「館長がお休みを終えたら、あたしも研究をやってからお休みを取るの」
「……исследования、今もしているのでは」
「そっちじゃなくて」
特務司書は茶色い髪を背中辺りまで伸ばし緑色の瞳をした外見、十代前半の彼女は四迷の呟いたロシア語を研究と判断してから、
首を横に振って、次の研究について告げた。
今の研究はアカとアオの錬金術の研究を手伝っているものだが、これが終われば次の研究に入るという。
その内容は、
「四迷君」
「逍遥さん」
「どうしたのかな。ぼんやりとしていて、寝不足なのかい?」
四迷を見上げてきたのは、坪内逍遥だった。四迷は特務司書の少女に言われた実験について考えていたのだ。
「……逍遥さんは次の研究について聞いていますか」
「いいや。まだだが」
首を横に振る。研究と言っても基本、文豪達は実働だ。有碍書や有魂書に潜書をして、戦ったり、新しい文豪を探したりするものだ。
「次の研究は先行転生だそうです。小川未明を転生させると。逍遥さんが……」
「ああ、私が彼に名を与えたんだ。そうか……嬉しいね……」
聞いた研究内容について話せば逍遥は目を見開いて嬉しそうに微笑み、小川未明に思いをはせていた。
小川未明、日本のアンデルセンと呼ばれた童話作家だ。日本児童文学の父とも呼ばれている。
「司書は絶対に転生させると言っていました」
「そうか。それなら、四迷君、少し、付き合ってくれるかな。先に彼に贈り物を買いたいんだ」
「贈り物……」
「勿論、四迷君にも買うよ」
今日の有碍書の潜書当番は四迷も逍遥も終わっている。外出関連については分館の誰かに言っておき、そして門にいる守衛にも解るように
して言えば、外出は自由だ。
あの司書は自分を転生させたように小川未明も洋墨と金の栞と文豪とアルケミストパワーで転生させるだろう。
「俺にも、ですか」
「勿論だとも」
柔らかな日の光のように逍遥が閉じた扇を片手に四迷に微笑みかける。四迷はダー、と頷く。
帝國図書館分館を出て、門までまずは向かうことにした。
歩いている途中で藤の花を見かける。藤の花も先頃だ。薄紫色の花が、あるところではひっそりと、あるところでは艶やかに咲いている。
「季節は過ぎてゆくね。四迷君や八雲君と花見をしたのは先日かと想っていたのに」
「藤の花見も、悪くはないでしょう」
「そうだね。錬金研究が終わったら、とは司書は言っていた気がしないでもないが……」
区切りがしたいと話していた気がしないでもないが、また研究が入っている。それでも、
「無理矢理やるでしょう。片手間に」
「それは片手間にしない方が良いのだが、未明君が来た記念という風に進言してみようか」
予定は変更されるものではあるのだけれども、藤の花見をやってすぐに転生の研究では、楽しいものも楽しみづらい。
逍遥の案に四迷は賛成であった。
「贈り物はどんなものを」
「万年筆が良いと想うんだ。良い店を知っていてね。そこで買おう。四迷君の分も、買うからね」
万年筆も様々なものがある。万年筆は値段は張るものは張るが、良いものは良い。守衛に挨拶をして店に行く旨を伝える。
何度も何度も逍遥は四迷の分もあると言うが、
(……俺も何か、逍遥さんに贈り物を……)
プレゼントを贈るというならば、四迷としても贈り返さないとならない。どんなプレゼントを贈るべきか、
そこに皐月の風が吹く。
四迷の被る帽子を揺らし、逍遥の縛られた髪を揺らした。
「強めのウィンディだね」
髪の毛を抑えている逍遥は、風を愛おしむように空を見上げた。その様子が、とても眩しい。
「紐……リボン……? がいいか……」
「向かおうか。私が万年筆を選ぶのは時間がかかりそうだからね」
「時間がかかっても、今日は時間がありますから」
ゆったりと歩く逍遥に四迷は着いていく。四迷は逍遥には聞こえないように彼に贈るプレゼントを決めた。
今日買えなくても、近いうちにまた買えば良い。
買うことは決定しているのだ。
逍遥の隣でこれから贈る贈り物を、これから贈られる贈り物を、四迷は、楽しみにした。
【Fin】