X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

血の契約

全体公開 NCT 5 4338文字
2018-05-08 03:51:29

殺人鬼ドヨンシリーズ第4章、ジョンウ視点です。リプのほうからお読みください。

名前変換

ジョンウ視点

母は生前、よく酒を飲んでいた。溺れるほどではない。賢く理性的な母は、僕のために常に自分を律していた。特に最初の夫である父が白血病で死んでからは

母にとって、亡き両親から継いだ資産や会社は重荷だった。女性で、こぶつき。重役たちは馬鹿にして、好き放題やった。例外が父だ。彼は祖父の忠実な秘書で、非常に優秀なやり手で、何より母を愛していた。母は父を会社のトップに据え、自分は補佐に回った
父が死ぬと再び母は四面楚歌になった。仕方なく選んだ男は優秀だったがどうしようもない女好きで、浪費家で、ろくでなしで、僕のことを疎んでいた。母は僕を守るために婚前契約を交わし、僕には誰のことも信じずどんな手を使ってでも生き延びろと教えた。だが彼女は僕には荷が重いと感じたのか、成人までは猶予を与えようと遺言を書き換えた。そのせいで殺された


「いい加減にしろ。お前の母親は酒に溺れて溺死したんだ。私だって助けたかったが、疲れて寝ていたのだから仕方ないだろう」
僕は今の自分では義父を罰することが出来ないと痛感した。証拠はない。味方もいない。僕はまだ子供で、力もない。それなら、力を得なくては


それまで憎み顔を背けて来た義父と向き合った。注意深く観察し、癖や好みを分析した。それと同時に、精巧な“仮面”を作り上げた。義父を疑ったことを反省し、たった一人の家族となった彼を慕い、金のことなど何もわからず全て丸投げの、馬鹿な相続人を演じきった。そして機会をうかがった
本当は殺されてもいいと思った。遺言を作らせたのは、ただ殺してやるよりも全てを奪ってやった方が面白いと思ったからだ。義父を嫌ってやめてしまった弁護士は父の親友だったので、彼に遺言と共に義父のまずい証拠を全て預けておいた。僕が誰かに殺されたとしたら、それは義父が犯人だとその弁護士に伝えておいた。義父は無駄に手を血に染めたことになる
だが、そんな僕の計画を全てふっ飛ばしかねない出来事があった


「あの遅くなってごめんなさい」
「最初のラテに失敗しちゃって、飲んでみたら泥みたいな味で、どうしようもないからマスターに入れ直してもらったんです」


申し訳なさそうに言うその様子があまりにも可愛くて、一目惚れだった。その瞬間、僕は計画を変更した
弁護士には封筒を廃棄させ、遺言を書いたことを義父に報告した。義父は僕を殺せなくなり、逆に僕を懐柔し始めた。それを逆手に取り、僕はあらゆる手を使って義父の欲を刺激した
不釣り合いなほど高価な家具に、滑稽なほど高級な車、見るものを不快にさえさせるブランド物の服や靴を買うよう仕向けた。単純な男だ、操るのはたやすい。そして僕は義父にあるURLを教えた
「母さんに連れていかれたパーティで貰ったんだ。でも知っての通りゲイの僕には必要ないから」
父が野卑な笑みを浮かべたのを見て、僕も思わず微笑んだ


あの写真を送れば、警察は強盗殺人犯を逮捕出来る。僕にとっては恩人でも、罪のない人を殺しているのだからちゃんと死刑になるべきだ。どうせそいつが捕まれば、警察も僕を海外へまで追ってはこないだろう
そうだ、カナダへ行こう。マークの故郷のバンクーバーへ。マークが懐かしそうに両親との思い出を語っていた、あの地へ
マークはきっとついて来ない。彼にとって兄と姉は何ものにも代えがたく大切な存在で、僕のために彼らを離れてくれるはずがないのだから。でも賭けてみよう。彼がいれば、いやいなくても、彼と出会えたという事実があるだけで、僕はほんの少し幸せになれるはずだ



ふと目を覚ますと、暗い自室で僕は椅子に座っていた。真っ暗で何も見えない。時計を見ようと手を動かして、僕は両手を手錠で椅子に拘束されていることに気付いた
「目が覚めた?」
声がして、パチッとスタンドライトがつけられた。薄暗い中目を凝らすと、そこにいたのはドヨンさんだ
……警官ってのは嘘か」
「まさか、本当に警官だよ。バッジ見る?」
「警官なら容疑者を注射で気絶させたりしないし、自宅で尋問もしない」
「あぁそうか、それもそうだ。正確に言うよ。普段の俺は警官だけど、今の俺は違う」
そう言って彼は鋭く光るナイフを取り出し、近付いた。僕の頬をナイフの背で撫でる
「おかげさまで無事強盗殺人犯は逮捕されたよ。だけど実はあの写真は使ってないんだ」
どうして」
「君のおかげで犯人はわかった。だから同僚を誘導してみたんだ。ジョンウは賢いようだから難しい言い方をすると、あの写真から帰納的に推理して犯人をプロファイリングしてみた。それに警察が得た情報屋ハッキングの位置情報を追加して、演繹的に犯人の元へ誘導した。推理の往復だから、じれったくて骨が折れたよ」
さすがの僕も冷や汗が出た。わけがわからない。マーク、君がヒョンと慕う男は一体何者なんだ
……僕を殺すんですか。マークに近付かせないために」
「まさか。そんなことをして傷付くのはマークだ。それにさすがの俺も疑われるよ、せっかく名前 が俺への疑惑を逸らしてくれたのに」
ドヨンさんは僕の背後に回り込み、僕を抱き締めるように腕を回してナイフを首に当てた。耳元で囁く
「52人」
ッ何が」
「俺が殺した人数だよ。証拠を見せてやる」
彼はナイフを持ったままデスクに手を伸ばし、箱を見せた。中にはスライドがびっしり並んでいる
「殺す前に血を採取するんだ。相手に何故自分が死ななければならないのかを思い知らせてから、自分の胸にナイフを突きたてられる様を見せる。恐怖と痛みと苦痛の中で、52人が死んでいった。そのうち51人は行方不明者として登録されてる。遺体は絶対に見つからない」
ドヨンさんは僕のシャツのボタンを開け、胸骨の真上辺りを刃先でツーッと撫でた。赤い線が走る。彼は箱から未使用のスライドを取り出し、血を採取して箱に戻した
「ぼ、僕を殺すんですか」
「はは、さすがのキム・ジョンウも怖くなった?そうだよな、まだ子供だ」
ドヨンさんは前に回り込むとシャツのボタンを閉めた。そして微笑む。彼は童顔だ。ウサギのようにかわいらしくさえ思えるのに、叫び出しそうなほど怖い
「お前のことは殺さないよ」
「何故?……僕を生かしておけばあなたは死刑だ」
「お前は俺を売ったり出来ない。マークを愛してるのが本当ならね」
胸の傷から生暖かい血が流れている
「名前とマークは運命共同体なんだ。俺が疑われないように全力でアリバイを作ってくれる。もちろん俺にとってあの2人は最愛だから、何かあっても“洗脳された”で押し通して免責勝ち取るくらいの用意はしてある。でも名前はそれでいけても、マークは確実に刑務所に行くだろうね。情状酌量されたにしても、長年刑務所で過ごすことになる」
「マークに何をさせたんだ!!」
あの純粋な子に。可愛い天使のようなあの子に
「俺は何も強要しちゃいない。マークが俺に脅迫して言ったんだ……殺させろって」
「え?」
「父親を殺した残忍な高利貸しを殺すために俺を脅迫した。俺の“儀式”について黙っている代わりに、あいつは父親の仇の心臓にナイフを突き立てた。家族の庇護と愛情を得る代わりに、俺に協力してる。最初は打算だったけど、あいつにはもともと俺と似た感覚があったみたいだ。ないのは衝動だけ」
言葉が出ない。そして気が付いた。マークが僕とのデートにドヨンさんたちを連れて来たのは、僕がドヨンさんに殺されるべき人間かどうかを見極めるためだ
マークが僕に泣きそうな目で本当のことを教えてくれと訴えたのは、僕がドヨンさんに殺されるかもしれないと案じたからだ。あの子は友人として、そして親を殺された苦しみと怒りを理解するものとして、僕を助けようとしてくれた
……マークが好きだ」
やっと絞り出せた言葉はこれだった。視界が滲む
「マークのそばにいたい。愛してくれなくたっていい。名前を呼んで欲しい」
するとドヨンさんはナイフを下げ、デスクに凭れて箱を指でトントンと突いた
「今はまだ殺さない。でもそれはマークのためでしかない。俺なら義父を死に追いやった自責の念でお前が命を絶ったように見せかけられるし、あるいは逃げたようにも見せかけられる。同僚を誘導する自信もある」
彼は前から僕を抱き締めるようにして、後ろ手に拘束された僕の手から手錠を外した。そのまま引き寄せ強く抱き締める。骨がなるほど、息が出来ないほど
「命も、人生も、未来も、全てを賭けてマークを守れ。あの子のために全てを犠牲にしろ。絶対に見返りを求めようなんて思うなよ、あの子が自分からお前に心を寄せるまで待つんだ」
……ッ」
「あのスライドは契約だ……あの子を少しでも損なうようなことがあれば、その時こそお前を殺す」



―――俺はずっとお前を見てるぞ


喫茶店のドアを開けると、店主が驚いたような顔をして、やがて微笑んだ
「いらっしゃいませ、最近来ないから心配してたよ。マーク、お客様をご案内して」
僕の顔を見たマークは、その子供のような目からふわーっと涙を溢れさせ、勢いよく抱き付いて来た。背中をグーで叩かれているが、あまり痛くない
「ごめんね」
ッ」
「試すようなことをしてごめん。僕はこう見えて臆病者なんだ。だから結局計画通り国を出ることも出来なかった」
……僕こそごめんなさい。あんなことする権利、僕にはないのに」
知ってるよ、お前が僕と同じってことは
でもごめんね、そのことを言って安心させてやることは出来ないんだ
―――俺と会ったことは言うなよ。お前は何も知らない。マークの過去も、俺たちの秘密も
「マークのそばにいたい。友達でもいい。仲良しのヒョンとしてでも」
「ジョンウさん
「マークのそばを離れる勇気が出なかった。だからまた会いに来た。想いを受け入れてくれなくてもいい。都合のいい存在として利用するんでも構わない。だからそばにいさせてほしい。マークが笑うのをそばで見ていたいし、泣いていたら抱き締めてあげたい」
……ジョンウさんとまったく同じ気持ちとはまだ言えないけど、僕はジョンウさんのことが好きだよ」
精一杯誠実に答えようとしてくれている。本当に可愛くて純粋な子だ。僕は思わず彼を抱き締めた
「大好きだよ、マーク。僕がお前を何があっても守ってあげる」


お前を傷付ける何かから
お前を泣かせる誰かから
お前を怯えさせる何者かから






血の契約なんて関係ない。あの悪魔からさえも、僕はマークを守ってみせる


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.