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[古論P♀]Resort

全体公開 2 2097文字
2018-05-08 12:55:48

「せっかくのリゾートなのですから、もっと色々な事をしてみましょう」

クリスさんと水上ヴィラで過ごす少し大人な休日。

Posted by @toasdm

 海から上がったそのままをタオルでざっと拭きあげながら、クリスは彼女の待つテラスへと足を踏み入れる。潮風がパラソルを揺らす午後の光は燦々と、二人の過ごす水上ヴィラへと惜しみなく降り注いでいる。おかえりなさい、いかがでしたか?と微笑みかける彼女の隣、デッキチェアに腰掛ける前に彼女の頬に軽くキスをして、クリスは満面の笑みでそれに答える。
 「ええ、最高でしたよ。透明度も高く、まるで私を待っていたかのようにコバルトの群れが目の前を横切るのです」
 本当に満足したのだろう、その笑顔は昼なおまぶしく輝いていて、彼女はつられて笑顔になる。ふ、と息を漏らしながら口元に手を添えて、クリスは穏やかに言う。
 「あなたは、いつ見ても笑顔ですね」
 「ふふふ、そうですか?」
 きっとクリスさんが笑顔だからつられてしまうんですよ、と微笑む彼女に愛おしさを募らせ、クリスは立ち上がり彼女を抱きしめて幸せそうにため息をつく。
 「本当にあなたくらいですよ、海以上に私の心をこんなにも、波立たせるのは」
 「わぁぁクリスさん、冷たいですっ」
 「あ、ああ、失礼しました」
 長い髪もアンダースーツも濡れたまま抱きしめたせいで、彼女の白いワンピースはところどころに海の痕跡を染み付けている。シャワーを浴びるまで待てませんでしたよ、と笑って彼女を解放したクリスは着替えを手にバスルームへと向かう。風と海鳴りとクリスの鼻歌をBGMに、彼女はテラスで読書を再開した。久しぶりに長期連休を取ることができた大人の二人の休日。水上ヴィラは海にせり出していて、梯子からすぐに海に潜ることのできるスタイルだ。きっとクリスが喜ぶだろう、と予約を取り付け訪れた人気のない初夏の海、クリスは到着するなり海にもご挨拶をと飛び込んでいったのだ。喜んでもらえてよかった、とページを繰りながら、彼女もしばし、プロデューサーとしての自分を下ろして気ままに過ごす。ずっと読みたかった本を読むには、ロケーションは最高だ。しばし時間を忘れて読書に没頭する彼女の肩に、ふわ、ときらめきが掠めていく。
 「私というものがありながら、本に浮気ですか?」
 鼻腔をくすぐるシャンプーの香り、少し広めに開いた肩口をサラサラと撫でる優雅な毛先。本に夢中になっていた彼女を後ろから抱きしめて、クリスはいたずらそうに笑っている。冗談めかした口ぶりから察するに、彼は今、とても機嫌がいいのだろう。斜め後ろを振り向くと自然と重ねられた唇から、ふふ、と笑う声が零れる。
 「せっかくのリゾートなのですから、もっと色々な事をしてみましょう」
 「ど、読書は、だめですか」
 突然の出来事に少し驚きながらも彼女は、浮かれた様子のクリスにつられて心を躍らせる。もちろん読書もいいですが、としおりを摘んで本にはさむと、クリスはそれを彼女の手から取り上げて閉じ、デッキテーブルに優しく置いた。
 「ですがどうせなら、今このときにしかできないことを、してみたいのです」
 確かガイドブックが、と背中から離れてクリスはベッドにスーツケースを開いて広げる。読書を邪魔された仕返しくらい、と彼女はにまりと口元を歪めて、その大きな背中に思いきり飛びついて、うなじに顔を埋める。
 「おっと」
 いきなり飛びついてもびくともしないしっかりとしたクリスの肉体から、この上なく品の良い香りがふわりと漂ってくる。シャワーを浴びたばかりのまだ湿り気のあるこの瞬間だけのその香りに、彼女は胸を高鳴らせながらぽつりと呟いた。
 「クリスさん、いい匂い」
 潮の香りですか?とくすくす笑って、見つけたガイドブックを片手にクリスは彼女を振り向いて、ベッドにそのまま仰向けに倒れこむ。胸に引き寄せた彼女の頭を自分の腕の付け根において、腕枕の姿勢のままガイドブックを広げて覗く。
 「行きたいところはたくさんありますが」
 クリスはそれを急に横に置いて、ぐるりと体を回転させて彼女を上から見下ろした。
 「……今、この瞬間にしか、できないことをしたいです」
 ちゅ、と音を立てて重ねた唇を離して、クリスは熱っぽく彼女を見つめてからにっこりと微笑む。今しかできないこと、の意味を瞬時に理解した彼女は目を白黒させながら、待って、と慌て始める。またくすくすと笑うクリスは、冗談ですよと彼女の上から離れて立ち上がり、彼女の手を引いて体を起こす。
 「そういうことは、夜にしましょう」
 まずは周囲の散策です、と外へ誘うクリスに、からかわれた!と憤慨する彼女は再び背中に飛びついて、またその香りを深呼吸して胸に吸い込んだ。先ほどとは少し趣の違った香りがしたような気がして、その香りの正体が自分のものだと気がついた彼女はうわ、と声を上げる。恥ずかし、と小さく呟く彼女を背中にぶらさげて、このままではお散歩ができませんよと笑うクリスに促されてから、彼女はやっと自力で立って、玄関の方へと歩き始める。ベッドの上からガイドブックを拾い上げて、行きましょうか、と差し出されたクリスの手をとって、リゾートの散策はゆったりとスタートした。


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