「約束だ、俺があんたのこと、アイドルの一番星を一番そばで支えた女にしてやるよ!」
自分の気持ちや理由が決まらずもやもやする輝さんをばしーんっ!と励ますPさんとお約束するお話です
@toasdm
元々が、前職が白黒はっきりつける仕事だったから、っていうのもあるかもしれない。彼はそんな風に思いながら、自分の中に抱えた気持ちを自覚して、悩んでいる。もしかしたら、きっと、多分、恐らくは――そんなあいまいな言葉を頭に持ってきてしまうくらいには、輝は自分の気持ちに自信がない。迷っているのかもしれない。あるいは、秘密にしておきたいのかもしれない。はっきりさせてしまうのが怖いから、今のこの関係から離れてしまうのが、怖いのかもしれない。自分の気持ちの理由すら『かもしれない』なんて情けない、らしくない、とため息をついて缶コーヒーを飲み干し、屋上から空を見上げる。都会の空気に薄く霞んではいるが、頭上には明るい星がちらほらと、瞬いている。
逃げずにまっすぐ生きたい。その気持ちはアイドルになった今でも、変わらない。あの空に輝いている一番星に、どんなに明るい場所でも輝きを失わない一番星に。あの時志した自分に今なれているかどうかは、わからない。それでも、信頼しあえる仲間と出会って、背中を押されて前に向かって走り出している自分は少なくとも、この明るい空でも認識できる、今自分の目に映る星々のようにこの世界に存在感を残せていると思う。……それを、自分の理由を支えて叶えてくれたのは、プロデューサーだ。満足なんてしない、もっと前に、上に、彼方に未来に、と進む自分の背中を教えてくれているのはプロデューサーだ。――恐らく、多分、自分はプロデューサーを一人の女性として、好きなんだと思う。
「っだあーーー!ハッキリしねぇ!」
苦手なんだよ!と後頭部をがしがしと掻き、なんでこんなに、と今もちらつく彼女の顔を思い浮かべながら輝ははっきり決められない自分の気持ちを投げ出したい気持ちでいっぱいになる。別にいいじゃねぇか、好きになっちまったもんはしょーがねぇ!と開き直る自分と、仕事とプライベートはきっちり分けろ、と桜庭のようなことを言う自分とがせめぎ合って、夕暮れから少し進んだ事務所ビルの屋上で輝は何度目になるかわからないため息をついた。
「あ!こんなとこにいたんですか!」
駆け寄る足音と声に、輝は目を見開いてうぉ、と漏らして振り向いた。あんたのせいだよ!と彼女にしてみれば理不尽な八つ当たりのようなものをぶつけそうになりながら、お疲れ様です、の声にそのまま、お疲れさん、と返した。
「ぜーったい悩んでますよね」
はい、と差し出された缶コーヒーはいつも輝が好んで飲んでいるもので、あんたは缶コーヒー一本でも俺のハートを掴んでくるんだな、と心の奥底で思いながらもそれを無言で受け取り、輝はため息をついた。
「私では力になれないでしょうか?」
「……いや、はっきりしねぇっていうかさ」
小首をかしげてこちらを見上げるその仕草も勘弁してくれ、と仕方なく天を仰いだ輝の背中を、彼女はバシンっ!と思いっきり叩く。
「うおぁっ!?」
「らしくないです!はっきりしないなんて!!もっと元気を出して!!」
一番星になるんでしょう?と輝を鼓舞する彼女の存在が、たった一本の缶コーヒーで自分をここまで惹きつけるなんて思いもしなかった。何気なくひっくり返した缶コーヒーの底面には、彼女が描いたであろう星のマークが三つ並んでいた。そこにあったのは思いやりと優しさだ。
「底だけに、ってな」
「え?」
なんでもねーって、と笑う輝が小指を差し出して、約束だ、と彼女に微笑みかける。
「約束だ、俺があんたのこと、アイドルの一番星を一番そばで支えた女にしてやるよ!」
高みに連れてってやる、と笑う輝と指を絡めて、彼女はやっと元気を取り戻した輝にほっと一安心する。その笑顔にも弱いんだよなぁ、と自嘲した輝はそのまま小指を引き寄せて、彼女の細い指先に軽く唇を触れさせた。今は仲間としてのこの行為がいつか、俺が目指した場所を超えたら――その時は、と胸に熱を秘めて輝は絡めた指先をそっと離して、コーヒーの缶を開ける。一口飲んだそれはいつもと同じ味なのに、いつもより少し胸にくる。
……待っててくれよ、プロデューサー。風邪引かないでくださいね、と屋上から立ち去った彼女の消えたドアを見つめながら、輝は気持ちを固めてそれを飲み干した。いつか、ちゃんと。白黒はっきりついたぜ、と立ち上がり輝も、屋上を後にする。濃紺の空に瞬く星だけが、その決意を密かに見守っていた。