@toasdm
暑い。昼の時間が徐々に削り始めてだんたん短くなる夜。熱帯夜にはまだまだ遠く及ばないけれどエアコンを稼動させるほどでもないような、でも窓を開けただけでは快適にはならないような、そんな季節のエアポケットに突入するこの時期。ただ気温が高いだけなら薄着になったりすることでやり過ごせるけれども、この蒸し暑い湿気が私の不快指数を上げていく。いっそだらだらと汗をかいたのなら、もう一度シャワーを浴びてすっきりしてから眠りに就くことも考えたけれども、でもそこまでする必要もないような、そんな微妙な夜。口をついて出てくるのはずっと同じ言葉だ。
「暑い」
「そう?」
文字通り、涼しい顔をして圭さんは窓際に腰掛けて、ぼんやりと外を見上げている。暑くないんですか、とそばに寄っていってわざとへばりついてみても、横顔は涼しいままで、うん、と穏やかな返事が返ってくる。たまに、この人は実は人間じゃなくて妖精かなんかなんじゃないだろうかと思うことがある。促さなければあまり食事も摂らないし(忘れてしまうらしい)暑い寒いにも敏感な方ではない。くっつきにいったこっちが暑くてやりきれなくなってしまうくらいの蒸し暑さだというのに、この妖精もどきは離れようとした私の体をぐっと抱き寄せたりするのだ。
「暑いです、圭さん」
「僕はそうでもないから」
「私が暑いんですよ」
「じゃあ」
私を抱き寄せた腕はそのまま、空いている反対の腕をするすると伸ばしてきた圭さんは、私と目線を合わせてにっこりと微笑みながら手をパジャマのボタンにかける。
「脱いだら、涼しくなる、かな?」
「ちょ、あの!」
そんなわけないでしょ、とうろたえる私を抱えた腕はその細さを裏切る力強さで私をしっかりとホールドしている。ボタンを外しにかかっている手は繊細で陶器でできているみたいに滑らかなのに、力の強さと強引さは男の人のそれだ。心拍数の上がる私などおかまいなしに圭さんのしなやかな指先はぷつ、ぷちとボタンを外していく。
「脱いでも暑いのは変わらないですから!」
「変わると思うよ?」
おもむろに私を解放した圭さんは立ち上がって、今度は真正面から私を抱きしめる。息が出来なくなるほど強く抱きしめられて、なんだか頭がぼんやりしてきた。
「…もっと、暑くなるかも」
なにするつもりなんですか、の言葉を飲み込むような優しくて強いキスが降ってくる。シャワーならまた浴びればいいよね、と微笑む圭さんは少しも汗なんてかいてなかった。