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[握P♀]自称強面

全体公開 2 1970文字
2018-05-20 16:00:08

別に、手まで繋ぐ必要、なかったよな?」

ナンパに絡まれていたところを英雄さんに助けてもらうお話です。

Posted by @toasdm

 「ちょっといいか?」
 後ろからしつこく付きまとってきていたナンパ男の更に後ろから、聞き覚えのある声がして私は思わず立ち止まって振り返る。んだよ、と苛立たしげな男の後ろ、怖い顔をした握野さんがナンパ男の肩に手をかけて呼び止めている。握野さんは私をちらっと見ると一瞬だけどにやっと笑って、目だけで任せろと私にコンタクトを送っている。
 「君、お姉さんの知り合いじゃないよな?さっきから見てたぞ」
 「だ、だったらなんだってんだよ」
 軽薄そうな声に軽薄そうな出で立ち、無視すればいいやとやり過ごしていた、いっそわかりやすいほどにわかりやすいナンパ男は握野さんの詰問口調と怖い顔つきにビクつきながらも、食ってかかるような態度でそれに応じている。
 「軽犯罪法第一条二十八号、他人の進路に立ちふさがって、若しくはその身辺に群がって立ち退こうとせず、または不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人に付きまとった場合は拘留もしくは科刑に処する。お姉さん迷惑してるだろ?君の声かけは五メートル以上にも及んでた、軽犯罪法違反になるぞ」
 握野さんの口から淀みなく出てくる言葉には説得力があって、法律の事はよくわからないけれど私までびくりとしてしまう程の凄みがあった。現行犯逮捕、の言葉に慌てたナンパ男は逃げるようにその場を去って、私はほっ、と胸を撫でおろした。あれ、でも……
 「あ、握野さん、あの」
 「プロデューサー、無事か?」
 ナンパ男が去っていった方を睨みながら、握野さんはふぅ、と息を吐いて私に声をかけてくれる。ありがとうございました、とお礼を言いながら、私は疑問を口にした。
 「でもあの、握野さん今はアイドルだから、警官じゃないから、逮捕は……
 「んっ?あー、現行犯の場合は一般市民でも逮捕権があるんだぞ?」
 「え、そ、そうなんですか?」
 知らなかった、と感心する私の頭に大きな手をがしっと乗せて、握野さんは知らなかったろ?と笑っている。よく、自他共に認める怖い顔、なんて言っているけれど、どちらかというと怖いというよりは精悍な顔つき、というのが私の意見だし、こうして屈託なく笑う握野さんの表情はとても安心する。特に、あんなしつこいナンパの後だと。
 「ま、三十万以下の罰金に該当する時は犯人逃亡の恐れがある場合に限られるんだけどな!」
 プロデューサーが無事でよかったぜ、と笑いながら私の手を取る握野さんは、少し照れたような表情で、送るよ、と私を見つめる。
 「押しに弱そうだったからハラハラしてたんだぞ?あんなのに連れてかれたらどうするんだ、って」
 私の手を引きながら、握野さんは夜の街に目を光らせるようにして歩く。すぐに声をかけてくれたから助かりました、と安心感から溢れた私の笑いに、気をつけろよ、と真剣な声で言う握野さんは駅まで私を送ると、ぱっ、と手を離してからうわ、といきなり声をあげた。
 「別に、手まで繋ぐ必要、なかったよな?」
 俺の顔怖いから、とさっきまで私の手を握っていた手で今度はがしがしと、頭をかいている。今まで気付かなかったくらい自然だったから、急にそんな事を言われると私としても恥ずかしいというか、なんというか。
 「いえ、あの……お、おっきい手、って、安心しますから」
 「そ、そうか?そうだよな、うん!」
 急にぎこちなくなる態度も恥ずかしさを増長して、一気に熱くなる顔を見合わせて、私達はどちらからともなく笑った。
 「それに、握野さんの顔は別に、私怖いなんて思った事ないですよ」
 「そそうか?」
 「はい、なんか特に今日はかっこよかったです、ヒーローみたいで」
 驚いたような顔は、よく見ると確かにキリッとした目元とか歯並びとか、パーツは怖いかもしれないけれど、でも。
 「顔は怖くても、表情や心が優しいことは、プロデューサーである私がよく知っていますし、自慢のアイドルです、か、ら……
 「そうなら、いい、な……
 こんな、こんな恥ずかしい気持ちになるなら、言うんじゃなかった、と思うくらいに恥ずかしい。言葉に嘘はないけれど、口に出すと恥ずかしくなる。きっと、目の前の握野さんが、今まで見たことないくらい照れてるせいだと、思いたい。あーーー、と小さく叫んだ握野さんが、照れ笑いのまま、また私の頭に手を乗せてわしわし、と撫でてからぽつりと呟く。
 「さっきまで、顔が怖くてよかった、なんて思ってたんだぞ?そんな風に言われたら、かっこいいとこ見せたくなるだろ!」
 よしっ、と気合を入れるように踵を返して、握野さんはまたな、と手を振る。もう十分かっこよかったです、とは言えずに私は、その背中を見送った。頭と手に残る、自称強面の優しい温もりは、なかなか消える気配がなかった。


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